愛の勝利を ムッソリーニを愛した女
ヒトラーと並ぶ独裁者ベニート・ムッソリーニ。その男に己の持てる全てを捧げた女がいた。しかし彼女は歴史の闇に葬り去られたのだった…。イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が描く悲劇の物語の主人公は全米批評家協会賞主演女優賞を獲得したジョヴァンナ・メッツォジョルノだ。彼女の尋常ならざる気迫のこもった演技に目が釘付けになる。共演はフィリッポ・ティーミ。 >>公式サイト
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第二次世界大戦のヒトラーと並び称される独裁者ベニート・ムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)。そのムッソリーニによって歴史の闇に葬り去られた愛人イーダの半生を描いた伝記物語です。原題「VINCERE」はイタリア語で“勝利”。このタイトルが示すとおり、本作自体が主人公イーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)の勝利に他ならない、そんな作品でした。それにしてもヨーロッパ史は実に面白いです。まだまだ一般的な日本人には馴染みの薄い歴史の裏側がたくさんあり、この作品でもまた一つ勉強になったのでした。そうは言ってもこの話、実はそんなに難しいもんではありません。要するに若かりし頃のムッソリーニの愛人が捨てられたあとも彼を愛し続けたというお話です。
よく「可愛さ余って憎さ100倍」などと言いますが、イーダの場合はその愛の深さが尋常ではなかっただけに憎さも1000倍といった感じ。実際、若い頃のムッソリーニはその過激な思想から当局に目を付けられ、挙句に先鋭的過ぎるその考え方は同士のにも受け入れられず党から除名されたりと散々です。そんな彼を自分の持てる全て(それは金銭的な面でも、肉体的な面でも。)で支えたのがイーダでした。しかも彼女はムッソリーニの息子を産み落とします。要するに彼を愛していただけでなく、彼の今あるのは私のおかげだという自負、強烈なまでのそのプライドが逆にイーダをして希代の独裁者ムッソリーニを攻撃する原動力となっていたわけです。
それにしても凄いのはジョヴァンナ・メッゾジョルノの演技。アカデミー賞の前哨戦として権威の高い全米批評家協会賞で主演女優賞を獲得したのも頷ける内容で、凄まじいまでの生々しい“女”を見せ付けてくれます。ある時は擦り寄るように可愛らしく甘え、ある時は自分の愛に応えない男に対して痛烈に罵倒し、またあるときは愛する息子の母として父の愛を欲する…。あまりに極端な精神の振幅の大きさは、時として彼女を狂人のように見せてしまいますが、そこをムッソリーニに上手くつけ込まれてしまうのでした。あまりにしつこく彼に付きまとった結果、彼女は精神病院に収容され、息子とも引き離されてしまいます。当然ながら病院内は本当の精神病患者ばかり。
しかし彼女の鉄の意志はこの程度の活況では揺らがないのが凄い所。ただこの強い精神力故に、わが身を滅ぼしてゆくイーダを観ているのは余りに辛いものがありました。病院長の今は黙って反抗しないほうが良いという至極まともな忠告に、一度は従おうと試みるものの、今度はムッソリーニの側が到底納得し得ない条件で彼女を追い詰める。結局どうあがこうと運命には抗えないのか、国王や法王に対して手紙まで書いてムッソリーニの非道を訴えるも、それに対する応えはありません。観客は時折挟まれるモノクロフィルムによるムッソリーニの演説の記録映像から、当時の絶大なる独裁者の現実の姿を目の当たりにすることになります。あの男の前では一人の女の存在など虫けら同然なのか…
結局ムッソリーニの愛を取り戻すことよりも、一人の母親として息子との再会を優先させたイーダ。しかしそこまでの彼女の苛烈な戦いぶりを観れば、むしろその様子にホッとしました。ところが!彼女はその残されたたった一つの希望すら手にすることが出来ないのです。今思えば当時のムッソリーニは歴史そのものであり、歴史の流れに逆らおうとしたイーダはその存在すら消し去られようとしていたのかもしれません。しかし、巨匠マルコ・ベロッキオの手により再び歴史の表舞台へと導かれることになったと言えるのではないでしょうか。ヨーロッパ史の深遠さと、そこに絡む人間ドラマの面白さ、双方を上手く捉えて料理した素晴らしい作品でした。
個人的おススメ度
4.0
今日の一言:ムッソリーニって肉々してるのね…
総合評価:82点

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» ■『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』■ ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2009年:イタリア映画、マルコ・ベロッキオ監督&脚本、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ、ファウスト・ルッソ・アレン、ミケーラ・チェスコン、ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ、コッラード・インヴェルニッツイ出演。... [続きを読む]
受信: 2011年6月30日 (木) 00時58分
» 愛の勝利を [映画的・絵画的・音楽的]
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』をシネマート新宿で見ました。
(1)この映画は、表題から、ムッソリーニと一緒に終戦直後に銃殺された愛人のことを描いた作品ではないか、と思っていましたが、実際に見てみると、主人公の女性は、第2次大戦が始まる前にすでに死...... [続きを読む]
受信: 2011年6月30日 (木) 04時43分
» 愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評]
Vincere [Blu-ray] [Import]甘いイメージの邦題がついているがこれは壮絶な闘いの物語だ。イタリア映画らしいオペラ的荘厳さの中、通奏低音に映像メディアの本質が流れていることが見逃せ ... [続きを読む]
受信: 2011年6月30日 (木) 08時53分
» イタリア映画祭2010...「愛の勝利をムッソリーニを愛した女/勝利を」 [ヨーロッパ映画を観よう!]
