おじいさんと草原の小学校/The First Grader
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マルゲが学んだこと、マルゲに学んだこと |
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改めて教育の大切さ、そして学びたいという情熱の大切さを教えられ、同時に、欧米列強による植民地政策という過去の過ちは、ここケニアだけでなく様々な場所で多くの人々を傷つけ、その傷跡は厳然と残っているのだと再認識させられた作品だった。ケニア独立から39年後、ようやく始まった政府による無償教育制度は、国民が等しく無料で教育を受けられる権利を有することを謳っている。小学校に集まる膨大な数の子供たち…もちろん全てを入学させることはできないのだが、そこに現れたのが84歳の老人キマニ・ナガンガ・マルゲだ。彼はとある目的のために読み書きを勉強したかったのだが、子供たちですら全員入学できないのに84歳の老人を入学できる訳がない。


門前払いを食らうものの、マルゲは校長のジェーン(ナオミ・ハリス)に言われるままにノートと鉛筆を買い、制服をあつらえて毎日学校へと足を運ぶのだった。もちろん、彼の極貧生活からすれば、その出費がとても大きいのは察しが付く。しかも、悪い足を引きずり杖を突きながら何キロもの道のりを徒歩で通ってくるのだ。そもそも彼をそうまでして駆り立てるのはなんなのか…。どうやらマルゲの目的はとある手紙を読みたいことらしいことが序盤で解る。それも手紙のタイトルに「ケニア共和国大統領府」とあるのだから、何やら意味深だ。ただし、本作はこの手紙の中身が重要なのではない。実は手紙の中身は物語の途中でサラッと察しが付くように構成されている。


重要なのはマルゲの存在そのものなのだ。入学を許されたマルゲは、皮肉にも政府のお偉いさんからケニア教育制度の象徴であるかのごとく扱われるのだが、それはあくまで彼の一側面でしかない。彼はもともとマウマウ団と呼ばれる、イギリスからの独立を目指して戦う組織の戦士だった。先祖から受け継いだ土地をイギリス人に奪われた彼は、独立の闘いの中で妻子をイギリス人に殺される。そして自らも収容所に入れられ拷問を受け、足が不自由になるのだ。彼にしてみれば、自分の人生の全てを投げ打って手に入れたのが祖国の独立なのである。ところが、マルゲが小学校に入学するにあたって、それを快く思わない人間(それは教育委員会の人間だったり、他の子供の父親だったり)がいた。


そこには単にマルゲが老人だからというだけでなく、彼の部族がイギリスに対して好戦的だったことを好ましく思っていない感情が根底にある。それをジェーンは部族主義と呼んでいたが、良い悪いではなく厳然と残るその考え方はマルゲ個人の問題ではなくケニア全体の問題だろう。つまり彼はケニア教育制度の象徴というよりは、独立したケニアそのものの象徴ではないだろうか。ジェーンは一度はマルゲを小学校から退学させるものの、自らの助手という形で再び呼び戻す。子供たちとともに勉強を学び、しかし子供たちに自らが独立で勝ち取ったもの“自由”の価値を語るマルゲ。学校では勉強だけでなく、先達が子供たちに連綿と伝えてゆかなくてはならないことがあるのは明白だ。


その意味でマルゲはとても良い生徒であり、良い先生でもあった。しかし、やがてマルゲ自身を攻撃していた勢力は、その矛先をジェーンに向ける。彼女を無理やり別の学校へと異動させてしまうのだ。それに対してマルゲは大胆な行動に出る。それは流石は独立の戦士というべきものだった。そして彼に自由の意味を伝えられた子供たちは新任の校長をボイコットするという行動に出る。理不尽な行為に対して言いなりにならず、自らの行動で勝ち取るスタンスは、理屈で言えば必ずしもほめられたものではないのかもしれないが、それでもやはり感動を覚えずにはいられない。マルゲはこの後90歳で亡くなるまでに国連で初等教育無料化の演説したりしている。言ってみれば彼の独立のための闘いはずっと続いていたということなのかもしれない。
個人的おススメ度:4.0
今日の一言:そう、無償であっても内容も重要だよね
総合評価:78点
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