もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

電子書籍を含めて２００万部を突破した同名の人気小説を、国民的アイドルグループＡＫＫＢ４８の前田敦子主演で実写映画化。勘違いでピーター・ドラッカーの世界的な名著「マネジメント」を読みその理論で野球部を甲子園へと導くマネージャーと部員たちを描いた青春ドラマだ。共演にはＡＫＢ４８から峰岸みなみ、瀬戸康史、池松壮亮、大泉洋らが出演。監督は『うた魂（たま）♪ 』の田中誠。
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端的に言ってしまうと、国民的アイドルＡＫＢ４８のエース・前田敦子を主演に据えたアイドル映画。ただしジャンルとしてはスポコンものに属する超定番の作りだけに、その手の作品が好きな人には充分楽しめると思います。簡単に言えばとある高校野球チームがだんだん強くなり甲子園に出場するという、ネタとしては数え切れないほど作られてきたストーリーであり、チーム強化の方法論としてドラッカーの「マネジメント」に述べられている理論を使うという部分だけが特徴。クライマックスには悲劇も用意されていてこれも定番ながら泣けるポイントは抑えていました。ちなみに私は原作未読、アニメーションも未読でしたが、大会決勝の前辺りからはもう涙ボロボロでした。

そもそも親友で程久保高校野球部マネージャーの夕紀（川口春奈）が入院しているのだけれど、彼女がいった「何かきっかけさえあればチームは強くなる」という一言が始まり。それを聞いた主人公みなみ（前田敦子）は夕紀の代わりに野球部のマネージャーになるのでした。ところがマネージャーといったって何したらいいのやら…で本屋で勘違いして買ってしまったのがドラッカーの「マネジメント」だったと言うワケ。以後彼女はドラッカーの理論に従って野球部を改革していくと。ファンの方には申し訳ないけれど、期待通り前田敦子の芝居は下手くそで、しかも可愛らしさという意味なら川口春奈の方が正統派美少女といえます。ただこの子、何か不思議な魅力をもっている。特にその声が。喋っているセリフを聞いていると、ふと気がつくと引きこまれている自分がいたりするのです。

とにかく前田敦子は出ずっぱりですから、ファンの方は堪らないでしょうけれど、そうでない方にはチーム強化の部分は少し物足りないかも。ドラッカーの理論を野球に置き換えて“高校野球の定義”だとか“高校野球の顧客”といった言葉を持ち出したり、そのものズバリ“イノベーション”とか“真摯”といった単語を持ち出したり、言葉は良いけれどそれが練習に活かされた時にどれだけ画期的だったのかという描写が今ひとつ見えにくいと感じました。どちらかと言うと意識改革に近いのかもしれませんが…。野球部員として登場する柏木役の池松壮亮）、慶一郎役の瀬戸康史の２人の演技、特に池松壮亮に関しては高校球児らしい役作りに成功していまいした。演技だけでなく例えば少しづつ日焼けしていくといった、細かい部分の演出も中々上手い具合にリアリティを作り上げています。

ま、投球フォームはちょっとなんですが…（苦笑）ちなみに、野球部監督の加地に扮する大泉洋もこれがまた実に好演。実は野球部を改革するというのは、監督の考え方を改革することにほぼ同義なので、みなみと監督の絡みはこれが意外に多いのです。その野球理論はしっかりしていながらも、コミュニケーションベタで自分の考えを部員に伝えられない弱気な監督、それが堂々たる姿に変貌を遂げてゆく様子はチームの進歩と相まって物語を牽引していく役目を担っていました。さて、とんとん拍子に強くなる程高野球部。ここはそんな上手く行くわけなかろうと思っちゃダメ、上手く行くのです。「ノーバント、ノーボール」作戦を実行し彼らは準決勝まで駒を進めるのですが、上手く回り始めたところで大事件が起こるのはこの手の物語の常。

そもそも最初に夕紀が心臓の病気で入院していることが解った段階でこの事件は想定の範囲内です。そう（唐突ではありますが夕紀は亡くなってしまうのでした）。実は彼女はみなみに自分の病に関して何度も伝えようとしていたのだけれど、結局伝えられないままに旅立ってしまったのです…。それはみなみにも幾ばくかの責任はあり、故に彼女は大ショックを受け…。哀しみに耐えて決勝戦に臨む程高野球部員とそこから逃げ出してしまうみなみ。このシークエンスはお決まりだけれど感動で涙が。そして決勝戦、勝つのは当たり前ですね。要はどういう過程で程高が勝利するのか、ドラッカーの「マネジメント」の応用の集大成がどう形になって見えてくるのがが肝になります。そのあたり、単にスポコン＋ドラッカーではなかったのが意外かつ上手かったり。

みなみが少女時代に野球をしていた時のエピソードまで絡めてきたクライマックスは中々良く出来ていていたと思います。もっともすぐに読めましたけど（笑）圧倒的に男性が多かった劇場内でしたが、エンドロール終わりまで殆どの観客が席を立たなかったのは、ＡＫＢ４８の新曲にしてもしドラのエンディングテーマ曲『Everyday、カチューシャ』をフルコーラス聞くためではないか…なんて思いつつ私も観ていると、一応エンドロール途中から映像が挿入されてきました。鑑賞する方はご参考までに…。

個人的おススメ度4.0
今日の一言：瀬戸くんはビートより慶一郎がお似合い
総合評価：71点

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