「Vincere」2009 イタリア/フランス
イーダ・ダルセルに「向かいの窓/2003」「心の中の獣/2005」「コレラの時代の愛/2007」のジョヴァンナ・メッゾジョルノ。
ベニート・ムッソリーニに「重なりあう時/2009」のフィリッポ・ティーミ。
ラケーレ・グイディに「13才の夏に僕は生まれた/2005」のミケーラ・チェスコン。
監督、原案、脚本に「母の微笑/2002」「夜よこんにちは/2003」のマルコ・ベロッキオ。
1907年、トレント。イーダ・ダルセルは社会主義信奉者の... [続きを読む]
受信: 2011年6月30日 (木) 19時22分
» 愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [象のロケット]
20世紀初頭、イタリア。 官憲から追われる政治活動家ムッソリーニと恋に落ちた女性イーダは、全財産を投げ売って彼の活動を支えた。 しかし、長男出産後、彼に正妻ラケーレがいたことが発覚。 ムッソリーニが政権を奪取し、ドゥーチェ(統帥)としてイタリアに君臨した後は、彼女と息子の存在など、なかったことのようにされてしまう。 イーダは自らの正当な立場を主張し続けるのだが…。 歴史に葬られた愛の物語。... [続きを読む]
受信: 2011年7月 1日 (金) 01時52分
» 「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」 [【映画がはねたら、都バスに乗って】]
いやあ、これには、うなった。
ムッソリーニを愛した女性の壮絶な半生を描くマルコ・ベロッキオ監督のメロドラマ。
耽美派ベルナルド・ベルトリッチが鳴かず飛ばずになってしまったいま、イタリア特有のシャープな艶めかしさを感じさせる映画なんてもう過去のものだと思...... [続きを読む]
受信: 2011年7月 1日 (金) 21時33分
» 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 [千の天使がバスケットボールする]
作家の井伏鱒二は「わたしは平凡な言葉を美しいと思ふやうになりたい」という言葉を残した。
この言葉には、43歳で陸軍に徴用されて報道班員として戦争を見つめてきた井伏の無常観が想像される。そんな平凡な言葉、平凡な日常、平凡な人生を拒絶した女がいた。
1907年...... [続きを読む]
受信: 2011年7月 2日 (土) 10時04分
» 私を忘れないで〜『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 [真紅のthinkingdays]
VINCERE
1907年、イタリア。中産階級の女性イーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)は、
社会党員のムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)と出逢う。数年の後、再会した
二人は恋に落ち、イ...... [続きを読む]
受信: 2011年7月 3日 (日) 09時38分
» 愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [映画の話でコーヒーブレイク]
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» 愛の勝利を [イタリア映画紀行]
昨年のイタリア映画祭で上映されたんですよね、しかもベロッキオが来日したんでしたっけ? その際にベロッキオはこの作品についてどう語っていたのでしょうか この映画は、ムッソリーニという人物のカリスマを知ることができる貴重な1本といえるのではないでしょうか・ …... [続きを読む]
受信: 2011年7月 5日 (火) 18時23分
» 映画「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」激動のイタリア史の別の顔 [soramove]
「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」★★★☆
ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、フィリッポ・ティーミ出演
マルコ・ベロッキオ監督
128分、2011年5月28日より全国順次,
2009,イタリア,エスピーオー
(原作:原題:VINCERE/勝利を)
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「劇中に映画や映画ニュースが挿入されている、
チャップリンの無声映画に生演奏がつき、
モノ... [続きを読む]
受信: 2011年7月28日 (木) 21時30分
» 愛の勝利を ムッソリーニ [迷宮映画館]
さあて、続けて今度はイタ〜リアン。 [続きを読む]
受信: 2011年11月16日 (水) 21時52分
» No title [TEL QUEL JAPON]
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・・・・・追記:2011年11月22日・・・・・
愛の勝利を:映画
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [続きを読む]
受信: 2011年11月22日 (火) 14時51分
» 愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
イタリアを第二次世界大戦へと導いた悪名高き独裁者ムッソリーニ。若き日の彼を支えた女性イーダとムッソリーニの愛、やがて訪れる別れを描く。イーダを演じたのは「コレラの時代 ... [続きを読む]
受信: 2012年6月 6日 (水) 22時14分
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