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2011年6月22日 (水)

あぜ道のダンディ

Photo 商業映画デビュー作『川の底からこんにちは』がヒットし、先頃女優の満島ひかりと結婚した石井裕也監督の最新作。決してカッコよくはないけれど、自らの考えるダンディズムを貫く父親が、高校を卒業し東京の大学へと進学する子供たちとの交流に奮闘する姿を描いている。主演は名脇役として名高い光石研。共演に田口トモロヲ、森岡龍といった個性派が揃う。
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今の世の中は宮田が少なすぎる!

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『川の底からこんにちは』は非常に元気付けられる面白い作品だったけれど、本作は別な意味で元気付けられる作品でした。何たって良いのが主人公の冴えないオヤジ・宮田淳一を演じるのが光石研とその親友・真田を演じるのが田口トモロヲ。多くの映画で名脇役として活躍しているこの2人がメインになって話を進めてゆくのだから地味なことこの上ない(笑)ただし2人ともその演技力には定評があるベテランですから、芝居そのものには何の問題もない、いやむしろ50歳のオヤジを演じるには正にうってつけのキャスティングと言えます。実際に年齢が近い方は、彼ら2人のオヤジッぷりに共感を覚えるんじゃないでしょうか。面白いのは宮田がとにかく“男とは、オヤジとはこうあるべき”という自らが考えるダンディズムを貫こうとするところ。

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実際に見ていると「それダンディか?」ってな部分が多いのだけれど、本人はそう思っているのだから仕方がない。若くして妻を亡くした宮田は男手一つで息子・俊也(森岡龍)と娘・桃子(吉永淳)を育ててきたのでした。そんな2人が大学に合格し、春から東京に行ってしまうことになります。タダでさえ寂しいのだけれど、無論子供たちの前で男親が寂しいなんて口が裂けても言えない美学。しかも胃の調子を悪くした宮田は自分は亡き妻と同じがんだと思い込んでしまうのでした。残された僅かな時間を子供たちと過ごしたい、そして父親としての幸せな思い出を胸に死んでゆきたいと考える彼。っと、ここまで観ていて気がついたのが、どうも話の展開が『BIUTIFUL ビューティフル』っぽいなということ。まあハビエル・バルデムと光石研を重ねるのは流石に無理がありすぎか…(笑)

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そもそも本作は基本的にコメディ。よってシビアな展開と見せかけて当然オチがあります。ただ、一生懸命子供たちと交流しようとするオヤジをいくらズレているからといって笑って良いものかどうか、実は心の片隅に同じ男としてちょっとだけ良心の呵責みたいなものはあったりも…。しかし、照れくさい気持ちを必死で耐えて買ったゲーム機を誇らしげに俊也の前に差し出し「対戦しようぜっ!」と勇気をだして言ってみたのに、「それオレのと機種違うから無理だわ。」とあえなく撃沈するお父さんの姿は余りに哀しくて面白すぎ。桃子とプリクラが撮りたい一心で彼女の後をつけてゲームセンターに行くも、何と援交を持ちかけてきた彼女の友達を説教するハメになったりするのだから、全く思うように行かないものです。もっと気軽に誘えば良いのにとても不器用な宮田が可愛くさえありました。

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さて、『BIUTIFUL ビューティフル』の父親は本当に前立腺がんですが、宮田は当然違います。コテコテの勘違いオチ。そう、検査の結果ただの胃炎だと判明するのです。もちろんオチはあくまで結果であって、子供たちと慣れないながらも一生懸命交流しようとする宮田の姿や、頑張ってもどうしても裏目に出てしまう父親の悲哀さというのが本来見せたいところで、世のお父さん方にしてみたら身につまされるのではないでしょうか。ここで大きいのが真田の存在。宮田を最もよく理解している親友で、本人もダンディを気取っているのだけれど、宮田が頑固なのに対して真田は柔軟。それ故に宮田よりも先に子供たちと遊園地にいったりプリクラを撮ってしまうのです。もちろん全ては宮田に関して子供たちに話をする為にやっているのだけれど。

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それを聞いた宮田は当然ながら悔しがる。気持ちはとてもよく解るけれど、しかし傍観者として観ている分にはそれがまた可笑しくて仕方ありません。嬉しいのは実は子供たちにそんな宮田の気持ちは通じていたこと。宮田がダンディであらんとする気持ちを俊也も桃子もしっかり解っていてくれたのでした。いよいよ2人が東京に行ってしまう日が近付いてくると、3人は仲良くプリクラを撮ります。妙に正装で、そんな風にプリクラを撮っている人は現実にはいないでしょう。でもそんな彼ら3人の醸しだす親子の温かみが無性に心地良いのでした。子供はいつか親元を巣立つ時が来ます。父を残して巣立つことに少し後ろ髪を惹かれる子供、しかしオヤジたるものやせ我慢をしてでもそんな子供たちを送り出してやらねばいかんのです。それは正に宮田にとってもいつか来た道。

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子供たちを東京に送り届け戻った宮田は、真田と飲みながらくだをまきます。親友っていいです、こういうとき。ところで最近の父親はダンディであろうとしているでしょうか?子供の前では決して弱みを見せないと決めているでしょうか?子供の前でオヤジは常に強い存在であり続けなきゃいけないのだと思うのです。たとえ本当は弱くても、そうあり続けようとすることがすでに強い存在なんだと。宮田は今の世の中に少なくなったオヤジの見本なのだと思います。ラストで俊也と一緒に入る銭湯のシーン、オヤジから息子に受け継がれたその精神は、きっと俊也がオヤジになったらまた息子に伝えてゆくのだろうなと、そんな風に想いを巡らせたのでした。

個人的おススメ度3.5
今日の一言:地味な良作です
総合評価:71点

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おやじが主人公の映画2本まとめて。 まず、結論から [続きを読む]

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受信: 2011年6月22日 (水) 07時06分

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受信: 2011年6月22日 (水) 23時07分

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» 「あぜ道のダンディ」 [お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法]
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受信: 2011年12月30日 (金) 21時05分

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あぜ道のダンディ観ましたよ~(◎´∀`)ノ ちょっと古い作品っす[E:sign0 [続きを読む]

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受信: 2012年7月29日 (日) 08時18分

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