« バレッツ | トップページ | サラエボ,希望の街角/Na putu »

2011年2月24日 (木)

トスカーナの贋作/Copie conforme

Photo 『桜桃の味』で第50回カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたアッバス・キアロスタミ監督最新作。イタリアのトスカーナ地方を舞台にであった画廊を経営する女性と、イギリス人作家が、ひょんなことから偽りの夫婦を演じる羽目に…。主演は本作で2010年のカンヌ国際映画祭女優賞を獲得したジュリエット・ビノシュとイギリスオペラ界を代表する歌手ウィリアム・シメル。
>>公式サイト

解らない過程を楽しめばいい

 あらすじ・作品情報へ 

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへみなさんの応援クリックに感謝デス

01

何と大人の会話劇だろう!しかしその始まりは誰もいない講演の席をずっと映し続けると言う、文字通り嵐の前の静けさのようなカットから。いや、正確には講演会であることすら最初は解らないのです。やがて主催者が主賓が遅れていることを継げ、そして本作の主人公の一人であるイギリス人作家ジェームズ(ウィリアム・シメル)が登場し、著作「贋作」に関して話し始める…。そこに子連れでやって来たのが彼女(ジュリエット・ビノシュ)でした。ここからゆっくりと話は動き始めます。最初にちょっと気になったのは、彼女がリザーブ席と書かれた席に座ってしまったこと。いわゆる映画の試写会などでみられるような招待席、或いは関係者席のように見えた席に座る彼女はもしかしてジェームズとは知り合い?ところが彼女は途中退席してしまうのだから、話が見えなくなってくる。

02 03

良くは解らないけれど、息子は出たくて仕方ないらしい。彼女は主催者になにやらメモを渡して名残惜しそうに会場を後にします。やがて彼女のやっているギャラリーにジェームズが訪れると彼女は彼をドライブに誘うのでした。彼は9時までに戻るという条件で出かけます。この時の彼女の服装が妙にエロチックなのも注目。ジュリエットはその豊かな胸の谷間を強調するかのようなドレスをきていて、どうしても目線はそこに行ってしまいます。もっともそれは観客の男性諸氏のためではなく、もちろんジェームズのためなのでしょうけど。(笑)ドライブの最中2人は“本物と贋物”に関しての議論をし始めます。初めてあった著名人とこうして議論の交換を楽しめるというのがいかにも欧米人らしさを感じました。面白いのがこの時のドライブ映像。

04 05

何と運転席と助手席に乗る2人を車外正面から延々と撮り続けているのです。フロントガラスに映りこむ両サイドの建物、まるでトスカーナの街中を見上げながら歩いてゆくかのように見えました。このシークエンスでは、車外からの映像、彼女のアップ、ジェームズのアップというほぼ3つの映像パターンで構成されていています。こう書くと退屈に思うかもしれませんが、シンプルな映りこみ風景映像とテンポの良いアップの切り替えしはむしろストーリーに引き込む効果、集中させる効果があります。さて、話が更に展開して面白くなるのは2人がカフェに入ってから後のこと。ジェームズが外で電話をかけている間に、カフェの女主人は彼女に言います「ご主人はあなたを口説いているみたいだ。」と。要するに夫婦だと勘違いされたのです。

06 07

戻ってきた彼に、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべながら、誤解を受けたこと、しかしそれを否定しなかったことを告げるのでした。更に彼女は、まるでジェームズが本当に夫であるかのごとく話し始めます。驚いたことにジェームズはそれをサラッと受け止めて返事を始めるのでした。2人の会話は余りに自然。15年連れ添ったけれどすれ違いが続いている夫婦そのものです。これには一瞬「あれ?本当は夫婦って設定だった?どこかで聞き逃したかな?」なんて思ってしまったぐらい。しかも2人の会話はやがて倦怠期の夫婦のような会話へと変わって行くではないですか。最初に書いた関係者席に堂々と座る彼女を思い出し、実は夫婦じゃないということこそが偽りではないのか、そんな風にも考えてしまったり。しかし車中での建設的な議論とは違い、何やらこの後はやけに感情的。

