冷たい熱帯魚

『紀子の食卓』、『愛のむきだし』の鬼才・園子温監督が、“埼玉愛犬家殺人事件”をベースに人間の狂気と愛を描いた衝撃の問題作。主演は『掌の小説』の吹越満。共演にでんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、渡辺哲。第６７回ヴェネチア国際映画祭の上映では、６分間のスタンディングオベーションが起きたほど世界を震撼させた作品だ。
>>公式サイト

狂気の連鎖は止まらない…

　あらすじ・作品情報へ　

←みなさんの応援クリックに感謝デス

もはや凄いと言う言葉しか思いつかない。この感覚は韓国映画『チェイサー』を観た時に匹敵する。こんな作品を日本人が作れるとは、もはや驚きとしか言いようがありませんでした。流石はR18+だけあってこの毒は半端じゃありません。エロとグロ、狂気と愛情をエンタテインメントで包むとこうなってしまうのか…。エロはそのものズバリのセックスシーンにグロは人体解体・血の海に肉片、エスカレートする殺人の狂気は愛情の裏写し。ある意味観る人は覚悟してくださいね。ダメな人は気分が悪くなるかも。かく言う私もグロ系は大嫌いながら、何故かこの作品はスクリーンから目が離せなかったのです。それはそこに描かれた殺人鬼がいわゆるそこらのホラー映画に登場するような殺人鬼ではなく、敢えて言わせてもらうなら“面白い殺人鬼”だったから。何だか書いていてドンドン不謹慎になっていくような気がします…。

主人公の社本（吹越満）は小さな熱帯魚店の店主。家族は再婚した妻の妙子（神楽坂恵）と前妻との娘・美津子（梶原ひかり）の３人。ある日美津子がスーパーで万引きしたことをきっかけに、大手熱帯魚店のオーナー村田（でんでん）とその妻・愛子（黒沢あすか）と知り合い、彼らによって社本は二度と後戻りできない狂気の世界へと引きずり込まれていくと言う訳。もちろん最初は煩いけど人の良さげなオヤジを装う村田。しかし妙子を犯すあたりから徐々にその本性を表し始めます。といってもここもまた微妙なところで、妙子は妙子で社本に対する欲求不満が溜まっていたようで、犯されつつむしろ自らマゾヒズムに浸ってゆくと言う倒錯っぷり。元グラビアアイドル神楽坂恵の文字通り体当たりの演技です。ま、そもそも公称９２ｃｍのＩカップバストがこぼれそうなほど胸元が開いた服で村田と２人きりになるあたり、どう考えても普通じゃないですけど…。

簡単に言えば、村田は自分の金儲けを邪魔するヤツは情け容赦なく殺して証拠も残さない、彼曰く「ボディーを透明にしちまう」殺人鬼でした。本来社本はそんな手合いとの接点があるような男ではないのだけれど、グレる娘と後妻の立場を気にしてギクシャクする夫婦関係、そんな家庭の不和、言い換えれば彼の娘や妻への愛情、そこに村田はつけこんだのです。それを考えると物語冒頭の妙子の裏切りは余りに無情。さて、とんでもないことに巻き込まれている自分に社本が気付いたときには既に手遅れで、目の前で殺した人間を運ぶ手伝いをさせられてしまいます。この辺からはもうでんでん＆黒沢あすか大活躍。山小屋に連れて行って解体作業、それも適当なアカペラ唄いながら、気分は殆ど牛か豚でも捌いてるというノリ。「愛子！牛刀！」「あいよ！アンタ！」とか、何故だか良く解らないけれど絶妙な息の合い方に観ているこちらは只々ボーゼン。

当然解体場所の山小屋の風呂場は血の海で、そこに細かく刻まれた肉片が散乱し、村田夫妻は血まみれで笑顔…。社本に「美味～いコーヒー点てといてくれ♪」とかもう狂人を越えて一週回って常人？挙句に「社本！やってみるか？まあ、お前にはまだ無理だろ。向こうで休んどけ。終わったら呼ぶから！」などと彼の体を気遣う始末。一体全体この状況はなんなのだろう。何だか観客の分の狂気も全て社本が一人で被っているような気すらします。しかしまだこれは序の口。愛子は仲間で顧問弁護士だった筒井（渡辺哲）とデキていて筒井の家でセッセと不倫。筒井は筒井で村田を見限る日に狙いを定めて社本を仲間に引き入れようとしたり。倫理観のカケラも存在していないこの連中なのに、見ていてそう嫌な気分になるわけでもないのはもしかして誰しも持っているけれど、無意識の内に抑制がかかっている人間の本質、欲望を剥き出しにして描いているだけだから？

結局、村田は筒井の裏切りに気付き彼とその運転手・吉田（諏訪太朗）もろとも殺害。でも愛子が筒井と寝たことは別にまるで気にしていない様子…。切り取った筒井の性器をつまみあげて楽しそうに切り刻む村田。相変わらず楽しげに鼻歌を歌う愛子。「社本、お前もやれ。俺たちが死んだら今度はお前がこれをやらなきゃならないんだぞ！」って何の技の継承なんだよと。（苦笑）もーこの時点で脳みそ完全マヒ状態。しかし、真の狂気は実はこのあとにあったのでした。村田と妙子が実は寝ていたことを社本が知った瞬間、彼の中で何かが弾けるのです。これまでの狂気にひたすら耐えてきたのも、全ては家族のため。愛ゆえに耐えられていた精神が、愛がなくなった瞬間に崩壊した…。それまでのオドオドした態度が一変、冷静かつ強権的に変わると作中の空気も一変します。その様子はある意味では村田の暴力的な狂気が乗り移ったかのようでもありました。

そして迎える結末…。それはある程度予想は出来たことではありましたが、ここで恐ろしかったのは狂気は死して誰かに継承されるのかということ。いや、そもそも人間誰しも心の奥底に鍵をかけて閉じ込めているのだけれど、誰かがその鍵を開けたら簡単に表に出てきてしまうのではないかということです。園子温監督自らが“劇薬”だと言っているこの作品。しかし毒と薬は実は同じものでもあります。ヌルイ日常に活を入れるだけの衝撃を是非味わってみて欲しいのですが…。正直誰にでも奨められる作品ではありません。

個人的おススメ度5.0或いは1.0
今日の一言：ガツーンと効きました。スゲェ！
総合評価：90点

↑いつも応援して頂き感謝です！
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪

『冷たい熱帯魚』予告編