シリアスマン/A Serious Man
『ノーカントリー』 のジョエル、イーサン・コーエン監督作品。本作で2010年アカデミー賞作品賞に、そして本年も『トゥルー・グリッド』でと2年連続ノミネートされている。平凡な大学教授に次々と降りかかるトラブルをシニカルな目線で描いた異色のコメディドラマだ。主演は『ワールド・オブ・ライズ』 などに出演しているマイケル・スタールバーグ。>>公式サイト
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コメディドラマといってもそんなに大笑いできる類の作品ではありません。(中には大笑いしてる人もいましたが。)どちらかといえばブラックジョーク的なシニカルさをたたえた作品のように感じました。あとは、ユダヤ教徒たちのコミュニティにおける日常生活を垣間見ることが出来たのが非常に興味深かったと言えます。驚いたのがオープニング。いきなりロシア語でどこかの農民夫婦が会話しているじゃないですか。一瞬入る劇場を間違えたのかと思ってしまいました…。農夫の妻がやって来たユダヤ教のラビを妻が刺してしまうというショッキングな話に何が何だかよく解らないうちに主題歌が流れ始めます。というかアレは一体なんだったんでしょうか…。
この主題歌がいかにも60年代ロックで耳に心地良い、というより何故か耳に焼きつくのですが、映像が引いてくると少年の耳にイヤホンがささっていて、実は彼のラジオから流れている音楽だったなんていう掴み。しかも少年は授業中に隠れてラジオを聴いており、その授業というのがどうやらヘブライ語の授業。何とも言えず妙な気持ちに陥るのだけれどそれもそのはず。本作は1967年のアメリカ中西部にあるユダヤ人コミュニティの話なのです。主人公ラリー・ゴプニック(マイケル・スタールバーグ)が登場します。大学で物理学を教えている彼は妻と2人の子供、そして居候中の兄アーサー(リチャード・カインド)の5人家族。ちなみに最初の少年が長男・ダニー(アーロン・ウルフ)。
で、この後一体何があるのかといえば、別に特別大きな出来事が起こるわけではありません。ただしラリーの身にこれでもかと言わんばかりのトラブルが降りかかります。しかもこれがどう考えても理不尽極まりない…。家庭ではいきなり他に好きな人が出来たからと妻ジュディス(サリ・レニック)に離婚を切り出され、学校では試験の単位を得る為に学生が賄賂のお金を黙って置いていく。隣家の主人は境界線を越えて権利を主張し、学校には匿名で彼を貶める当初が届く……。ユニークだなと思ったのは、悪いことが続くと特に人は宗教に頼るのだなという点。日本でも神社で御祓いをしてもらったりしますよね。ラリーもユダヤ教徒らしくユダヤ教のラビ(指導者)に話を聞いてもらうおうとします。
何だろう、決してユダヤ教をからかっている訳ではないでしょうが、ここでのコーエン兄弟のラビの描き方はやけに俗物的で何だか宗教そのものを皮肉っているようにも見えました。即ち「そんな連中に頼っても無駄さ」とでも言うような。大体困ってる人を前に忙しいからと、下っ端のラビを出してくるというのはどうなんでしょう。当然ながらそんなラビに相談しても事態が好転するはずもなく…というかむしろ悪化していくのです。(苦笑)ジュディスは新しい恋人サイ(フレッド・メラメッド)と一緒になってラリーとアーサーをホテル暮らしに追いやり、くだんの賄賂の学生は父親が出てきて名誉毀損で訴えるって、もはやここまで来ると理不尽すぎて何が何だか解らない。
解らないんだけれど余り無茶苦茶すぎて笑ってしまったりする訳です。心の中ではラリーに申し訳ないと詫びながら。ところがある日問題のサイが交通事故で死んでしまうのです。お、こりゃついに運も巡ってきたか?と思いきやそうじゃない。何故か女房の浮気相手の葬式代まで負担することに…。ちなみに「シリアスマン」は“真面目な人”という意味。文字通りラリーは馬鹿がつくほど真面目な人なのですが、やっぱり世の中正直者、真面目なものが馬鹿を見るのでしょうか。時々挿入されるラリーの夢の中のシーン、例えばアーサーがお隣さんにライフルで撃ち殺されたり、お向かいのサムスキー夫人とSEXしたりは、言ってみれば彼の本音が解放されるのは夢の中だけということなのかもしれません。
といっても肝心なところで目が覚めるあたりやっぱり彼は「シリアスマン」なのですが。ダニーの成人式の日、ジュディスも戻ってきて全てが上手く回転し始めるのかと見せかけてあのラスト…。全く世の中理不尽すぎるというか、これがコーエン兄弟の嫌らしさというか。実に不思議な感覚に包まれた作品でした。
個人的おススメ度3.0 今日の一言:ユダヤコミュニティって面倒くさそう 総合評価:63点
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» シリアスマン [象のロケット]
