パピヨン/Papillon
アンリ・シャリエールの実体験を綴った同名小説の映画化。入ったら二度と出られないという南米仏領ギアナの刑務所に送られた主人公が自由を求めて脱獄を繰り返し、遂には成功するまでを描く。主人公とその親友を名優スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンが演じる。監督は『パットン大戦車軍団』のフランクリン・J・シャフナー。名作の名に恥じないエンタテインメント巨編だ。 |
自由のために闘う不屈の精神力 |
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流石の名作だ。1973年公開と、既に37年もの歳月を経過しているが、アンリ・シャリエールの実体験が原作だけあって実にリアリティに溢れ、かつ壮大なスケール感は今時の作品に何ら遜色ない。見応え十分で151分の時間をまるで感じさせないどころか、最後には若干急いだかのようにすら感じられた。そして何より主演のスティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの名優2人が言うまでもなく素晴らしい。この当時S・マックイーン43歳、D・ホフマン36歳。とはいえ既にベテラン俳優の域に達していたマックイーンに対して、ホフマンは『卒業』でオスカーノミネートはされたものの、まだキャリアは浅い段階だった。そんな2人が囚人役を演じ、送られたら二度と生きては帰れないと言われた南米仏領ギアナの監獄からの脱出を描いたのが本作だ。
タイトル「パピヨン」はそのまま主人公の名前であり、理由は胸に蝶の刺青をしていたから。パピヨン(S・マックイーン)とルイ・ドガ(D・ホフマン)は監獄に送られる船の中で出会い親しくなる。ドガを襲おうとした荒くれモノをパピヨンが追い払ったからだ。見るからに強そうなパピヨンと経済事犯ゆえにひ弱な感じのドガというこの凸凹コンビが妙にコミカルな感じを与えてくれる。サン・ローランの監獄に入ってからも、獄吏の買収に失敗したり、そのおかげでジャングルの奥地で強制労働をさせられた挙句、素手でワニを捕まえろなどと無茶を言われたりするのだが、文字で書くと悲惨なのだがパピヨンとドガがワニを前に「後ろにいけ、いややっぱり前だ、いややっぱり…」なんてやり取りを観ているとこれが思いのほかに笑ってしまう。
ところが、凄まじいのはここからだった。この監獄にはルールがあり、それは1度脱獄をしたら2年の独房暮らし、2度目は5年、そして3度目にはギロチンというもの。入所時に見せしめにギロチンでの処刑の様子が映し出されるが、囚人の顔を見上げる形のアングルで上から刃が落ち、切断された首が鮮血とともに手前に転がってくるという映像は、CGなどない当時の映像でも恐ろしく迫力があった。ちなみに独房といってもいわゆる日本の刑務所の独房とはレベルが違う。そう、『インビクタス 負けざる者たち』で登場した南アフリカのロベン島でネルソン・マンデラ氏が収容されていた独房が恐ろしく快適に見えるほどの代物なのだ。独房では扉から首だけ出して点呼を受けるのだが、パピヨンは隣の房の住人に「おい、俺は元気に見えるか?」と問われる。
青白い顔には死相が漂っているのだが、パピヨンは戸惑いながらも「ああ、元気そうだ。」と答える。そして後にこれと全く同じやり取りをパピヨン自身が隣の房の人間とすることになるのだ。看守に上手く取り入ったドガから椰子の実を差し入れられていたのがバレ、犯人を吐かなかったパピヨンは独房に差し込む光すら遮断される。ムカデやゴキブリを僅かながらのスープに混ぜて飲み、必死で生き延びるパピヨンの鬼気迫る表情。この独房シーンのマックイーンの演技は生への執念が漲り、凄まじい迫力で観るものを圧倒するだろう。元々自分の罪に比して、この監獄に入れられることに納得していないパピヨンだったが、この独房暮らしでより一層自由に対する渇望が強くなったのではないだろうか。独房での収容期間が終わったパピヨンは脱獄計画を練り始める。
一方で対照的なのがドガだ。もともと知能犯だけあって、看守長の自宅の使用人として雇われたりと、意外なほどの自由と快適な生活を送っていたりする。ただ、命の恩人であるパピヨンとの友情は全く変わっておらず、彼の脱獄計画をバックアップするのだった。もっとも運命の皮肉か、何故かその気はなかったのに一緒に脱獄することになってしまうのだが…。脱獄後に彼らを助ける人々、顔に妙な刺青をした男やハンセン病の島の首領、そして謎のインディオたち。次から次へと非常にテンポ良く展開するシーンは、まるでちょっとしたアドベンチャーだ。しかしアンチ・ヒーローの代表格であるS・マックイーンが、こうした怪しげな人々に助けられるものの、最終的に頼った修道院の院長に通報され再び収監されてしまうというのが何とも皮肉で面白い。
5年の独房生活を乗り切ったパピヨンを待っていたのは、周囲を断崖絶壁とサメに囲まれた悪魔島送りだった。今まで誰一人として脱出に成功した者はいない…。到着するとなんとそこにはドガが。彼が何故送られたのかは描かれていないのだが、既に諦めの境地で、少なくとも手枷も足かせもなく、自由に暮らせるこの島での日々に安住している。しかしパピヨンはこんな偽の囲われた自由などには目もくれず、本当の自由を得るために椰子の実で作った浮き輪だけを頼りに断崖絶壁から飛び降り荒海に乗り出していくのだ。絶対に諦めないその精神力と、自由に対する強烈な想いは正にアメリカらしさを体現しており、それをアメリカのハリウッドスターの代名詞とも言えるスティーブ・マックイーンが演じているところが実に象徴的だった。
個人的おススメ度4.5
今日の一言:昨年はマックイーン生誕80年でした
総合評価:86点
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『パピヨン』予告編
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