TAKAMINE ~アメリカに桜を咲かせた男~
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6000本の苗木に込められた想い |
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派手さは全くないけれど、実力あるベテラン俳優がキッチリ演じた素朴な物語です。主人公の高峰譲吉は名前だけは知っていたけれど何をした人なのかは知りませんでした。父が加賀藩の御典医でありながら自らは化学者として生きる道を選び、アメリカに渡るとタカヂアスターゼの抽出とアドレナリンの結晶化に成功します。タカヂアスターゼとは現在ではアミラーゼと呼ばれている消化酵素のこと。簡単に言えば胃薬だとか整腸剤に使われているのだけれど、ちょっと調べてみたら高峰譲吉は製薬会社・三共株式会社の初代会長なんだそうな。現在は第一製薬と合併して第一三共になっていますが。こう聞くと意外に身近なところで高峰譲吉と私たちの接点があることに気付かされます。


もう一つの業績であるアドレナリンの結晶化は、それにより手術の際の止血効果が高まるという作用があるそうで、これがキチンと活かされたエピソードが劇中にも用意されているのでした。ただ、高峰譲吉の素晴らしいところは、単純に一化学者としての業績に留まらない点。日露戦争の戦費調達の為に戦時国債を引き受けてくれる相手を探したり、日本文化をアメリカに広めるための地道な活動をしたりと、その存在そのものが日本にとって非常に重要な人物だったことが解ります。それは譲吉が日本に帰りたいと言い出すとそれを聞いた渋沢栄一(松方弘樹)に「あと10年はアメリカに滞在し日米の架け橋となって欲しい」と言われるほど。


人間関係からみても、譲吉の周囲には先述の実業家・渋沢栄一や官僚であり政治家でもある金子堅太郎(渡辺裕之)、後の大蔵大臣・高橋是清(ヒデトシ・イムラ)、実業家・豊田佐吉といった日本近代史上でも錚々たる面々が集まっています。正直言うと余りに偉大な業績であり、歴史上有名な人物が登場しすぎるせいか、まるで学校の日本史用VTRを観ているかのような気分になってしまい、あまり映画としての面白みを感じませんでした。勉強になるという意味では決してツマラナイわけではないのですが。しかし、これがアメリカに桜の木を送るという本作のメインエピソードに入ると俄然ドラマとして成り立ってきます。何故ならそこには譲吉が子供の頃の体験が色濃く関わってくるから。


幼いころ加賀の国で起こった安政の泣き一揆で譲吉と偶然であった村井六郎(六平直政)は一揆の責任を取って死んだ父の無念を嘆き、譲吉を逆恨みします。しかし時を経てお互いに大人になり、自分の息子・信太郎(一井直樹)が大怪我をしたとき、譲吉のおかげで一般的な止血剤となったアドレナリンのおかげで息子は一命を取りとめるのでした。子供の頃に譲吉が言った「化学は万人を救う」言葉通りになったことで、彼の積年のわだかまりが解けてゆくのです。……という前提があった上で、桜の木をアメリカに送る話。最初は船便で送る際に害虫がついてしまい失敗、しかし譲吉は懲りずにもう一度輸送を試みるのですが、それを聞いた植木職人の六郎は送る桜の苗を育てる計画に参加します。


日米有効の象徴となり、今年で100年目を迎えるポトマック河畔とハドソン河の桜並木はこうして無事植えられることになるのでした。恐らくこの村井六郎は実在の人物ではないのでしょうが単純に桜の木を送るのに大変な苦労をしたという話だけでなく、その裏に幼いころからの人間関係を上手く合わせて描いてきたところが上手いです。また不器用な庶民を演じる六平直政がこういう役をやらせたらホントに上手い。高峰譲吉役の長谷川初範が知的なナイスミドルなのと好対照なのでした。後に講演のため帰国し、故郷で再会する2人のシーンはちょっと胸がジンと来る良いシーンです。それにしても、この時代の責任ある立場の日本人は、常に“日本の為に”を考えて行動していたのですね。


自らも日本を欧米列強に近づけるために必死で挑戦し続け、同時に未来の日本を担う若者を育てる。今の私たちが忘れてしまった大切なものを持っている彼らを観ていると、日本人としての誇りであったり、アイデンティティを改めて見せ付けられる思いがあります。恐らくそんなにヒットは見込めない作品、しかしこんな素朴な作品が好きです。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:野口英世ってあんな人なんかな?(笑)
総合評価:63点
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