スイッチを押すとき
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『リアル鬼ごっこ』の山田悠介原作と聞いては観ない訳にいかない。結論から言うとまあまあ楽しませてもらった。このある種独特のパラレルワールド感が個人的に好きだ。物語の舞台となっているのは、10代の自殺が激増した近未来の日本。国は青少年自殺予防プロジェクトを発足させるのだが、それはなんと10歳の子供をランダムに収容所に連行し、その心臓に起爆装置を埋め込む手術を施した上で、それぞれに自分用の起爆スイッチを持たせるというものだった。要するに、それを押せば楽に死ねるということで、自殺に到る心理状態を観察しデータとして蓄積しようと言うワケだ。どことなく設定が『バトル・ロワイアル』を思わせるのだが、本作の方はサスペンス要素の強い作品だと思う。


最初は相当の人数がいたらしいが7年後の現在はYSC横須賀に6人を残すのみとなっている。ここに新任看守として南洋平(小出恵介)が赴任してくるところから物語が始まるのだが、前後のストーリーや南が異様に少年たちに優しい様子を観ていれば、これはもう彼は少年たちを自殺させるために来たのは明白だ。ただそれが解っていたとしても、それならばどうやって彼らにスイッチを押させるのかという部分に見入ってしまった。もっとも映画とはいえ、人を自殺に追いやる方法に興味津々というのもどうかと思わないでもないのだが…。人を自殺に追いやる方法、それを南は「人は絶望した時に死ぬんじゃない。希望を失った時に死ぬんだ。」と言い表していた。


少年たちに希望を抱かせ、それを無残に打ち砕く。これ以上ない惨いやり方だが、個々人の事情に合わせた計画は上手いものだと思う。ちょっと残念なのが、せっかく6人の生き残り少年たちがいるのだが、当然順々に自殺してゆくことになるため、一人当たりの人物に感情移入し難い点。序盤に次々死んでゆく愛子(菅野莉央)、直斗(佐野和真)、尋(真司郎)の3人はあくまでも南という人間を描くための材料的な扱いでしかない。南の正体を暴くきっかけとなった亮太(太賀)もまた同様だ。最終的に残る真沙美(水沢エレナ)、君明(阪本奨悟)は登場シーンも多いため必然的に馴染んでくるが、真沙美に関してはその背景は殆ど解らないまま終わってしまう。


(ここから先ネタバレ含む)
これは要するに本作は6人の生き残り少年たちがどうこうするという話ではなく、“自殺に追い込む職人”としての南が何故そんな人生を送っているのかという話なのだ。言い換えれば本作における彼の秘密は“自殺に追い込む職人”ということではないということになる。実は彼もYSCに収容された少年の生き残りだった。彼は既に15年に渡って生き残り、全ての被験者を自殺に追い込んだならば、彼だけは生きて社会復帰させてもらえることになっていたのだった。YSC横須賀から脱走した南と真沙美、君明の3人の内、君明は自宅に帰り母とひと時の団欒を過ごす。が、次の瞬間には母親と心中していた。この辺はちょっと描写不足でよく解らない。


南が真沙美に恋をしてしまうのは想定の範囲内で、2人の逃避行はその恋を深めるという意味では効果的に描かれていた。ただ途中で自殺スイッチを海に投げ捨ててしまうのは頂けない。それが可能なら皆捨ててしまえば良いのだから。バトロワの首輪にしても無理に取ろうとすれば爆発するようになっていたように、本来の使い方以外を封じておかなければ。2人の行き先はGPSで監視されていて、結果的に2人はYSC横須賀に連れ戻される。しかしこの作品の肝はここからラストまでの短い部分に凝縮されているといってもいいだろう。結局、真沙美は全ての希望を失い自殺するのだ。ということは、南は結果的にその任務を果たしたことになる。


ただし、その後の南に関しては描かれずに作品は終わってしまう。もしも真沙美の自殺までもが南の書いた絵図通りだとしたら、彼は相当酷いヤツだということになるし、その愛もウソだったということだ。また、逆に彼の任務が完了したからといって彼が自由の身になる保障など何処にもない。つまり、最後の生き残りの彼から、“自分以外の生き残りを全て自殺に追い込めば自由の身になれる”という希望を奪えば、彼は自殺に追い込まれるかもしれないのだ。ここら辺の結末を観客に全て委ねたところが怖くもあり面白くもある。このラストに込められた多彩なストーリーの結末をどう受け取るかで、この作品を好きになれるかなれないかが決まりそうだ。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:何気に福士くんの看守がイイ奴だ(笑)
総合評価:64点
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