08 09

殆ど口ゲンカといっても良いぐらいで2人の諍いは続いていきます。これには観ている方もますます混乱するのではないでしょうか。混乱と言えば、劇中で話される言語がそれにより拍車をかけます。彼女はイタリア語・フランス語・英語を話していますが、ジェームズは英語だけ。……かと思ったら、最後の最後ではフランス語も話し始めるし。もしや本当の夫婦?という疑念の上に3つの言語が絡んでくると話している内容も含めて何が真実で何が嘘なのかがもうぐちゃぐちゃに。相当に集中してスクリーンを注視し、聞き入っていても、そこから得られる情報では確信に到ることが出来ないのです。この辺はジュリエットとウィリアムの素晴らしい演技力としか言いようがありません。いやこれは演技力で騙しているなどという話じゃない。

10 11

2人とも脚本にのっとって自分の内にある真実を表現しているだけであって、アッバス監督という熟練の物語の紡ぎ手と演者の究極のコラボレーションなのです。そして入ったレストラン。ここで2人は決定的亀裂を迎えてしまうのでした。この時の会話の内容自体は実に俗っぽくなっています。ワインが不味いだとか、せっかく化粧をしたのに何の関心も示さないだとか、実は昨日が結婚記念日だったのにあなたは寝てしまっただとか…。この2人のゲームはいつまで続くのか、そもそもゲームなのか、そして何故こんなことをしているのか…。レストランを出た彼女が教会に入り、しばらくして出てきた彼女が階段に腰を降ろすと、ジェームズも静かに隣に座ります。「ブラをとってきたの。」「解放されたくて。」その姿は妻のようであり、素敵な作家と知り合った一人の女性のようでもあり。

12 13

しかし15年前の結婚式で泊まったというホテルの部屋を訪れ、ベッドに横たわる彼女、その時の彼女は妻を演じる彼女ではなく、ジェームズに好意を持つ一人の女性のように見えました。思えばカフェで誤解され、夫婦を演じ始めてから先、徐々に、本当に少しづつ妻から恋する女性へと変わってきていたのかもしれません。変化の微妙さ故に中々気付かなかったのか…。ジェームズは言います「言ったはずだ。9時までに戻ると。」と。少なくとも確実なのは彼はその場から立ち去ったということ。その後の彼女の様子が映し出されることも無く、結局2人はどういう関係だったのかも不明のまま。しかしこの解らないことが心地良い、そんな稀有な感覚の作品でした。

個人的おススメ度4.5
今日の一言:ダンディってウィリアムの事をいうんだろうなぁ
総合評価:89点

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ
↑いつも応援して頂き感謝です!
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪

|

« バレッツ | トップページ | サラエボ,希望の街角/Na putu »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: トスカーナの贋作/Copie conforme:

» トスカーナの贋作 [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:Copie Conforme、英題:Certified copy(認証コピー)。アッバス・キアロスタミ監督、ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル、ジャン=クロード・カリエール、アガット ... [続きを読む]

受信: 2011年2月24日 (木) 19時53分

» トスカーナの贋作 Copie Conforme [映画の話でコーヒーブレイク]
フランス女優ジュリエット・ビノシュが2010年カンヌ国際映画祭で主演女優賞に輝いた作品です。 彼女の横に寄り添うロマンスグレーのダンディーなお方は・・・、イタリア人俳優なのか?と思ったら な、何と!高名な英国人バリトンオペラ歌手のウィリアム・シメルだそうです...... [続きを読む]

受信: 2011年2月25日 (金) 01時57分

» 『トスカーナの贋作』を鑑賞すると映画を鑑賞する体験ができる映画だよ。 [かろうじてインターネット]
 『海賊戦隊ゴーカイジャー』面白いですね。もう2回観てしまった。  個人的にはスーパー戦隊史上もっとも何ともいえない変身ポースのグリーンが気になります。OPで一人だけ走っているし、ファイナルウ...... [続きを読む]

