一枚のハガキ
日本映画界最高齢の新藤兼人監督が自ら「最後の作品」と言う映画だ。終戦間際に召集された100人の兵士で生き残った6人の内の1人がなくなった戦友の家を訪ねるも、戦友の妻を残して家族は崩壊していた…。主演は『必死剣 鳥刺し』の豊川悦司と『オカンの嫁入り』の大竹しのぶ。共演に六平直政、大杉漣、柄本明、倍賞美津子といった実力派俳優が務めている。 >>公式サイト
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戦争末期に召集された100人の中年兵たち。森川定造(六平直政)は仲間の松山啓太(豊川悦司)に妻からの手紙を見せ、自分が死んだらこの手紙は確かに届いたと妻に伝えて欲しいと頼むのだった。というのもくじ引きの結果定造はフィリピンへの赴任が決まり、恐らく生きては変えれないであろうことが解っていたからだ…。こんなシーンから始まった本作の前半は友子の一家が崩壊していく様子が描かれていた。定造の戦死、そして家族を守るために定造の弟・三平(大地泰仁)と再婚する友子(大竹しのぶ)、更に三平の戦死、ショックを受けた父・勇吉(柄本明)の病死と母・チヨ(倍賞美津子)の自殺……坂を転がり落ちるが如く友子が独りぼっちになってゆく。
正直言って、定造や三平の出征や戦死して戻って来るシーンがやけにコミカルに表現されていたり、役者の演技がやけに芝居がかっていたりと、前半はカット割りも含めどうも古典的な演出に馴染めずにいることが多かった。しかし新藤監督は御年99歳だ。その方が作る作品に古き良き映画のテイストを感じたとしても無理のないことであり、むしろ今では貴重となったその演出こそ楽しんだ方が良いのだと切り替えてからは、娯楽としての映画の面白さの中に込められた監督の強烈な反戦の意思が伝わって来て話にのめり込んでいく自分がいた。そもそも出演している俳優は、主演の豊川悦司や大竹しのぶをはじめ日本映画界のトップクラスの俳優たちなのだ、普通に考えて惹きこまれない筈がないのだ。
友子が独りぼっちになったところで啓太が復員するシーンに。啓太の方は啓太の方で見事に家庭崩壊の図があった。家に残して来た妻・美江(川上麻衣子)があろうことか自分の父親と出来てしまい、戦死したとばかり思っていた啓太が戻ってくるということで慌てて家を出て行ったというのだ。ホンマかいな?と思わなくもないが、そもそもこの作品は新藤監督の実体験に基づいての話だというのだから、戦争末期から戦後の時期にはまるで小説のようなお話が本当にあったのだ。美江に対して「親父を捨てたら殺す!」と啖呵を切ってくる辺りに現代とは違う、父の幸せがそこにあるなら子としてはそれを優先させるという家族のあり方をみたような気がする。
そんな啓太が戦争中の荷物の中に定造から託された一枚のハガキを発見したのは、それから数年立ってからの事だ。遅まきながら友子を訪ねる啓太。ここから先は途中に村の世話役で友子に惚れている・吉五郎(大杉漣)とケンカをするシーン以外は、完全に2人芝居となる。これが実に素晴らしい。初対面から夕食をご馳走し、最終的に2人は結婚することになるのだが、その接近してゆく距離感が絶妙なのである。くじ運だけで生き延びてしまい自己嫌悪に陥っている啓太、そのくじ運を羨みつつドコにももって行きようのない苛立ちを啓太に当てる友子、定造の浴衣を着せられて怒る啓太、自分のために吉五郎とケンカしてくれたことに喜ぶ友子―。
相変わらず大仰な演出が目立つものの、それは戦争に翻弄された田舎の人々哀しい悲しい喜劇に見えなくもない。そしてそうであっても彼らの目にはそれでも生きてゆく人間の力強さが宿っていたように見えた。友子の家が燃え落ちるシーンは、まるで戦時中を思い出させるものであり、逆に言えばこれでようやく友子の戦争は終わったのかもしれない。若松監督は『キャタピラー』で戦争に綺麗な戦争などない、銃後の戦争だってあるのだということを描いたが、本作もまた新藤監督の手による銃後の戦争を描いた作品だった。何もかも失ったが、新しい伴侶を得た2人が黄金色の麦の穂の向こうで飯を食う姿は、この先続く日本の復興をイメージさせる印象的なラストシーンだと思う。
個人的おススメ度
3.5
今日の一言:川上麻衣子はマイアイドルだったんだけど…
総合評価:73点

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» 一枚のハガキ(2011-060) [単館系]
新藤兼人監督が32歳のときに召集された太平洋戦争での
実体験を基にしている作品。
松山(豊川悦司)ら100人の中年兵は
クジ引きで赴任先を決められ、
それがすなわち、生死の分かれ目でもあった。
...... [続きを読む]
受信: 2011年8月15日 (月) 00時23分
» 一枚のハガキ [あーうぃ だにぇっと]
7月13日(水)@有楽町朝日ホール。
霞が関から有楽町にむかう道中のあちらこちらに警官が立っていた。
いったい何で警備が厳重なのか怪訝に思いながら会場に到着。
この疑問は後程氷解することになる。... [続きを読む]
受信: 2011年8月17日 (水) 12時48分
» 『一枚のハガキ』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「一枚のハガキ」□監督・脚本・原作 新藤兼人 □キャスト 豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、大杉 漣、柄本 明、倍賞美津子、 津川雅彦、川上麻衣子、絵沢萠子、大地泰仁、渡辺 大、麿 赤兒■鑑賞日 8月14日(日)■劇場 1...... [続きを読む]
