ステキな金縛り

前作『ザ・マジックアワー』から３年ぶりの三谷幸喜監督・脚本作品。とある殺人事件の証人が何と落ち武者の幽霊だったという奇想天外な法廷ドラマだ。出演は『悪人』の深津絵里、『釣りバカ日誌』シリーズの西田敏行、『天国からのエール』の阿部寛、中井貴一、竹内結子……っとチョイ役まで含めたらとんでもなく豪華なメンバーだ。三谷流のコメディに笑い、ハートウォーミングなドラマに感動する。
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確かに三谷幸喜最高傑作！

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三谷幸喜監督はようやくこの作品から監督として遊びを入れる余裕ができ始めたのだそうで、お陰で尺はこれまでの三谷作品中最長の１４２分。しかし、笑いあり感動ありで殆ど飽きずに一気に鑑賞できてしまった。それにしても驚かされるのがこのキャスティングだ。自らオールスターキャストと言うだけあって、本当にとんでもない面子が揃っている。何しろ、今や日本の誇る一流俳優で、前作『ザ・マジックアワー』ではあの人気キャラ・デラ富樫を演じた佐藤浩市が、今回は主人公・宝生エミ（深津絵里）の恋人で大部屋役者・工藤万亀夫（木下隆行：ＴＫＯ）の友人の俳優・村田大樹という１シーンだけの役なのだ。しかもそれも西田敏行扮する落ち武者の幽霊・更科六兵衛の引立て役としての登場である。

他にも病院で患者を看取るシーンのためだけに唐沢寿明が出演していたり、幽霊が見える女として『アンフェア』の主役・篠原涼子が出ていたり。ちなみに阿倍晴明の親友の子孫・阿倍つくつく役でその篠原涼子の旦那・市村正親も登場する。恐らくエンドロールで名前を見て顔が思い浮かばない人はほぼいないと言って良いだろう。さて、お話の流れは既にテレビＣＭ等でバンバン流れている通りで、六兵衛さんが殺人事件の証人を引き受けるものの、普通の人にはその姿が見えないため法廷でエミが右往左往するというもの。途中で余りにも笑いすぎてついつい忘れがちだが、最後に来るとそういえばこの作品はミステリーだったのだと思い出したのだった。

といっても別にミステリーはそんなに期待するほどではない。というか、観た瞬間に解った。何故なら竹内結子が一人二役やってるから（笑）とにかく細かい三谷ギャグは例によって好みが分かれるだろうが、私は好きで仕方がない。例えば生瀬勝久扮するタクシー運転手・占部薫には物語の初っ端から大笑いさせてもらったし、六兵衛さん絡みでは心霊写真に写り込むルールなんかも傑作だ。基本的に法廷劇なので、法廷に常駐するメンバー、即ちエミ、六兵衛、検察官の小佐野徹（中井貴一）、裁判長の菅仁（小林隆）、事務所のボス・速水悠（阿部寛）、そして被告人の矢部五郎（ＫＡＮ）の６人が中心で話が進んで行く。やはりこの中ではエミのキャラクターが実に上手い作りである。

ヘタレだけど熱くて一生懸命なエミ、日本アカデミー賞女優の深津絵里の芝居は今更言うまでもないのだが、そのコメディエンヌ振りは六兵衛を筆頭にともすればクドい位のキャラクターたちをしっかりと受け止めている。面白かったのが六兵衛がらみの芝居だ。実はこれは全員に言えるのだが、六兵衛を見えている人が六兵衛と絡むシーンは別に普通なのは当然だ。しかしその絡む様子を第三者が観ているシーンは、演者の１人芝居になる。ただそこに人がいるつもりで演じることはプロならそれほど難しくはないだろう。問題は六兵衛が目の前にいるのに見えない芝居だ。見えないといっても現実にはそこに西田敏行がいる訳で、ちょっとでも存在を意識した瞬間成立しなくなる。

阿部寛や六兵衛の子孫・木戸役の浅野忠信などは本当にこの辺が完璧だ。また三谷幸喜がニクイのがその“存在を意識した”という部分をネタの一つにきちっと取り込んでいることだ。実は小佐野は六兵衛の事が見えていたのだが、それを黙っていたのだった。見えていたことが明らかになるシーンはこれまた大爆笑してしまった。とにかく内容てんこ盛りでとても書ききれない。オールスターキャストを重い軽いはありつつも、キッチリと役割を持たせてそこにはめこみ、誰一人としてキャスティングしただけという人がいないのは流石としか言いようがない。きっとこうなるのが解っているからこれだけの俳優たちが出演してくれたのだろう。何だかまた六兵衛に会いたくなってきた。

個人的おススメ度4.5
今日の一言：映画好きは小日向さん？（笑）
総合評価：88点

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