« SOMEWHERE | トップページ | ミツバチの羽音と地球の回転 »

2011年4月 4日 (月)

津軽百年食堂

Photo_22

青森県弘前市で100年続く食堂があった…。四代目となる主人公が葛藤を抱えつつも店を受け継いでゆく姿を描いたヒューマンドラマだ。主演はオリエンタルラジオの中田敦彦と藤森慎吾。共演に『櫻の園 -さくらのその-』の福田沙紀。監督は『恋する女たち』の大森一樹。初代が店を立ち上げるまでが、現代に通じているという巧みな構成に見入る。
>>公式サイト

何かを受け継ぎ、何かを引き継ぐ

 あらすじ・作品情報へ 

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへみなさんの応援クリックに感謝デス

01

青森県は弘前市を舞台にしたご当地映画です。今回の大震災で青森にも被害がでましたが、この映画の収益の一部を日本赤十字に寄付するそうで、なればこそ観に行った私もほんの少しだけお役に立てたかなと。正直言って予告編を観た段階ではオリエンタルラジオの2人の芝居に不安を覚えたのだけれど、予想していたよりはずっと良かったと思います。ファンには申し訳ないけれど、ネタよりこっちのがいいかも。(笑)舞台となるのが弘前市で100年の歴史を持つ大森食堂。大森さんがやってるから大森食堂という至極単純なネーミングで、丼モノやラーメンもあるけれど、なんといっても名物は津軽蕎麦。ちなみに蕎麦の特徴は劇中では特に語られてないのだけれどWikipediaによると、元々はつなぎに大豆を使い、茹でおきのそばをかけで食べるのだそう。

02 03

そう言えば、茹でおきかどうかは解らないけれど、蕎麦をお湯に通す時は東京の立ち食い蕎麦のようにサッとお湯で温めるだけに見えたのはそのせいなのかも。さて、本作は明治42年に初代の大森賢治(中田敦彦)が店を創業するまでと、現代の大森陽一(藤森慎吾)が店を継ぐ様子をパラレルに描いているのだけれど、実は歴史としてだけではなく、一本の糸でその2シチュエーションは繋がっていたというのがミソ、というかそれによって2世代2物語を1本の物語に融合していたと言った方が良いでしょう。陽一は東京で働くつもりが仕事がなく、バルーン・アートで食べている毎日。とある仕事先で偶然知り合ったのがカメラマンの筒井七海(福田沙紀)なのだけど、実はこの2人が同じ地元出身だということだけで、それぞれのエピソードは実は殆ど交錯しません。

04 05

さて、陽一は父・哲夫(伊武雅刀)が倒れ、祖母・フキ(秋本博子)の懇願もあって父の代役で大森食堂を開けるために帰郷します。ありがちではあるものの、このまま店を継ぐか否かで彼は葛藤するワケ。ただ葛藤するといって良くありがちなこの手のパターンとは少し違っていたのが印象的でした。葛藤はしていても陽一の心は変にささくれ立ったりしていません。それは彼を取り巻く人間がイイ人しか登場しないから。例えば何年も帰郷していなくても、一度帰れば変わらぬ愛情や友情で迎えてくれる家族と親友たち。彼らは良い意味での田舎の人の良さがたっぷりなんですね。父と仲違いするシーンもありますが、陽一自身の郷土や家業や両親友人に対する愛情の強さが全く揺らがないのが観ていてわかるのです。だから決定的な亀裂は走らない。

06 07

これは作品全体において重要なポイントで、一体この人とはどうなってしまうんだろうという無駄な神経を使う必要がないから、観ていて実に心がほっと安らぐのです。そしてそれは明治時代の初代・賢治を取り巻く人間関係からして同じでした。特に賢治を支える親友・門田宗八(前田倫良)の関係をそのまま現代の陽一と門田政宗(永岡佑)に引き継がせているあたりの設定が憎いところ。しかしもっと憎いのが最初に書いた一本の糸です。当然ながら政宗は宗八の子孫に当たるわけですが、実は全登場人物の中で唯一人明治の時代と重なっている人間がいます。実はトヨ(早織)は宗八に説得されたというのもありますが、娘の「賢治おじちゃんの蕎麦が食べたい。」の一言で賢治の元に嫁ぐ決心をしたのでした。(要するにフキはトヨの娘だったのです。)

