マーラー 君に捧げるアダージョ/Mahler auf der Couch
作曲家グスタフ・マーラーの生誕150年、没後100年を記念して制作された音楽伝記ドラマ。監督は傑作『バグダッド・カフェ』のパーシー・アドロンとその息子のフェリックス・アドロンが務める。主演にヨハネス・ジルバーシュナイダーとバルバラ・ロマーナー。世界三大オペラ座の一つでマーラーが音楽監督を務めたウィーン国立歌劇場が全面協力しているのも注目だ。 |
全てを語りすぎ、余韻をください |
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『バグダッド・カフェ』のパーシー・アドロン監督と言うことで結構期待して言ったのですが、残念ながら『バグダッド・カフェ』には遠く及ばないようで…(苦笑)オーストリアの作曲家フスタフ・マーラーの生誕150年、没後100年を記念して制作された作品だそうです。ちなみにタイトルにある“アダージョ”とはマーラーが妻アルマへのラブレターとして捧げた「交響曲第5番」と、彼女の不倫のショックを綴った「交響曲第10番」のことをさすのだとか。…と言われてもクラッシックに素養のない私としては何のことやらサッパリ。凄く簡単にいうと、本作はマーラー(ヨハネス・ジルバーシュナイダー)とアルマ(バルバラ・ロマーナー)が結婚するものの、様々な要因からアマルが不倫に到ってしまう過程を描いたものです。
表現の手法としては、妻の不倫に悩むマーラーが精神科医フロイト(カール・マルコヴィクス)に相談し、その催眠治療の中で過去を回想する形で映像が綴られていくのでした。その世界に詳しくはなくともフロイトの名前ぐらいは聞いたことがあるはずですが、そもそも幾ら同時代を生きたからと言って、マーラーがフロストの治療を受けたなんて事実があったのか?っと思ったらこれが何と有名な事実でした。アルマ自身の著による「グスタフ・マーラー 回想と手紙」の中にそれは詳しく記されています。1902年に2人は結婚しますが、当時マーラー42歳・アルマ23歳という19歳の歳の差カップルでした。当時奔放な男性遍歴で知られた彼女と、ウィーン宮廷歌劇場音楽監督を務めるマーラーのカップルは一見すると不釣合いなのだけれどこれがお互いに深く愛し合うことに。
それの理由は物語の最後になって明かされることになります。というより、そもそもアルマの不倫の理由自体、マーラーはいい加減後になるまで理解できないのですが、恐らく観ているほうは開始30分でそれを理解できるでしょう。実はアルマは自身も作曲家でした。もちろんその才能は天才グスタフ・マーラーに比べたら及ぶべくもありませんが、音楽を愛する気持ちに才能は無関係。しかし結婚に当たってマーラーは彼女に作曲をやめることを申し出るのです。もちろんそれはマーラーの事を愛していたら。彼は彼女に言います。「代わりにあげられるのは君への愛だけだ」と。客観的に観ればこの時点で破綻は目に見えているのですが…。で、暫くの間はそれでも幸せな日々が続きます。暫くの間とは具体的には長女プッツィが生まれるまでの事。
言葉では語られませんが、娘を溺愛するマーラーとそれを露骨に恨めしそうに眺めるアルマを観ていれば、マーラーの愛情が自分だけでなく娘にも注がれているのが気に入らないのは一目瞭然。更に間の悪いことにこの長女が病気で亡くなってしまう…。フロイトの治療の中でマーラーは無意識のうちに娘の死をアルマのせいだと思うようになっていたと告白しているのですが、アルマにしてみたら実の娘の死の哀しみにプラスして、失った(とアルマ思っている)マーラーの愛情は戻ってこないどころか、むしろ益々離れていってしまったワケです。結果彼女には何もなくなった…。結婚している以上は作曲は出来ない、従って彼女は夫以外の男性に自分への愛を求めた…これがアルマ不倫の理由です。ちなみにこれらの事は別にボーっと見ていても全て明らかにされる内容。
で、この作品が今ひとつ深みにかけるのはここに問題があるのです。本作では不明瞭な謎のまま放置されたり、観客のご想像に任せますといった曖昧さは一切ありません。全てを明確に登場人物の口で語らせる、或いはあからさまに映像で明示してしまうのです。つまり想像する楽しみや、余韻を全く残していない。それはこの物語における最も重要で根幹をなす要素に関してもそうでした。この2人、結局離婚したりはしません。それはこれだけ破綻していても、お互いに愛し合っていたから。ただその愛が少し変わっていたのです。即ちマーラーはアルマに自分の母親を観て、逆にアルマはマーラーに父親を観ていたのでした。当然これも劇中で語られますが、前出した「グスタフ・マーラー 回想と手紙」の中に同様の意味の記述があるようで、その意味では事実に即した表現なのでしょう。
嫉妬に怒り狂うマーラー、ノイローゼで若い男とセックスに興じるアルマといった情感たっぷりのシーンも数多くあるのですから、それを利用して2人の心情の変化を情緒的に伝えて欲しかった所です。一々言われなくても充分伝わりますから。スウェーデン放送交響楽団演奏によるマーラーの楽曲や、実際にマーラーが音楽監督を務めたウィーン国立歌劇場の全面協力にによる音楽や映像は確かに素晴らしいのですが、肝心要の物語が、余りに写実的過ぎてしまったのが残念です。もちろん、1人の伝記物語としては興味深くもあったし、フロイトとの絡みなどは面白くもあったのですが。
個人的おススメ度2.5
今日の一言:この展開で脱がないのは不自然よバルバラさん
総合評価:57点
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