1967年。 アメリカ中西部郊外に住むラリー・ゴプニックは地元の大学で物理学を教えている平凡な中年男。 勤務先の大学に終身雇用してもらうことと、13歳の息子ダニーのバル・ミツバー(ユダヤ人の成人式)が目下の課題…と思っていたのだが、突如として様々な問題が持ち上がる。 最大の問題は、妻ジュディスから突然離婚を切り出されたことだった…。 ブラック・コメディ。 PG-12... [続きを読む]
受信: 2011年3月 4日 (金) 00時39分
» シリアスマン/マイケル・スタールバーグ [カノンな日々]
コーエン祭は地道に実行中ですがさすがに作品数が多くて未だに全作品制覇には至ってません。そのコーエン兄弟監督のこの新作は次から次へと災難に見舞われ人生が崩壊していく男の ... [続きを読む]
受信: 2011年3月 4日 (金) 22時52分
» シリアスマン [あーうぃ だにぇっと]
2月の1本目はこの作品「シリアスマン」。
京橋テアトル試写室で鑑賞。
本日も18時30近くまでお仕事。
京橋は近くて便利だ。
試写室の入口にマニア達が集合していてウンザリ。(笑)
突っ立って話しこんでるからじゃまなんだけど。... [続きを読む]
受信: 2011年3月 5日 (土) 20時39分
» シリアスマン [ケントのたそがれ劇場]
★★★☆ オープニングの謎の小話が今一つ理解出来なかったし、全搬的に理不尽さが目立つ作品である。だが監督はあの『ノーカントリー』のコーエン兄弟だという。そして2010年のアカデミー作品賞にもノミネートされているのだ。 確かに今までに観たことのない感触が漂... [続きを読む]
受信: 2011年3月 8日 (火) 11時56分
» 映画* A Serious Man [有閑マダムは何を観ているのか? in California]
人生、まんべんなく、転機や大きな出来事が起こるものではなくて
どういうわけだか、起こるときには色んなことが重なってしまうもの。
この映画の主人公ラリーにも、まさにそんな風に、一時にあれこれの事件が起こり始めるのです。
それも、良いことが重なるのならいい... [続きを読む]
受信: 2011年3月 8日 (火) 14時50分
» シリアスマン [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:A SERIOUS MAN。ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督、マイケル・スタールバーグ、リチャード・カインド、アダム・アーキン、フレッド・メラメッド、サリ・ ... [続きを読む]
受信: 2011年3月 9日 (水) 21時08分
» シリアスマン / A SERIOUS MAN [我想一個人映画美的女人blog]
nbsp;
冒頭5、6分の寓話が一番面白い。
「トゥルー・グリット」がもうすぐ公開。
こちら同じくコーエン兄弟の去年のアカデミー賞作品賞ノミネート作
nbsp;
っていうか、これアカデミー賞にノミネートされるような映画じゃぜったいないと思うー!
ほん...... [続きを読む]
受信: 2011年3月11日 (金) 09時19分
» 「シリアスマン」:ヘンでよろしい [大江戸時夫の東京温度]
コーエン兄弟のオスカー受賞作『ノー・カントリー』以後初の作品。ノー・スターで規模 [続きを読む]
受信: 2011年3月20日 (日) 22時26分
» 「シリアスマン」 [みんなシネマいいのに!]
極めて平凡に真面目に人生を歩んできたユダヤ人の大学教授ラリー・ゴプニック。 悩 [続きを読む]
受信: 2011年3月21日 (月) 08時41分
» ジョエル [映画雑記・COLOR of CINEMA]
注・内容に触れています。格調ある西部劇『トゥルー・グリット』の前に撮られたジョエルイーサン・コーエン監督『シリアスマン』ユダヤ人コミュニティで起こる不条理劇。シニカルにして洒脱な「らしい」作品。結構お... [続きを読む]
受信: 2011年3月21日 (月) 20時39分
» 『シリアスマン』 [こねたみっくす]
マジメな人間に、神は少なくともクソくらいのものは与えてくれる。
第82回アカデミー賞作品賞候補にもなったこの作品はコーエン好きにとっては『トゥルー・グリット』よりも楽しめ ... [続きを読む]
受信: 2011年3月24日 (木) 21時30分
» 『シリアスマン』 [シネマな時間に考察を。]
神の啓示と超・物理学。
相反する事象への重ね合わせの妙。
量子的なゆらぎを伴いながら、
人の世の可笑しみと不条理は果たして論証されるのか。
『シリアスマン』
2009年/アメリカ/106min
監督:ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン
出演:マイケル・スター... [続きを読む]
受信: 2011年3月25日 (金) 15時17分
» シリアスマン [ダイターンクラッシュ!!]