08 09

結局彼女のおかげで大森食堂は創業し、今また店がピンチの時に彼女は陽一を呼び戻してそれを救ったということになります。それの意味することは唯一つ、フキは大森食堂を連綿と守り続け、四代目の陽一に引き継ぎたかったのでしょう。それが最後の仕事だとばかりに、直後にフキは亡くなってしまいます。この後、「さくらまつり」参加のエピソードで陽一は父と和解しますが、この時の彼はもう店だけではなくフキがどれだけ大森食堂を大切に思っていたのかの想いも受け継いでいました。倉庫に眠っていた100年前の屋台で蕎麦をゆでるシーンはそんな彼の覚悟の現れです。さて、実はここまで七海に関して殆ど書いていませんが、観ていると彼女のエピソードは本線とは直接関わらないサイドストーリーであることが解ります。もちろん家族愛、郷土愛はたっぷりなのですが。

10 11

彼女と陽一は物語を通じて、それぞれの事情がありながらも淡い恋心を育んでいっていました。つまり賢治がトヨを得て新しい人生に踏み出していったのと同様に、陽一も七海を得ることで新しい人生を歩みだすのだと。彼女のその為に存在していたのではないかと思うのです。家族、友人、郷里を愛し、2人で生み出した何かをまた誰かが受け継いでゆく。当たり前に行われていた人の営みが崩れつつある昨今、今一度そのモデルを提示して見せた作品だったのではないか、そんな気がします。きっと大震災でもその生き方は変わらないのではないでしょうか。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:頑張れ東北!
総合評価:71点

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ
↑いつも応援して頂き感謝です!
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪

|

« SOMEWHERE | トップページ | ミツバチの羽音と地球の回転 »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 津軽百年食堂:

» 津軽百年食堂 [象のロケット]
明治42年(1909年)。 津軽そばの屋台を営む大森賢治は、日露戦争で夫を亡くしたトヨといつか店を持ちたいと夢見ている…。 一方、現代。 大学卒業後、企業への就職はせず、バルーン(風船)アートをしながら東京で暮らす陽一は、父が交通事故で入院したとの知らせを受け久しぶりに帰省する。 実家は青森・弘前で百年続く津軽そばの店「大森食堂」だった…。 ふるさと青春ドラマ。... [続きを読む]

受信: 2011年4月 4日 (月) 18時00分

» 津軽百年食堂 [シネマDVD・映画情報館]
津軽百年食堂 明治末期、弘前。やっとの思いで津軽蕎麦の店を出した賢治。そして、時は流れ現代。4代目にあたる陽一は、父との確執から「大森食堂」を継がずに東京で暮らし、故郷への反発と捨て切れぬ思いの間で揺れていた。ある日、父が交通事故で入院し、陽一は......... [続きを読む]

受信: 2011年4月 4日 (月) 22時39分

» 津軽百年食堂 [だらだら無気力ブログ]
人気お笑いコンビ“オリエンタルラジオ”の藤森慎吾と中田敦彦を主演に 迎え、東京に暮らす青年が様々な葛藤を乗り越え、津軽で百年の歴史を 持つ食堂の四代目になるまでの姿を、初代の人生とともに描くヒューマン・ ドラマ。 共演に「櫻の園 ―さくらのその―」の福田沙…... [続きを読む]

受信: 2011年4月 5日 (火) 02時10分

» 映画 「津軽百年食堂」 [ようこそMr.G]
映画 「津軽百年食堂」 [続きを読む]

受信: 2011年4月 5日 (火) 05時06分

» 【津軽百年食堂】を映画鑑賞! [じゅずじの旦那]
初代から四代目へ・・・受け継がれてゆく日本人の心と味。  まずは来訪記念にどうかひとつ!  人気blogランキング【あらすじ】弘前の蕎麦屋の長男・陽一は、大学進学で上京したが、就職に失敗し、アルバイトで毎日をやり過ごしていた。ある日、バイト先で同郷のカメラマン、七海と知り合う。壊した機材の弁償代わりにルームシェアを提案する。七海も陽一と同じように、今の生活に疑問を感じていたのだった。そんな時、陽一の父親が交通事故に遭ったと知らせを受ける・・・監督:大森一樹  原作:森沢明夫出演:藤森慎吾、中田敦彦、... [続きを読む]

