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2011年4月14日 (木)

メアリー&マックス/Mary and Max

Photo 第76回アカデミー賞短編アニメ賞を受賞したアダム・エリオット監督の長編デビュー作。ひょんなことから文通を始めたオーストラリアに住む少女とニューヨークに住むアスペルがー症候群の中年男。彼ら2人の20年以上にも渡る交流を描いたクレイアニメーションだ。フィリップ・シーモア・ホフマン、トニ・コレット、エリック・バナといった豪華な声優陣が揃った。
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情緒豊かなクレイアニメの傑作!

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製作にほぼ5年を費やし、一日に約4秒しか撮影できないというほど繊細にして手のかかっている本作は、その甲斐あって素晴らしく情緒豊かでキャラクターの心が伝わるクレイアニメに仕上がっていました。それだけではなく、監督のアダムエリオットの実体験を反映させたその脚本は、人と人との絆の固さやモロさを見事なまでに描いた正に傑作と言って良いと思います。主人公は2人。オーストラリアのメルボルンに住む8歳の少女メアリー(声:トニ・コレット)とニューヨークに住む44歳の肥満体の中年男マックス(声:フィリップ・シーモア・ホフマン)です。それにしてもこのキャラクター造形のシュールなことといったら!特にメアリーは最初はやたらと個性の強い見た目だとしか思えないのだけれど、観ているうちにどんどん可愛らしく見えてくるから不思議。

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額にウンコ色の痣があり、泥の水溜り色の瞳であることで自分に自信が持てないメアリーは独りぼっちで引っ込み思案。学校でも苛められっ子です。母親のベアラはシェリー酒をお茶だといって飲んだくれ、父親のノエルは唯一の趣味が鳥の剥製作りというかなりドン引きな両親なのに案外上手くやっているのでした。これはやはり友達がいない孤独感を和らげてくれるのは家族だと見るべきなのか。しかし見ようによってはそれが余計に彼女の孤独感を増しているようにも思えます。そんな彼女が思い切って文通を始める相手がマックスなのでした。別にマックスに接点があった訳じゃなく、単に電話帳から適当に選んだだけ。ところがこのマックス・ホロウィッツさんがメアリーとよく似た孤独な中年男だったりするのです。こうして2人の文通が始まるのでした。

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当然ながら2人は文通でのみ繋がっているので会話はありません。じゃあどうするのか。何と2人が手紙に書いた内容をひたすら映像とナレーションで見せるだけ。しかしそれぞれの手紙の内容が実にその人物を的確に表現していて、下手に会話を交わすよりもよく伝わってくるのです。面白いのがメアリーの側がセピアカラーで描かれ、マックスの側がモノクロで描かれていること。例えばメアリーが手紙に同封したり送ったりしたモノは、マックスのモノクロ世界の中でもカラーで描かれているのです。彼女の手紙は少女らしくとても無邪気な内容で、書くことだってホントに身近な他愛もないことでした。チョコとコンデンスミルクが好きだとか、自分の親の事だとか、友達に苛められただとか。少女らしい視点で書かれた手紙は、素直で無邪気な暖かさに溢れていてそれは正にセピア色。

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反面大人のマックスはタイプライターを使ってキッチリ論理的な文章を書いてきます。手紙の中で彼は自分がアスペルガー症候群であると告白しますが、例えばタバコのポイ捨てに異様に嫌悪感を示したりと、彼を取り巻く大都会の環境は彼にとってグレー一色でしかありえないことがキッチリと描かれているのです。この対照性は最後の最後まで続くことに。文通のやり取りはメアリーが大人になるまで20年に渡って続いてゆくのですが、子供時代のエピソードの中で個人的に1番響いたのが“メアリーの涙”でした。「僕は泣いたことがないんだ」と手紙に書くマックス。アスペルがー症候群故に、感情表現が困難な彼に対して、メアリーは何と自分の涙を瓶につめて送るのです。何と子供らしい優しさに満ち溢れたプレゼントなのか…。

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メアリーは成長して痣を手術で取り去ると別人のように活き活きとし始め遂には結婚までします。マックスはマックスで何と宝くじに大当たり。大好きなチョコレートを一生分買い込んで、毎日悠々自適の生活を送れるようになるのでした。各々の人生でようやく嬉しい出来事が起こり始めたのにも拘らず、この後重大な事件が起こります。それはこの2人の関係に限らず人と人との関係性の中ではよく起こりうることでした。即ちメアリーはマックスの病気を治そうと研究していた内容を、彼に断りなく本にして出版してしまうのです。これはマックスにとっては完全な裏切り行為。つまり、それまでの手紙のやり取りやそれに伴うマックスの描写を観ていると解るのですが、彼は一度だって自分の障害を恥じたりしていないし、それどころかそもそも障害が悪いとも思っていません。

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彼が望んでいたことは唯一つ“本当の友人が欲しい”これだけだったのですから。子供だったメアリーは彼のちょっと変わった手紙にも普通に返事を書き、他の人が自分を観るような奇異な目を向けませんでした。だからこそ彼は彼女の事を“本当の友人”だと思ってきたのに、結局は彼女も自分の周りにいる他の人々と同じだった…。彼女にタイプライターの“M”の部分をへし折って送りつけるマックス。言うまでもなく「マックス&メアリー」の頭文字であって、これがなければもう手紙のやり取りはできません。一体どうなってしまうのか…。マックスはひょんなことからそれに気付きます。つまり「完全な人間などいない」ということ。誰にだった過ちはある、メアリーだってそう。彼女が自分に対してこれまで一杯の優しさをくれたことを彼は思い出すのです。

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マックスは言います。「人は自分の欠点を選ぶことはできない。でも友達は選ぶことが出来る」何と素晴らしいセリフなのか。しかしこの作品の凄いのは更にこの先。「こうして2人は仲直りしましたとさ、メデタシメデタシ。」ではないのです。どういうラストになるのか、それは是非劇場で観て欲しいと思います。驚き、哀しみ、そして希望、胸が苦しくなるほど熱い涙がこぼれます。ブログ、ツイッター、facebook、携帯電話と様々なコミュニケーションツールが氾濫する現代ですが、最もオーソドックスな“手紙”という方法。それは単なる通信の手段ではなく、時として人の人生を変える程の力があるものだということを、再認識したのでした。

4月23日(土)公開

個人的おススメ度4.5
今日の一言:『ハーヴィー・クランペット』を観なくては…
総合評価:92点

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受信: 2011年4月14日 (木) 05時58分

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受信: 2011年7月11日 (月) 00時25分

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受信: 2011年7月26日 (火) 22時30分

» メアリー&マックス(2008)☆★MARY AND MAX [銅版画制作の日々]
 ある日、しあわせの手紙がやってきた──不器用だけどあったかい―そんな2人のほんとうにあったお話。 評価:+5点=95点 ジーンときました。ホロっと涙も出たり、、、、。こんなに素晴らしいアニメーションに出会えたことに感謝! 主人公の2人がまた良いですよね。...... [続きを読む]

受信: 2011年11月 8日 (火) 01時19分

» メアリー&マックス [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評]
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受信: 2012年1月27日 (金) 10時31分

» 映画評「メアリー&マックス」 [プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]]
☆☆☆☆(8点/10点満点中) 2009年オーストラリア映画 監督アダム・エリオット ネタバレあり [続きを読む]

受信: 2012年2月16日 (木) 17時01分

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