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2011年8月16日 (火)

チェルノブイリ・ハート

Photo_2 2003年の第76回アカデミー賞短編ドキュメンタリー授賞作品。1986年4月26日に起こったチェルノブイリ原発事故から16年、しかしウクライナ・ベラルーシ・ロシアには約100ヶ所のホットスポットが未だ存在する。ドキュメンタリー作家のメアリーアン・デレオ監督がベラルーシの子供たちを中心に、被曝被害の現実を描き出した問題作だ。
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これが四半世紀後の日本でないと誰が言えるの?

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とにかくショックだった。もちろん今のフクシマと当時のチェルノブイリを同列に論じることは出来ないと思う。何しろ放射線に対する認識も、危険度も全く現在とはと異なるからだ。しかし四半世紀前に起こった史上最悪の原発事故から我々は何を学んだのか。筆者も含め完全に遠い国の事と思っていたのではないか。正直言って事故が起こる前であれば、それも致し方ないと思う。しかし事故後、日本政府は地域住民に対して、特に子供たちに対して必要充分な措置をとっているとは到底言いがたい。一例を挙げれば、作中では高校生たちから定期的にセシウムの量を検査し、急激に増えていた場合は何故そうなったのかをキチンと調べるシーンがあった。

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結果的にその少年が好きだったジャムが汚染されていたのだが、これなど日本でも同じことをすぐにでも実施すべきだ。生徒の数が比べ物にならない程多く、とてつもない費用がかかることは百も承知だが、そのための労苦は我々大人が背負っていかざるを得ない。それは現在原発に賛成反対とは関係なく、事故が起きるまで無関心で生きてきたことに対する責任としてである。話を作品に戻そう。タイトルになっている『チェルノブイリ・ハート』とは事故の影響で心臓に穴の開いた重度の疾患を指す。具体的には心室中隔欠損症や心房中隔欠損症、或いはその両方を同時に抱えている患児たちのことだ。何しろベラルーシでは新生児の85%が何らかの障害をもって生まれてくるというのだから驚きである。

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マリアン・デレオ監督は、“チェルノブイリの子どもたちプロジェクト”を設立したアディ・ロシュという女性に密着し、チェルノブイリ・ハートの子供たちだけでなく、障害を持って生まれてきた子供たちの現実をそのまま映像に残していた。厳密に言えばチェルノブイリの原発事故が直接の原因かどうかは解らない。しかし、事故後から急激に障害児やがんが増加したことは統計的に明らかなのである。そしてこれは四半世紀後の日本なのではないかと思わずにいられない。最初に書いたとおりチェルノブイリとフクシマは同じではない。しかし現時点で25年後に同じことが起こらないとは誰に言えようか。食物を始めとして、子供たちの健康に気を使い、結局何も起こらなかったらそれでいい。

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いやむしろそうあって欲しい。アディさんは重度の障害のため孤児となった赤ん坊を抱き上げ「せめてこの瞬間だけでもこの子達に愛を注いであげたい」と語る。胸が張り裂けそうに辛かった。はっきり言ってこの子たちに未来はないのだ。チェルノブイリ・ハートで心臓手術を待つ子供は300人を超える。手術を受けられなければ間違いなく2~5年の間にその子たちは死ぬのだ…。「子供たちはずっと病気と付き合っていかなければならないんですね?」という問いに「そうじゃない、この病気とは付き合っていけない。」と応える医者の表情が印象的だった。ちなみに本作は2008年に制作された『ホワイト・ホース』という短編ドキュメンタリーも同時に上映されている。

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事故から20年後に故郷の自分のアパートに帰る青年に密着したドキュメンタリーだ。荒れ果てたアパートの一室で自分の書いた絵やポスターを指しながら当時の事を語る青年。しかし1986年の古びて黄ばんだカレンダーが何より当時を象徴している。「このカレンダーは4月以降は必要ないんだ!全て台無しにしやがって!」とカレンダーの4月の部分以外を破いてしまう彼のやるせない気持ちが余りにキツイ。そして、もう二度と来ることはないだろうと言っていた彼の言葉は本当になってしまった。1年後彼はこの世を去るのである。マリアン監督からのメッセージは今世界中の誰よりも日本人が理解できるはずだ。全部で1時間程度の作品である。子供たちの未来のために、1時間だけ時間を作って観に行って欲しい。

個人的おススメ度5.0
今日の一言:知は力なり

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