受信: 2011年8月19日 (金) 08時06分
» 新藤兼人監督 「一枚のハガキ」 [映画と読書とタバコは止めないぞ!と思ってましたが……禁煙しました。]
公式サイト⇒http://www.ichimai-no-hagaki.jp/
【あらすじ】
戦争末期に徴集された100人の中年兵は、上官がクジを引いて決めた戦地にそれぞれ赴任することになっていた。クジ引きが行われた夜、松山啓太(豊川悦司)は仲間の兵士、森川定造(六平直政)から妻・友子(...... [続きを読む]
受信: 2011年8月19日 (金) 10時57分
» 一枚のハガキ [佐藤秀の徒然幻視録]
一枚のハガキもし死なずば
公式サイト新藤兼人監督、豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、大杉漣、柄本明、倍賞美津子、津川雅彦。99歳になる新藤監督の実体験をベースにした戦中戦後 ... [続きを読む]
受信: 2011年8月19日 (金) 23時08分
» 「一枚のハガキ」最後のクジは外れじゃなかった [くまさんの再出発日記]
友子さんはいったい何歳なのだろう。時に40歳くらいに、時に23歳くらいに見える。もっと若い女優の芸達者な女性を起用するという手段もあったかもしれない。そうすれば、もっとリアルな芝居が見れる。もっとも...... [続きを読む]
受信: 2011年8月23日 (火) 17時44分
» 一枚のハガキ [映画的・絵画的・音楽的]
『一枚のハガキ』をテアトル新宿で見てきました。
(1)上映開始からそんなに日が経っていないときに映画館に行ってみたら、1時間前で立ち見とのことで、別の作品に切り替え他日を期したのですが、2週間経っても相変わらず満席に近い状況なのには驚きました。
99歳にな...... [続きを読む]
受信: 2011年8月24日 (水) 05時10分
» 映画・一枚のハガキ [お花と読書と散歩、映画も好き]
2011年 日本
わかり易い映画でした
戦争末期に徴集された中年兵100人奈良で宿舎の清掃が終った彼らの次の任務地を決めたのは上官のクジだった60人はフィリピンへ30人は沖縄へ残り10人は宝塚へ松山啓太(豊川悦司)は宝塚へ向かう兵士の中のひとりだったある夜、啓...... [続きを読む]
受信: 2011年8月26日 (金) 11時49分
» 「一枚のハガキ」:明日に向って立て! [大江戸時夫の東京温度]
新藤兼人99歳が自ら最後の作品だと語る『一枚のハガキ』は、確かに新藤作品の集大成 [続きを読む]
受信: 2011年8月28日 (日) 00時13分
» 一枚のハガキ [迷宮映画館]
まっすぐ、素直に、ズドンと肝にくる映画だ。 [続きを読む]
受信: 2011年8月31日 (水) 19時25分
» 「一枚のハガキ」 [【映画がはねたら、都バスに乗って】]
新藤兼人監督、99歳。余裕綽々だなあ。
戦争の残酷さをおとぎ話のようなセンスで描いて、間然とするところがないって感じ。
キーワードはなんといっても「風情がない」のひとこと。森田芳光の映画「それから」の中で藤谷美和子が呟く「さみしくっていけません」に匹敵...... [続きを読む]
受信: 2011年8月31日 (水) 20時41分
» 一枚のハガキ [パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ]
日本最高齢(99歳)の巨匠・新藤兼人監督自ら、「映画人生最後の作品にする」と宣言した本作。太平洋戦争末期に徴集された100人の兵士のうち、94人が戦死し6人だけが生きて帰った。 ... [続きを読む]
受信: 2011年9月 5日 (月) 15時58分
» 一枚のハガキ [ケントのたそがれ劇場]
★★★☆ 99才になった新藤兼人監督が久々にメガホンを取った作品であり、本人が言っている通り、これが彼の最後の作品になるかもしれない。生きているだけでも大変なのに、100才間近になって、しんどい映画作りに挑戦した精神力は賞賛したいね。 最近の邦画は、T... [続きを読む]
受信: 2011年9月28日 (水) 10時51分
» 映画『一枚のハガキ』劇場鑑賞。 [ほし★とママのめたぼうな日々♪]
7月にのびたさんが広島の映画祭で試写をご覧になった時に 「御年99歳の新藤監督がご自身の体験を元に書かれたオリジナル脚本 [続きを読む]
受信: 2011年10月18日 (火) 21時32分
» 一枚のハガキ [映画とライトノベルな日常自販機]
“監督自身の体験と熟練の技が、戦争の非情さと絶望からの再生を丁寧に描きます” この作品は戦場で命を落とした人の視点ではなく、。“お国のため”と家族を奪われた人々の視点で描かれています。 定造の出征のシーンで定造や友子達家族などが行進して画面からアウトしていったその直後に、空の骨箱を首から下げて戻ってきます。銃声も爆発もないのに戦争があっけなく愛する人を奪ってしまうことを強烈に観る人に刻みつけるように感じます。 友子は夫の戦死から連鎖する家族の死を運が悪かったと言い聞かせながら、水道も電気も引けない貧... [続きを読む]
受信: 2011年11月24日 (木) 09時31分
» 一枚のハガキ [ゴリラも寄り道]
一枚のハガキ【DVD】(2012/02/21)豊川悦司、大竹しのぶ 他商品詳細を見る内容(「キネマ旬報社」データベースより)
日本最高齢の巨匠・新藤兼人監督が描く反戦映画。
戦争末期に召集された中年兵は、クジ引...... [続きを読む]
受信: 2012年4月 4日 (水) 19時43分
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