受信: 2011年2月25日 (金) 02時11分

» 「トスカーナの贋作」 [ヨーロッパ映画を観よう!]
「Certified Copy」2010 フランス/イタリア 彼女(Elle)に「イン・マイ・カントリー/2004」「綴り字のシーズン/2005」「隠された記憶/2005」「パリ、ジュテーム/2006」「こわれゆく世界の中で/2006」「夏時間の庭/2008」「PARIS/パリ/2008」のジュリエット・ビノシュ。 ジェームズにウイリアム・シメル。 監督、脚本は「明日へのチケット/2005」のアッバス・キアロスタミ。 イタリア、南トスカーナ地方。ある日、この小さな村で英国の作家ジェー... [続きを読む]

受信: 2011年2月26日 (土) 00時39分

» トスカーナの贋作 [象のロケット]
イタリア、南トスカーナ地方の小さな村。 著書「贋作(がんさく:にせもの)」の出版記念講演を終えたイギリスの作家ジェームズは、講演を聞きに来ていたフランス人女性ジュリエットが経営する地元のギャラリーを訪れる。 カフェで夫婦だと勘違いされたのをきっかけに、長年連れ添った夫婦のように美しい秋のトスカーナを車でめぐることになったのだが…。 ラブ・ストーリー。... [続きを読む]

受信: 2011年2月26日 (土) 15時05分

» 『トスカーナの贋作』(2010)/フランス・イタリア [NiceOne!!]
原題:CERTIFIEDCOPY監督:アッバス・キアロスタミ出演ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル鑑賞劇場 : ユーロスペース公式サイトはこちら。「夜にたどりつけない男と女」と... [続きを読む]

受信: 2011年2月27日 (日) 00時09分

» ◆『トスカーナの贋作』◆ [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2010年:フランス+イタリア合作映画、アッバス・キアロスタミ監督&脚本、ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル主演。 [続きを読む]

受信: 2011年3月 6日 (日) 14時25分

» 『トスカーナの贋作』 ウインドー越しの風景 [Days of Books, Films]
Certified Copy(film review) アッバス・キアロスタミは [続きを読む]

受信: 2011年3月 6日 (日) 19時01分

» トスカーナの贋作 [とりあえず、コメントです]
ジュリエット・ビノシュがカンヌ映画祭女優賞を受賞したコミカルなラブストーリーです。 予告編の明るい笑顔を観ながら、どんな演技で受賞したのだろうと気になっていました。 トスカーナの小さな町を舞台に繰り広げられる男女の会話は、ちょっと不思議で興味深かったです。 ... [続きを読む]

受信: 2011年3月 6日 (日) 21時20分

» トスカーナの贋作 [映画的・絵画的・音楽的]
 『トスカーナの贋作』を渋谷のユーロスペースで見てきました。 (1)この映画は、初めのうち美術品の贋作を巡るお話と思わせておきながら、どうやらそれにとどまらず、もっと幅広い視点から「贋作」を捉えていることが次第に分かってきます。  冒頭は、イギリスの作家ジ...... [続きを読む]

受信: 2011年3月13日 (日) 06時35分

» トスカーナの贋作 [Diarydiary!]
《トスカーナの贋作》 2010年 フランス/イタリア映画 - 原題 - CERT [続きを読む]

受信: 2011年4月13日 (水) 21時18分

» トスカーナの贋作 [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
イタリアの小さな村で出会った男女が、長年連れ添った夫婦を演じることから始まるラブストーリー。監督は「黄桃の味」のアッバス・キアロスタミ。出演は本作でカンヌ国際映画祭女 ... [続きを読む]

