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2011年10月 2日 (日)

エンディングノート

Photo 是枝裕和監督の弟子である砂田麻美監督が、ガン宣告を受けた自身の父と遺される家族との最期の日々をカメラに収めたドキュメンタリーだ。熱血営業マンとしてならした砂田知昭さんは、自らの死までの段取りをエンディングノートの形で書き記そうと決めるのだった…。死を目前にした家族とのむき出しの絆に涙が抑えられない。
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鑑賞後、親父に電話した。

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鑑賞直後は何をどう考えたらよいのか解らなかった。様々な思いが去来して、自分の心の整理がつかなかったようだ。一つには主人公・砂田知昭さんの長男と私が同い年であり、自身の父親と砂田さんを重ね合わせてしまったと言うことがある。私の父も砂田さんも高度経済成長期を支えてきた人間であり、今の日本を作ってきた人間だ。「仕事命!」と堂々と胸を張って言える父親の世代を私は限りなく尊敬しているし、恐らく一生超えることが叶わないけれど、挑み続けなければならない大きな壁だと思っている。この映画、ナレーションは監督自身がつけているが、その中で監督は父の事を「段取り命」だと評している。ただ思うにこの世代の人間はみなそうなのだ。

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悪く言えばマニュアル人間なのだけれど、そうすることで仕事をミス無く遂行しようとしたのである。当然そんな父親に育てられた“長男”は父親に欲にて「段取り命」になる。砂田さんの長男がそうであるように、私も全くその部分は同じだ。そこで砂田さんは自らの死に際して死ぬまでの、そして死んだ後の段取りを書き記した「エンディングノート」を作ることにする。本編ではその準備をする様子を10のチャプターに分けて紹介していたが、それはまるでサラ・ポーリー主演の『死ぬまでにしたい10のこと』やジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン主演の『最高の人生の見つけ方』のようだった。即ち自分が死ぬまでにやらなければならない、やりたい事という意味で。

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神父を訪ねて心の安らぎを求めたり、孫娘たちと遊んだり、家族旅行をしたり、果ては総選挙で自民党以外に投票するだとか、葬式をシミュレーションしたりだとかは死に対する準備とはいえユニークだ。そんなユニークな映像の中に監督は父親の半生をキッチリと織り込んでいる。妻・淳子さんと結婚し、子供が産まれ…といった砂田家の人生の節目の映像や写真、会社を退職する時の映像など、良くもまあこんなに残っていたと感心するほどの質と量である。ただ、会社役員まで務めた元気な恰幅のよい砂田さんと、抗がん剤治療の影響かすっかり薄くなった髪に酷く痩せた現在の砂田さんの対比は、残酷で厳しい現実を映し出していた。こうした映像を観ていて私は3つのことを強く感じた。

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1つは家族の絆にも色々あるということだ。もちろんみなご家族はみな中睦まじく、家族旅行の様子は実に楽しそうであり、特に孫娘と遊ぶ砂田さんの満面の笑みは観ている我々も思わず破顔一笑してしまうほどである。余談ではあるが、孫娘とのエピソードで、もう一つ私自身に似ているところがあった。砂田さんが他界される直前、普段はアメリカに住む長男一家が父の容態が悪化したことを受け、無理を押して日本に駆けつけるのだ。お陰で砂田さんは生まれたばかりの3人目の孫娘を抱くことが出来た。実は私の祖父も私が生まれて1ヵ月後に亡くなっている。母の話では孫の私を抱いて喜んでくれたそうだが、顔も覚えていない祖父はきっと砂田さんのように喜んでくれたに違いないと思うのだ。

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話を戻そう。いよいよ衰弱した砂田さんを家族が見守る中、奥様は家族に砂田さんと2人きりにして欲しいと頼む。夫婦水入らずで過ごす最後の時、弱々しい声ながらも砂田さんは奥様に「愛しているよ」と語りかけ、奥様もまた「一緒に行きたい」と泣きながら訴える。長い人生を共に過ごし、問題も抱え別居することもあったのだが、それでも人生の最後に愛していると言い合えるこの2人の姿に心が震えた。果たして私は人生の最後に妻にそう言えるだろうか―。ところで、砂田さんのエンディングノートを遂行するのは「段取り命」を受け継いだ長男の役目である。2つ目に強く感じたのはそんな彼の心情だ。それはもちろん私が彼と同じ立場にあるからである。

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本編中では時としてイラついた様子や、現実を見据えた言動が目立つ長男。ともすれば今そんなことを言わなくても…だとか、そんなに事務的に進めなくても…と感じてしまうかもしれない。しかし私はそこに彼の父に対する愛と家族への責任を感じた。泣いてばかり、悲しんでばかりはいられない、誰かがやらなければいけないのならそれは長男である自分の役目だ、彼の表情からはそんな気持ちが覗える。そしてそれこそが、「段取り命」を受け継いだ自分の親父に対する愛情なのだと思う。では長男の想いがそうだとするならば監督の想いはどうなんだろう。それが3つ目に感じたことだ。砂田麻美監督は家族の一員でありながら、しかし常に一定の距離感で父親を撮り続けている。

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こう書くのは簡単だが、自分の父親が死の淵にいるのにカメラを回し続けられる人がどれだけいるだろうか。無論悲しくないはずが無い。父親の命の灯火が徐々に弱くなっていく様子を見つめ続ける、それもドキュメンタリーとしてある種淡々と。監督はどんな想いでカメラを回していたのか。しかし本編中でそれが映し出されることはない。作り手の端くれとして言わせて貰えば、我々は自らを客観的な位置にに置く事ができる。普段の自分とは別の存在として作り手としての自分は存在していると思う。しかしこれはあまりに特殊な状況だ。砂田監督の撮影中の想いを是非聞いてみたい。鑑賞後、久しぶりに親父の声が聞きたくなって電話してみたのだが「何か用か?」の返事がやけに嬉しかった。

個人的おススメ度5.0
今日の一言:砂田監督、覚えましたよ。
総合評価:94点

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