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2011年1月19日 (水)

その街のこども 劇場版

Photo_2 昨年1月17日にNHKで放送された同名TVドラマの劇場版。子供の頃に阪神・淡路大震災を経験した若い男女が神戸で偶然の出逢いをし、お互いに負った心の傷をさらけ出しながらも再生していく。主演は『フィッシュストーリー』の森山未來と、『すべては海になる』の佐藤江梨子。監督は今年の朝の連続ドラマ『てっぱん』の井上剛。実際に震災体験者の2人の会話が実にリアルだ。
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ドキュメンタリーのようなドラマ

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1995年1月17日朝5時46分。あの阪神大震災から16年目の今年に公開されたのが、昨年の同時期にNHKで放送され話題を呼んだ同名ドラマの劇場版です。当時私は4月からの就職を控えた最後の休みを楽しんでいました。たまたま海外留学から帰国する妹を迎えに来た母親と共に3人で上野を歩いていた時に号外で震災の事を知ったのを今でもはっきり覚えています。余談ですがオウム真理教の事件が世を騒がせていたのも同じ時期でした。私の友人にも震災の被害にあった人間は何人かいますが、このドラマの主人公・勇治役の森山未來と美夏役の佐藤江梨子も実際に震災を経験した、まさに「その街のこども」。ちなみにこどもではなかったけれど、脚本の渡辺あやも震災経験者だそうです。

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勇治は建設会社に勤務していて、出張での途中でふと思い立ち神戸に立ち寄ることにするのでした。一方の美夏は翌朝行われる“追悼のつどい”に参加するつもりで新幹線を降ります。偶然出会った2人は結局翌朝までともに過ごすことになります。あの震災は悲劇ではあるけれど、それに対する想いは個々に異なっているのは当然でそれは2人が最初に入った居酒屋のシーンで顕著でした。震災後の復興で建築業をしていた勇治の父親は通常の10倍の値段を吹っかけて大儲け。勇治はそんな父親を自慢します。一方で親友とその母親を亡くしている美夏はその話に不快感を露にするのでした。話の内容もさることながら、余りに自然な2人の会話劇は、何やら本当に人の会話を盗み聞きしているような気分。

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この辺は彼らのネイティブな関西弁だったり、実際に震災に遭っているという経験から出ている言葉故の説得力とリアリティでした。そもそも演じている森山くん自身がそのインタビューの中で、「(前略)自分たちが震災について思い出したことをセリフにまぜながらやったので、台本とリアルの境目は難しかったですね」と語っている程。井上監督も、2人がその場にふっと現れたように撮りたかったそうで、『よーいスタート』と『カット』の掛け声がなかったのだそうです。恐らくこの最初のシーンの定義は最後まで守り通されていたのでしょう。勇治の言葉に起こった美夏は一旦は一人で店を後にするものの、結局2人で歩いて彼女の祖母の家に向かうことになります。

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人が全くいない線路沿いの道を歩きながら色々と語り合う2人。真夜中の散歩ではないですが、まるで世界にはこの2人しかいないかのようなシチュエーションは色んな想いを素直に口に出来る世界です。これは何も彼らに限った話ではなくて、誰しも1度位経験があるのではないでしょうか。無い方は是非一度試してみてください。夜の散歩は人の心を正直に、純粋にしてくれる効果があります。2人が歩いている途中、別に劇的な何かがあるわけではありません。友達のこと、会社のこと、父親への想い、震災への想い…。飾らない言葉で語り合い、それに対して変に解ったような答え方をせず、今時の若者そのままにライトに答える。これは本当に台詞なのか?観ていると彼ら自身の言葉に聴こえます。

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“追悼のつどい”の会場を前にして勇治は「今年はよしておく」と話し、美夏と別れるのでした。何故彼は参加をしなかったのか…。本当のところは誰にも解りませんが、ここまでの会話の中から推測することはできます。結局の所、子供の頃に震災を経験した人の中には長い年月を経た今でもまだ心の整理が出来ていない人もいるということなのかもしれませんし、或いは6000人を越える亡くなった方に対して、今を生きる自分に確たる自信が持てなくては合わす顔が無いということなのかもしれません。監督自身は震災未経験者ながら、「だからこそ伝わるものがあるのじゃないかと思う。」と言っています。監督の想いの全てを受け止めたなどとは言いませんが、確かに伝わるものがありました。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:あれから16年かぁ…
総合評価:79点

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『その街のこども 劇場版』予告編

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