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2011年2月28日 (月)

アレクサンドリア/Agora

Photo_4 4世紀のエジプトはアレクサンドリアを舞台に、女性天文学者ヒュパティアの悲劇の運命を描いた歴史ドラマだ。主演は『ラブリーボーン』のレイチェル・ワイズ。共演にマックス・ミンゲラ、オスカー・アイザック。監督は『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバルが務める。当時のアレクサンドリアを再現したダイナミックな映像がすばらしい。
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4世紀末のローマ帝国、エジプトはアレクサンドリア何てキーワードが揃うと、その昔の『十戒』や『ベン・ハー』のような歴史スペクタクル巨編を思い浮かべたのですが、ちょっと様相が違っていました。本作は実在した女性天文学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)の半生を描いた伝記ドラマの側面と、多神教からユダヤ教、キリスト教と移り変わる宗教と国家・民衆との関わりを描いた宗教歴史ドラマの側面がありました。実は作品のテーマとしてはそれほど奇抜なこともないのですが、上映時間2時間7分を観終わった後には疲れがドット出た感じ。つまり、歴史的な興味としては面白くても、信仰に対してポジティブな観念を持たない大多数の日本人の一人としては、この手の宗教的不寛容さが巻き起こす騒動に対して、どうしてもある種の虚しさを覚えてしまうのです。

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宗教的な側面では、ギリシャ神話の流れを汲む古代ローマの多神教を、台頭してきたユダヤ教・キリスト教という一神教が駆逐、やがてキリスト教はユダヤ教をも駆逐する様子が描かれます。ちなみに当時のローマ皇帝は自らの王権の正当性を担保するためにキリスト教を利用しようとしたと言われていますが、おかげでキリスト教は政治権力の上に位置する形で力をつけて行くことに。そしてそれは帝国の地方都市であるアレクサンドリアでも同様でした。そんな流れの中「信仰の押し付けは受け入れない」と断言してしまうヒュパティア。もちろんそれが理由で彼女は「神を冒涜した!」「魔女だ!」と言われ、悲劇的な結末を迎えてしまう事になるのですが…それは先の話です。彼女がキリスト教を拒絶したのは別に多神教を崇拝していたからではありません。

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当時は地球は平らであり、地球の周りを全ての惑星が回っているといういわゆる天動説が当たり前。しかし彼女は地動説を証明しようと躍起になります。つまり極めて論理的な思考を取る彼女にとって、打算のための信仰や、政治的栄達のための信仰は認められないということなのですね。自らの命に危険が迫っている中で、惑星が楕円軌道をとっているのではないかという考えにたどり着く彼女。そんな彼女の姿は、信仰に縋り、信仰を全ての行動の規範にしていた当時の人々に比べて余程現代的であり先進的なだけに、観ていて素直に好感がもてます。さて、次に本作をヒュパティアという一人の女性天文学者の伝記的な側面から観ると、今度は彼女を想う2人の男性の姿が浮かび上がってきます。それがダオス(マックス・ミンゲラ )とオレステス(オスカー・アイザック )。

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ダオスは元々ヒュパトスの家の奴隷で、多神教をキリスト教が駆逐した暴動の際に、彼女から自由をもらいキリスト教修道兵になります。一方オレステスは彼女の元教え子で、後にキリスト教の洗礼を受け、アレクサンドリアの長官に。劇中では自分の求愛に、自らの経血の付いた布を渡され断られるショックを受けるオレステスや、身分の差で叶わぬ恋に苦しむダオスが描かれていますが、それはヒュパトスが男を歯牙にもかけないというより、ただ純粋に学問の道を追求することに全てを賭けていたことを際立たせる演出になっていました。それにしてもレイチェルの美しく凛とした顔立ちは、物語が描こうとするヒュパトスのイメージとピッタリと重なっていました。古今東西男という生き物は、自らが納得できない理由で女に振られた場合、大概その女の事を嫌いにはなれません。

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いやむしろずっと好きであり続けることのほうが多いです。再三に渡るキリスト教への改宗を拒み続ける彼女を庇うオレステス、街中を歩く彼女を思わず凝視するダオス。しかし彼女の悲劇がその2人のうちの一人、オレステスの愛が原因だったことは実に皮肉としか言いようがありません。先にも書いたとおり、政治権力を支配しようとするキリスト教にとって、アレクサンドリアではオレステスこそがその政治権力に他ならなく、キュリロス主教(サミ・サミール)は何とか彼を追い落とそうと画策するのでした。そこで目を付けられたのがヒュパトスという訳。大体信じるか信じないかの黒白二者択一で割り切れるほど人間など単純ではないと思うのですが。聖書の言葉が絶対で、それと違うものを認めない偏狭な考え方は実に不愉快。もっとも偏狭で不寛容なのが宗教なんでしょうけど。

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従って、信仰を裏切れず、結局は彼女の命を失わせてしまう2人の男の悲痛な姿をみても、「なら全て捨てて彼女と逃げたらいいじゃない。」としか思えないのです。愛だの恋だのよりも自分の信仰が上位にくるというのならば、そんなものを全く信じていない人間から言わせて貰うと「じゃあ仕方ないね。」としか言いようがありません。結局こういった作品の場合、何をどのように感じようとも、結局本質は信仰を持っている人間にしか解らないのは明白。だから最初に書いたようにある種の虚しさばかりが残ってしまう…。本作は純粋な歴史物語として史実を楽しむのなら、お金のかかった美術や衣装は非常に良く出来ていますし見応えも十分です。しかしドラマとしては無宗教の人間には向かないと思います。

3月5日(土)公開

個人的おススメ度3.0
今日の一言:ローマ時代なら戦争モノが観たいなぁ…
総合評価:63点

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