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2011年1月 4日 (火)

レバノン

Photo 2009年のヴェネチア国際映画祭金獅子賞授賞作品。1982年のイスラエルのレバノン侵攻が舞台。この戦争に実際に従軍したサミュエル・マオズ監督が自分の体験を元にして戦車の中から見た壮絶な戦場の様子を描き出した。非戦闘員であっても無残に殺されていく外の様子、精神的に追い詰められていく戦車の中の乗組員の様子にただ呆然と見入ってしまう。
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独特の演出で正に臨戦体験

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イスラエル映画といえばアカデミー外国語映画賞の『戦場でワルツを』を思い出しますが本作もそう。それも1982年のイスラエルのレバノン侵攻の時の様子を描いた作品です。何しろサミュエル・マオズ監督自身が実際に従軍しその体験を元にして描いているだけに、細かい部分の描写までリアル極まりない。登場するのは若い4人の戦車兵たちと、彼らが属する部隊の総指揮官だけなのですが、作品全体が戦車内の映像か戦車のスコープから観た外部の映像で構成されているという変わった演出がなされています。スコープの映像と言うと非現実的に感じられるかもしれませんが、逆に対象物を拡大してみたリできるので、まるで私たちが実際に戦車に乗っているかのよう。初っ端からショッキングなのがこの作品で唯一の戦車の砲撃シーンです。

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外部から戦車が砲撃する様子は今までも映画等でよく見ていますが、中からの映像は初めて。しかしそんな興味本位の気持ちをぶっ飛ばすほどのインパクトでした。テロリストの車に対する射撃命令にビビッて引き金を引けなかった砲撃手シムリック(ヨアヴ・ドナット)は、そのせいで味方兵士が一人死亡したこともあり、その後に通りかかった車には已む無く砲撃します。何かの荷物を積んだ車で、老人が手を挙げながら向かってきたのだけれど、命令に従って吹っ飛ばすと……それはただ鶏を運んでいた民間人でした。右腕と両足を吹き飛ばされて叫び声を挙げている老人に対して容赦なく刺される止め。もうこの序盤で呆然です。舞台は空爆をした町に向い残党の処理をするというのが任務。町の中心部に向かう間もスコープ越しに様々な映像が映し出されます。

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それは正に戦争の爪痕そのもの。人間だけでなく傷跡の肉がむき出しになっているロバのがアップになると、その目からはまるで「殺してくれ、楽にしてくれ」と言わんばかりに涙が流れていたのがショックでした。戦車兵は先ほどのシムリックのほかに3人、優柔不断な指揮官アシ(イタイ・ティラン)、反抗的なヘルツル(オシュリ・コーエン)、臆病な操縦士イーガル(ミハエル・モショノフ)です。戦車内という閉ざされた空間、居住環境としては最悪で、小便もトイレなどなくそれようの箱にする、こんな状況では戦争じゃなくても徐々に精神的に変調をきたしてもおかしくないのに、外で展開されているのはまさに地獄絵図。そんな状況下で必死で自分を保つために、何かに縋るかのような行動をとっているのが印象的でした。

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特に指揮官のアシは、自分の命令にヘルツルを従わせることで、己の戦車指揮官としてのレゾンデートルをひいては己自身を維持しようと必死。もっとも後半、自らに指揮官としての能力が無いことを認めてしまった彼は、その瞬間から惚けたようになってしまうのですが…。子供がテロリストの人質になり、殺されてしまった母親が兵士に当り散らすシーンも別な意味で印象的。スコープが彼女を観ていると、何かの燃え残りから彼女の服に火がつきます。兵士は彼女の服を剥ぎ取って毛布を被せるのですが、その僅かな間に彼女は下着だけ、その下着も脱げそうになり下半身が一瞬露になるのです。変な話ですが、何かを期待するかのようにスコープはその女を注視していました。こんな極限状態でも本能に従った行動は素直にでるのだなと。

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さて物語の前半はスコープ越しの壮絶な様子がメインでしたが、後半は戦車内の4人の姿がメイン。境になったのは、彼らが砲撃された時からでした。つまり彼ら自身が本当の意味で戦争を自分たちの死を意識した瞬間から、4人の中の精神的なストレスは凄まじいことになって行きます。監督もそのインタビューで「本当に必要なのは生き残るための本能だけであることを学ばされた」と語っていますが、酷な言い方をすればその本能をどれだけ理性で抑えられるかが本当の意味での兵士と一般人の境目なのかもしれません。実は彼らの部隊はいつの間にかシリア領に入り込んでしまっていて、急いで脱出する必要があるのですが、本能のままに行動するようになってしまった彼らはもはや疑心暗鬼の塊でしかありませんでした。ここで戦車内という閉ざされた設定が活きて来ます。

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無線も繋がらず外界から遮断され、敵が側にいるのかいないのかも解らない。ギリギリの精神状況の中で銃撃を受けた彼らはもはや恐怖に支配された子供と同じでした。ただもう喚きながら無理矢理戦車を走らせるのみ。当然その極限の緊張感は体験しなければ解らないものですが、徹底的に余分な情報をそぎ落とした演出によって、私たちはその疑似体験をすることが出来ると言っても良いかもしれません。90分というコンパクトな時間ですが、鑑賞後は思わず「ふぅ…」と息をついてしまうような作品でした。ちなみに最初と最後に出てくるヒマワリ畑は1970年公開の『ひまわり』へのオマージュだとのことです。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:戦車内って水浸しなのかな?
総合評価:77点

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『レバノン』予告編

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