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2011年2月 4日 (金)

369のメトシエラ -奇跡の扉-

369 監督を務めた小林兄弟はこれが長編初作品。テレビディレクターの兄・克人と俳優座出身の弟・健二の2人で立ち上げた映画制作会社の初作品でもある。主人公はアパートの隣の部屋に住む謎の老婆と出会い、徐々に閉ざしていた心の扉が開かれてゆく。主演の区役所職員を大垣知哉、謎の老婆を阿部百合子が演じている。派手さはないキャスティングだが、実力ある演技が見るものを惹き付ける。
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孤独は人間の生き方じゃない

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不思議な作品でした。そもそも“メトシエラ”とは何ぞや?どうやら旧約聖書に登場する最も長寿な人物らしい。969歳で死んだのだが、その孫がかの有名な“ノアの箱舟”のノアなんだそうだ。本作に登場するメトシエラは伊隅セツ(阿部百合子)という老婆。もちろん369は369歳な訳ではなくアパートの部屋が369号室だったから。といいつつも、彼女が出てくるのは物語が始って少し経ってから。最初のうちは区役所職員の武田俊介(大垣知哉)の孤独な生活が描かれています。殺風景なボロアパートで一人暮らし。観たところあるのは最低限の家財道具だけ。しかし、何故か武田が自殺から助けたというゲイの吉村俊樹(日和佑貴)が家に入り浸り。俊樹が自分にまとわりついているのを許しているのは自分の過去を一切聞かない、しがらまないからという武田。

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彼は「人と関わりを持たなければ自由でいられる」と語るのだけれど、それは何も武田に限らず今の世の中都会ではむしろそういう人の方が多いのではないでしょうか。この物語ではそんな武田を基点として何人かの孤独な人間が結びつき、それぞれの閉ざされた心の扉が開いてゆく様子が描かれていました。そこでセツとの出会い。アパートの隣の部屋から聞こえてくる不思議な子守唄に惹かれるように武田が彼女の部屋に行くと、セツは「自分は400年の長きを生き、唄にひかれる人間を待っていた。そして、その人間が現れたとき、自分はその人に添い遂げる」(公式サイトより)と告げるのです。もちろん400年も生きる人間などいる訳がありませんね。実際、認知症の疑いを抱いた武田が彼女の身元を調べるのだけれど、何と彼女には戸籍がありませんでした。

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一瞬観ているこちらも、「え?そういう話なの?」と若干オカルトを感じてしまったのですが、むしろことはそんなに簡単ではありません。セツの特殊な家系故に彼女が負わされてきた重い宿命、そしてそれから逃れて自由になったものの、戦争のせいで全てが無に帰し完全な孤独になってしまった彼女。人との関わりだけでなく、公式的に存在しない人である彼女の孤独は言うなれば究極の孤独です。それでも武田は頑なに人と関わらない生き方を選択しようとするのですが、そこで事件が起こります。俊樹の死。武田が自殺から救った俊樹。しかし彼は人と関わらずに生きてゆけるほど強い人間ではなく、むしろ人と関わることを望む青年でした。そういう意味では武田は俊樹にとって唯一無二の存在だったのかもしれません。

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頑なに自分の生き方を変えない武田は、俊樹に絶望をもたらしたと言えます。自分が人に関わらないことと、人が自分に関わらないことは別の話で、自分の生き方が他人に影響を及ぼしてしまうことがあるのは自明の理ですね。この事件で武田は変わります。言い換えれば俊樹は自らの命で武田の心の扉を開いたと言えるのかも知れません。そして武田はセツの望みどおり、セツとの結婚をきめるのでした。それはセツを究極の孤独から救い出すことに他なりません。別にそれをしたからと言って武田に何かの得があるわけじゃない。けれど、自分の行動が人を殺すことがあるのならば、自分の行動が人を生かすこともある、彼の想いはただそれだけだったのだと思うのです。ところがセツの家の事が解ってくるにつれて問題が持ち上がってくるのでした。

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実はセツの伊隅家は由緒ある家系で、真田雪村の隠し財産を守っているというのです。その額約60億円。その伝承が、即ちお金が周囲の人間の偽善振りを見事に浮き上がらせるのでした。結婚詐欺ではないかと疑われ、弁護士やら老人介護の専門家やらに言いたい放題言われる武田。もちろん現実的にこういった方々がみな偽善者だとは言いませんが、例えば昨年問題になった消えた老人問題などは、この種の人たちは一体どう説明するのか。まして、老人介護施設に入るのが老人にとって幸せなことなのだなどという決め付けは、失礼千万極まりない。そんな人たちを前にして、いつでも言いたいことがあれば言いに来ればよいとタンカを切る武田には喝采を送りたい気分になります。物語はこの後も続きますが、それはもうエピローグと言って良いでしょう。

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武田の同僚・江本由美子(別府あゆみ)が彼の家を訪ねてきたとき、既にセツはこの世にいません。彼女に語って聞かせる形で、短いセツとの生活が回想されます。本作はぴあの満足度調査で『RED/レッド』や『冷たい熱帯魚』を抑えて1位を取ったそうです。それだけ武田やセツの抱える孤独感、そしてそんな孤独な者同士が繋がり合い心が再生されていく姿に共感を覚えた方が多かったのでしょう。正直言ってキャスティングも地味ですし、お金の掛かっていない作品ですが、作り手の想いがたっぷりこもった作品でした。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:縛られてもいいから孤独は嫌です
総合評価:70点

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受信: 2011年2月 8日 (火) 00時06分

» 369のメトシエラ -奇跡の扉- [シネマDVD・映画情報館]
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受信: 2011年3月 3日 (木) 15時14分

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