受信: 2011年4月12日 (火) 10時10分

» 津軽百年食堂 [映画的・絵画的・音楽的]
 『津軽百年食堂』を新宿の角川シネマで見てきました。 (1)弘前城の桜が描かれていると聞き込み、またオリエンタルラジオの2人が出演するとも耳にしたので映画館に行ってみたわけです。  確かに、弘前城の満開の桜はたっぷりと映し出されていましたし、そしてオリエン...... [続きを読む]

受信: 2011年4月13日 (水) 05時12分

» 津軽百年食堂 [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。森沢明夫原作、大森一樹監督、藤森慎吾・中田敦彦(オリエンタルラジオ)、福田沙紀、ちすん、伊武雅刀、早織、前田倫良、永岡佑、藤吉久美子、大杉漣、かとうかず子、 ... [続きを読む]

受信: 2011年4月13日 (水) 20時32分

» 『津軽百年食堂』をシネマート新宿2で観て、野村!ふじき☆☆ [ふじき78の死屍累々映画日記]
五つ星評価で【☆☆野村がへん】 盛り上がるでもなく、決定的につまらなくもなく、ただ何となく観れる。 オリラジの中田、藤森、伊武雅刀、実はみんな血が繋がってる設定なの ... [続きを読む]

受信: 2011年4月15日 (金) 00時25分

» 津軽百年食堂 [とりあえず、コメントです]
現在の東京と明治の弘前を交差させながら、仕事と人生に悩みながらも 自分の道を見つけていく若者の姿を描いた作品です。 弘前が舞台の作品は観たことがなかったなと気になっていました。 登場人物が多くて物語がきちんとしていたので、予想よりも興味深く観られる作品でした。 ... [続きを読む]

受信: 2011年4月23日 (土) 20時29分

» [映画まとめ語り 『津軽百年食堂』『ガリバー旅行記』] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆短信で書いておきますね^^    ◇     『津軽百年食堂』        悪い作品ではないが、ちょいと大森一樹監督の限界が見えてしまった気がする。  話が凄まじく散文的な予定調和なのである。  記号の集積のように見えた。  なんちゅうか、バッハの曲...... [続きを読む]

受信: 2011年4月24日 (日) 00時00分

» 津軽百年食堂 [『映画評価”お前、僕に釣られてみる?”』七海見理オフィシャルブログ Powered by Ameba]
初代から四代目へ── 受け継がれてゆく日本人の心と味。 弘前城の桜まつりを舞台に、恋、家族、故郷、総ての思いが 桜吹雪と共に舞い上がり、観る人すべての心を癒す── 東京で暮らす青年が、葛藤を乗り越え、百... [続きを読む]

受信: 2011年5月15日 (日) 03時15分

» 津軽百年食堂 [A Day In The Life]
新作DVDにて観賞 これ、見逃してしまった一本。早くもDVDにてリリースだから、うれしい。 解説 父との確執で100年続く食堂を継がずに故郷を捨てた若者が葛藤(かっとう)を 乗り越え、4代目として伝統と店を受け継ぐ姿を、初代店主の人生と重ねて描 く人間ドラマ。... [続きを読む]

受信: 2011年11月 1日 (火) 23時38分

» 『津軽百年食堂』 [cinema-days 映画な日々]
津軽百年食堂 東京で暮らす青年が故郷にドロップアウトして 100年続く津軽蕎麦屋を継ぐまでを描く... 【個人評価:★★ (2.0P)】 (自宅鑑賞) 原作:森沢明夫 『津軽百年食堂』 [続きを読む]

受信: 2012年4月22日 (日) 01時43分

» 映画評「津軽百年食堂」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆★(5点/10点満点中) 2010年日本映画 監督・大森一樹 ネタバレあり [続きを読む]

受信: 2012年4月26日 (木) 09時50分

« SOMEWHERE | トップページ | ミツバチの羽音と地球の回転 »