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2011年4月20日 (水)

木洩れ日の家で/Pora umierac

Photo 今年95歳になるポーランドの大ベテラン女優ダヌタ・シャフラルスカの主演作品。長い人生を生きてきた女性が、その最晩年を飾るために奮闘する。ドロタ・ケンジェジャフスカ監督は彼女の為に脚本を当て書きしたという。モノクロで描かれる世界にも関わらずそのコントラストの鮮やかさ、煌きが美しい。思いのほか元気な主人公のチャキチャキ振りには思わず笑いがこぼれた。
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アニェラばあちゃんと過ごす104分

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光と陰のコントラストが鮮やかで、木漏れ日の煌きにはカラー以上の眩しさを覚える。なんとも素敵な作品でした。個人的にはアンジェイ・ワイダ監督の『カティンの森』、イエジー・スコリモフスキ監督の『アンナと過ごした4日間』に続いて3本目のポーランド映画ですが、この作品も実に完成度が高い秀作です。物語には何人かの登場人物が出てきますが、殆どは主人公の老婆・91歳のアニェラ(ダヌタ・シャフラルスカ)とその愛犬フィラデルフィアという1人と1匹で展開されてゆくのでした。更に言えば劇中殆どのシーンは彼女が生まれ育った古い家の中です。ちなみにダヌタ・シャフラルスカはこのとき実際に91歳で、95歳になる今もまだまだお元気。

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さて、老婆と書くと弱々しい感じを受けますがこれがまた予想外に元気。いや大抵の場合元気といっても、91歳のそれは病気をしていないという意味なのですが、彼女の場合杖もつかずスタスタと姿勢良く歩き、家の結構急な階段も普通に登って生活しているぐらい。耳が遠いこともなく言語も極めて明瞭で本当に91歳なのかと思うほどです。夫は既に他界し、息子家族も家を出ている今、彼女の楽しみは両隣の家を双眼鏡で覗く事ぐらい。別にそこで衝撃的な出来事が展開される訳でもなく、勝手に庭に子供が入り込んでブランコで遊んだり、音楽クラブで子供たちの奏でる楽器の音が煩かったりと、極日常的な描写が続きます。フィラデルフィアに話しかけながら進む物語はまるで彼女の一人芝居のよう。

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面白いのがそんな時必ずと言っていいほど、アニェラのアップの切り返しでフィラデルフィアがアップになること。このワンコがまた実に表情豊かで、彼女との会話が成立しているのです。もちろんセリフなどないですからそれは私たちの脳内補完ですが、多分そう違ってはいないだろうという雰囲気があるんです。会場でも老婆と犬の会話に笑いがこぼれることが度々。ところがそんなのんびりした日常を破るのが隣の金持ちでした。使いの人間が彼女に家を売るように迫ります。彼女の希望が生まれ育ったこの家で、フィラデルフィアと一緒に静かに生活することだけだというのは一目瞭然。しつこい電話攻勢のせいなのか、彼女は体調を崩すようになります。

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彼女は自分亡き後のこの家の事を気にかけていました。それにしてもこの古い家、森の中にヒッソリと建っている姿はなにやら長い年月をかけて家そのものが命を得ているようにも見えます。劇中、何度も窓越しにアニェラやフィラデルフィラがアップになりますが、窓ガラス自体の微妙なゆがみ具合が内と外をまるで別世界のように隔てていました。実際、彼女は家の中から窓越しに、恐らくは息子の子供の頃の姿を目にします。それは家ごとタイムスリップしたのか、それとも長きに渡る家そのものの記憶を彼女の脳裏に反映させたのか……。モノクロ映像で描かれるある種幻想的ともいえる映像表現に、観ている方も思わずアニェラと同じ視線を感じることが出来るのでした。

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息子に家で同居することを持ちかけるも、何とその息子は愚かにも勝手に金持ちの隣人に家を売る話を進める始末。嫁も彼女を非難し、孫娘は家そっちのけで彼女の指輪を欲しがる、彼女の孤独感はいかばかりか…。ただこのシーンを観ていて思ったのは、何だか日本の話のようだということ。ドロタ監督はインタビューの中で「年長者への尊敬よりも、若い力とお金がより重要視される現代社会の傾向をとても憂慮している」と語っていましたが、遠く離れた日本とポーランドに哀しい共通点があるとはちょっと驚きです。しかし、それで唯黙っていないのがアニェラらしいところ。彼女は家を音楽クラブを主宰する隣人カップルに譲ることにするのです。二階に自分が住み続けることを条件に。

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その日、その時は唐突にやって来ます。しかし人間なんてそんなものなのかもしれません。アニェラは唯一気がかりだった家の行く手も決まり、安心したのでしょう。彼女の膝に手をかけるようにして、彼女の顔を見つめるフィラデルフィアは主人の死を理解したのか。あなたも天国に来なさいとフィラに話しかける彼女のナレーションとともに映し出される古ぼけた家。ワイワイ騒がしい音楽クラブの子供たちの声はこれからの生であり、つまりこの古い洋館はこれまでもそうであったように、生と死の両方を包み込みながら森の中にヒッソリと建ち続けるのでしょう。優しい感動に包まれたラストシーンでした。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:モノクロの美しさの何と素晴らしいことよ
総合評価:80点

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