2011年4月16日(土) 16:35~ ヒューマントラストシネマ有楽町2 料金:1000円(Clib-C会員料金) パンフレット:700円(買っていない) 『シリアスマン』公式サイト 「トゥルー・グリッド」なる比較的正攻法の西部劇を作ったコーエン兄弟であるが、これは本来のコーエン兄弟らしい作品か。 生真面目な大学教授が、数々の災難に連続して襲われる。 ほとんど言い掛かりみたいな災難なので、怒り狂ってもさもありなんなのだが、耐えに耐えている。 問題はほぼ解決されたかと思われたが、より一層の災難... [続きを読む]
受信: 2011年4月16日 (土) 22時05分
» シリアスマン(2009)◎A SERIOUS MAN [銅版画制作の日々]
人間のおかしさが、暴走する。
京都シネマにて鑑賞。
人間はあるがままを受け入れることが必要なんだろうか?確かに運命を変えるということはなかなか容易ではない。いや容易という言葉より無力という言葉が良いのかな?
まあそれにしても主人公ラリーは、あまりにも...... [続きを読む]
受信: 2011年4月28日 (木) 23時48分
» シリアスマン [Diarydiary!]
《シリアスマン》 2009年 アメリカ映画 - 原題 - A SERIOUS M [続きを読む]
受信: 2011年5月 3日 (火) 21時48分
» シリアスマン [迷宮映画館]
やけに面白かったんですけど・・、あたしの性格はやっぱり悪いのか。 [続きを読む]
受信: 2011年6月18日 (土) 21時08分
» シリアスマン [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
携帯より一言投稿。コーエン兄弟の「シリアスマン」を浜松のシネマイーらで見た。1960年代だと思う。ユダヤ人社会を皮肉的に描いたコメディだ。大学の講師の主人公は終身雇用の判定を待っている。ところが、妻からは離婚を切り出されるし、家族のそれぞれの問題が明らかにな... [続きを読む]
受信: 2011年7月 6日 (水) 00時27分
» 『シリアスマン』 映画化されなかった続き [映画のブログ]
【ネタバレ注意】
『シリアスマン』の主人公ラリー・ゴプニック教授の劇中での講義が、「シュレーディンガーの猫」と不確定性原理なのが面白い。作品のテーマと密接に結びついており、ニヤリとさせら...... [続きを読む]
受信: 2011年7月26日 (火) 08時20分
» シリアスマン [C'est joli〜ここちいい毎日を〜]
シリアスマン'09:米◆原題:A SERIOUS MAN◆監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン「バーン・アフター・リーディング」「ノーカントリー」◆出演:マイケル・スタールバーグ、リチ ... [続きを読む]
受信: 2011年9月16日 (金) 17時12分
» 『シリアスマン』 [cinema-days 映画な日々]
シリアスマン
1967年ミネアポリス郊外
ユダヤ人大学教授が次々と
災難に見舞われる姿を描く...不条理コメディ
【個人評価:★☆ (1.5P)】 (自宅鑑賞)
原題:A Serious Man [続きを読む]
受信: 2011年12月17日 (土) 09時22分
» 『シリアスマン』'09・米 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...]
あらすじ郊外の住宅地にマイホームを構える物理学の教授ラリーは妻と二人の子ども、実の兄と共に暮らしていたが・・・。感想アカデミー賞作品賞脚本賞ノミネート『ノーカントリー』... [続きを読む]
受信: 2011年12月22日 (木) 09時26分
» 『シリアスマン』'09・米 [虎団Jr. 虎ックバック専用機]
あらすじ郊外の住宅地にマイホームを構える物理学の教授ラリーは妻と二人の子ども、実 [続きを読む]
受信: 2011年12月22日 (木) 09時26分
» 映画評「シリアスマン」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
ネタバレあり [続きを読む]
受信: 2012年1月 7日 (土) 17時28分
» 『シリアスマン』 ('12初鑑賞7・WOWOW) [みはいる・BのB]
☆☆--- (10段階評価で 4)
1月8日(日) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。 [続きを読む]
受信: 2012年1月 9日 (月) 20時45分
» シリアスマン A Serious Man [映画!That' s Entertainment]
●「シリアスマン A Serious Man」
2009 アメリカ Focus Features,Studio Canal,Rerativity Media,106min.
監督・製作:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:マイケル・スタールバーグ、リチャード・カインド、フレッド・メラメッドほか。
<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
コーエン兄弟のテーマである「不条理」な「不幸」が「ユダヤ社会」で
繰り広げられる。冒頭の昔話(ロシア語)でびっくりするが、それが
何の「メタファ... [続きを読む]
受信: 2012年1月22日 (日) 11時22分
» 『シリアスマン』 [まいふぇいばりっと ゆる日記]
コーエン兄弟の監督・脚本・製作による2009年作品、
日本での公開は去年2011年2月。
遅ればせながらWOWOWで録画鑑賞☆
『 シリアスマン/
A Serious Man 』
いやーーー久々にツボにきた!!
去年これ劇場で... [続きを読む]
受信: 2012年4月27日 (金) 01時08分
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