受信: 2011年4月24日 (日) 13時00分

» 『トスカーナの贋作』 (2010) / フランス・イタリア [Nice One!!]
原題: CERTIFIED COPY 監督: アッバス・キアロスタミ 出演 ジュリエット・ビノシュ 、ウィリアム・シメル 鑑賞劇場 : ユーロスペース 公式サイトはこちら。 「夜にたどりつけない男と女」という、 何ともまんまな(失礼)コピーが当てられちゃってったんだな...... [続きを読む]

受信: 2011年4月24日 (日) 17時50分

» トスカーナの贋作 [迷宮映画館]
イラッとさせるジュリエット・ビノシュ。。。うまい!なんだけど、年取ったなあ〜。 [続きを読む]

受信: 2011年5月22日 (日) 20時21分

» 『トスカーナの贋作』 [シネマな時間に考察を。]
オリジナルの真価を問う為に仕掛けられた、 “意思ある迷子”としての“贋作”。 その認証された大いなる存在価値を、 男女の姿を借りて謎めかしく立証する。 『トスカーナの贋作』 Copie Conforme 2010年/フランス、イタリア/106min 監督・脚本:アッバス・キアロスタミ... [続きを読む]

受信: 2011年6月 3日 (金) 14時06分

» トスカーナの贋作 [C'est joli〜ここちいい毎日を〜]
トスカーナの贋作'10:フランス・イタリア◆原題:CERTIFIED COPY◆監督:アッバス・キアロスタミ「明日へのチケット」◆出演:ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル、ジャン=クロ ... [続きを読む]

受信: 2011年9月12日 (月) 15時47分

» 『親愛なるきみへ』『トスカーナの贋作』をギンレイホールで観てワクワクガーガーふじき★★★★,★★ [ふじき78の死屍累々映画日記]
『親愛なるきみへ』 五つ星評価で【★★★★アマンダちゃん】 軍人の彼と女子大生のアマンダちゃんの軽い号泣系ラブストーリー。 可愛い。可愛いよ。アマンダちゃん。 急ハ ... [続きを読む]

受信: 2012年3月 5日 (月) 22時11分

» トスカーナの贋作(’10) [Something Impressive(KYOKOⅢ)]
先日「ナイト・オン・ザ・プラネット」を図書館上映会で見て、同じくタクシー舞台のキアロスタミ作品「10話」を連想したのもあって、新たなキアロスタミ作品が未見だった、と思い出してDVDで見終えました。 同監督作は、私は昨年秋やはり図書館で「友だちのうちはどこ?」を、久し振りに見直したたのが最新。この「トスカーナ・・」は、イタリアで撮影の伊・仏共同作品、俳優陣も、ジュリエット・ビノシュをヒロインに抜擢、 イラン以外での、またグローバルに著名俳優起用のキアロスタミ作品、というのは初めて。   ... [続きを読む]

受信: 2012年4月19日 (木) 10時28分

» トスカーナの贋作 [RE940の自作DVDラベル]
2010年 フランス/イタリア 107分 監督:アッバス・キアロスタミ 出演:ジュリエット・ビノシュ ウィリアム・シメル ジャン=クロード・カリエール アガット・ナタンソン ジャンナ・ジャンケッティ  イランの巨匠A・キアロスタミ監督が新たに生み落とした眩惑的傑作。語り=騙りの名手たる彼ならではの映画魔術をここでも存分に発揮している。イタリアのトスカーナ地方で初めて出会って行きずりの会話を始めたかに思えた1組の男女の姿が、物語が進むにつれて、ある時は夫婦ごっこを楽し...... [続きを読む]

受信: 2012年5月26日 (土) 10時49分

» 映画評「トスカーナの贋作」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆(6点/10点満点中) 2010年フランス=イタリア映画 監督アッバス・キアロスタミ ネタバレあり [続きを読む]

受信: 2012年5月30日 (水) 13時59分

« バレッツ | トップページ | サラエボ,希望の街角/Na putu »