4月の涙/Käsky
1918年のフィンランド内戦の最中、敵同士として知り合うも愛し合ってしまう男女の運命を描いた恋愛ドラマだ。原作はフィンランドのレーナ・ランデルの同名小説。悲恋の主人公を演じるのはサムリ・ヴァウラモとピヒラ・ヴィータラ。ピヒラは間もなく公開の『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』にも出演している。監督はアク・ロウヒミエスが務める。 |
信念を越える愛は彼女に届いたのか |
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フィンランド映画は初めてかも。ざっくりいうと1918年のフィンランド内戦時に赤衛軍の女兵士リーダーだったミーナ(ピヒラ・ビータラ)と白衛軍の准士官アーロ(サムリ・ヴァウラモ)の禁断の恋の行く末を描いた悲恋のドラマです。ただ、観ていて感じたのだけれど、この時の時代背景が解っていたほうが物語りにすんなりと入り込めるように思います。簡単に説明すると…1917年にロシア革命が起こりソビエト社会主義共和国連邦が成立するワケですが、この時フィンランドも独立します。しかし社会情勢の不安定さや食料不足から国内が2つの勢力に分かれるのでした。簡単に言えば資産階級は白衛軍を組織し、労働者たちは赤衛軍を組織します。で、内戦となれば大国の介入が必ずある。赤衛軍のバックはソ連、白衛軍のバックにはドイツが付くことになります。
っとまあこんな予備知識があると、アーロがミーナのフィンランド語に気付く、即ち大国の勢力争いに翻弄されながらも、自分たちは同じフィンランド人だと言うアイデンティティを感じるシーンにも素直に納得できるというものです。序盤、捕虜になり白衛軍兵士たちに輪姦され、挙句の果てにわざと逃がされて射殺されるシーンは観ていて本当にやり切れません。殺されること自体は戦争なんで彼女たちも兵士になった時点で覚悟はしてたでしょうが、あれは弱い立場の人間を虐殺しているだけ、しかも一瞬心に希望を持たせた上で殺すというのは胸クソ悪い。そんな状況で死体検分をしていたアーロと死んだ振りをしていたミーナは出逢います。アーロは若くても准士官。彼女を公平な裁判にかけることを主張オする凛とした口調からは育ちの良さと教養の高さが覗われます。
アーロがミーナを裁判所に連れて行く途中、彼女が暴れて小船が転覆。2人は無人島に流れ着き、暫くの間共に過ごすことに。熱でうなされるミーナを看病し、上手く魚が取れないアーロに代わって彼女が魚を獲る。他の兵士に対するのと同じようにアーロを誘惑するミーナでしたが、彼は外で自慰してまで我慢します。しかし、毎日の生活を共にすることで徐々に心を通わせる2人が自然に愛し合い始め、自然に体の関係も持つ様子は若い男女が育む優しい愛を感じます。後から考えると皮肉にも捕虜と兵士の関係だったこの時が、2人にとって1番幸せだった時期だと思います。観ているだけで寒さを感じる何もない外の光景と、穏やかな心の暖かさを感じる岸部の小屋の中という対比が印象的でした。やがて助けられた2人はエミール判事(エーロ・アホ)の元へ到着します。
物語はここから一転、2人の恋愛とそこに異常な興味を示すエミール判事という妙な構図に代わってゆくのでした。このエミール判事、作家で教養も高い彼でしたが、毎日のように敵兵士を処刑しているうちに明らかに精神に変調をきたしている様子が覗えます。ミーナがアーロと無人島で過ごした間に寝たのかどうかを執拗に聞く判事。最初はアーロの弱みを握る、或いはアーロを訴追するためかと思っていたのだけどどうもそう言う訳ではなさそうです。一方アーロは何とか彼女を救おうと必死。だったら最初から逃がせば良いのにと思わなくもないのですが、法の遵守は教養人である彼の中では、捕虜にしたミーナたちを強姦したような野蛮な兵士たちと一線を画す部分であり、譲れない一線だったのでしょう。一方のミーナはエミール判事を誘惑するものの一蹴されてしまいます。
彼女が全裸で水浴びする様子を覗き穴からじっと見ている判事からしてこの行動がどうにも解せない。ミーナを狙っているのでないなら何故彼女を処刑しないのか…。全てが解ったのは判事の妻ベーアが登場してからでした。何とベーアはあろうことかアーロを誘惑するのです。それもエミールの部屋の洗面所で。ちょっと唐突過ぎて頭が混乱しましたが、洗面所から出てくるアーロを見ても何も言わないエミールを観て察しが付きました。彼はアーロに自分に代わって妻を喜ばせるように仕向けたのです。そう、エミールはゲイでした。それが解ると、裁判所に来てからのアーロとミーナへの彼の接し方全てに納得が行きます。無人島での様子を知りたがったのも、彼の落ち度を探るためではなく、彼のミーナに対する態度が信念から来るものか、愛から来るものかを知りたかったのです。
もっともミーナは自分が誘惑しても乗ってこなかった彼がゲイであると見抜いていたようで、アーロに「狙いはあなたよ」と伝えるのでした。驚かされたのは、ミーナがアーロの忠告に従わず、あくまでも自分が赤衛軍のミーナだということを撤回しなかったこと。自らの信念は絶対に曲げず、その上で彼女はアーロに「私を自由にして」と頼むのです。それはアーロが法を遵守すべきだという信念に似たものかもしれません。こうなった以上手段は一つ…彼はエミールと一夜をともにするのでした。翌日、ミーナを連れて旅立つアーロ。しかし迫る白衛軍の追っ手。ミーナを逃がしたアーロは…。最後の最後で自分の信念よりも愛を全うしたアーロ。ラストシーンのエミールの大きくなったお腹と腕に巻かれた白衛軍の印は、その心が彼女に届いたことを示していたのだと思います。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:ミーナの体が凄くセクシーに見えたぞ
総合評価:77点
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