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2011年9月 9日 (金)

あしたのパスタはアルデンテ/Mine vaganti

Photo 南イタリアのレッチェを舞台にしたヒューマンコメディ。一家の次男坊がローマから帰郷し、家族に重大な秘密を打ち明けようとするのだが、ひょんなことから大騒動に発展してしまう。主演は『輝ける青春』のリッカルド・スカマルチョ、共演に『副王家の一族』のアレッサンドロ・プレツィオージ、『シチリア!シチリア!』ニコール・グリマウドらが出演。監督はフェルザン・オズペテクが務める。
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『あしたのパスタはアルデンテ』というこの解ったような解らないようなタイトル。パスタをアルデンテに茹でるのはコツがいる、でもきっと明日は上手くアルデンテにできるさ!という意味が転じて、明日は今日よりもいい人生がきっと待っているだろうという意味だと筆者は邪推する。若干クサいと思うのだが、本編を観終わるとこのタイトルがフィットする実に暖かい感動にに包まれる作品だった。物語のプロットは予告編を見ると全部解ってしまう。ローマに住む作家志望の青年トンマーゾ(リッカルド・スカマルチョ)の兄アントニオ(アレッサンドロ・プレツィオージ)が実家のパスタ会社の社長に就任した晩餐会で、とある重大発表をしたことから家族関係がめちゃくちゃになってしまう。

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実はトンマーゾはゲイでそれをこの晩餐会で発表しようと思っていたのだが、何とアントニオも同じくゲイだったのだ。勘当されたアントニオ、そしてショックで倒れた父の代わりに、トンマーゾはローマに戻ることも出来ず止む無くパスタ会社の共同経営者となる羽目に…。本作で面白いのは個性的な大家族たちと、その家族間に交錯する想いが複雑なところだ。父と母は身内にゲイがいるなんてとひたすら世間体を気にしているが、長女は自分は自分と別にあまり気にした風もない。叔母はそんなことよりも自分が男を漁るのに夢中で、唯一祖母だけが事実を知って尚アントニオのことを理解し受け入れていた。これには理由があって、祖母は自分の生き方と彼の生き方を重ねていたのだ。

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随所に挿入される花嫁衣裳の女性とタキシードの男性、その意味が徐々に明らかになるにつれて、ゲイ云々がこの作品のテーマではなく、人間は誰しも自分の望む通りの人生を送ることが、それが例え困難な道であったとしても幸福なのだということを教えてくれる。その一例が共同経営者のアルバ(ニコール・グリマウド)だ。彼女は美しい女性だ。しかし子供の頃から変わり者で情緒不安定だと言われてきた彼女は、そう言われ苦しみながらも本当の自分を解放しながら生きてきたのである。そんな彼女にトンマーゾは自分がゲイであることを話しつつも、相変わらず父のため家族のためというがんじがらめの生活を送っている。ある意味似た者同士の2人だが、その生き方は対照的というワケだ。

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ともすれば重くなりがちなこの手の話なのだが、本作はイタリア映画らしくとても陽気に表現している。特にトンマーゾの恋人マルコと友達たちが週末に彼の家を訪れて海に繰り出す下りは、単純にコメディとしてケッサクだった。彼らは全員ゲイである。当然トンマーゾの家族にはそれは秘密なのだが、隠そうとしても思わず出てしまったり、家族たちとのトンチンカンな会話に思わず笑ってしまうのだ。海で遊ぶ友人たちとアルバ、そしてそれを黙って見つめているトンマーゾ。周りが自分をどう思うかではなく、自分がどう生きたいかを実践している彼らの楽しそうなことといったら!そしてトンマーゾはある決断をすることに。しかしその決断が悲しい決断も生んでしまうとはこの時想像する由もない。

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実は祖母は好きな人がいたけれど結婚した相手はその兄だった。そしてどうやら今は糖尿病を患っていて、甘いものを禁止されているらしい。トンマーゾが工場を辞め作家になることを家族の前で宣言したことは、祖母にとってとても嬉しいことだったに違いない。孫が自分の思い通りの人生を歩もうと決意したのだから。しかし同時に自分に課せられたくびきを解き放つ機会としてしまったのは残念でもある。彼女は大好きなケーキを暴食し、言ってみれば覚悟の自殺をするのだった。それは表面上は禁止されていた甘いものを食べたということだが、本質的には死して愛する人の元へ旅立ちたいという想いに他ならないのだと思う。自由に生きることは時として自由に死ぬことと同義なのかもしれない。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:ニコールって鈴木紗理奈に似てない?
総合評価:76点

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