アクシデント／意外

『エグザイル／絆』、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のジョニー・トーが製作を務めたノワールサスペンス。事故を装い、証拠を一切残さない暗殺請負人のチームがとある事件をきっかけに崩壊してゆくさまを描く。主演は『コネクテッド』のルイス・クー。共演にジョニー・トー作品ではお馴染みのラム・シューらが出演している。監督は『軍鶏　Shamo』のソイ・チェン。
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疑心暗鬼が呼ぶ緊迫感

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『エグザイル／絆』、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のジョニー・トー製作のクライムサスペンス映画だ。オープニング、道の真ん中で車がパンクし大渋滞が起こる。すぐ後ろの車を運転する男はそれに苛立ち無理に追い越して先に進むものの、ひょんな流れからアパートの割れた窓ガラスを頭に浴びて死亡してしまうのだった。実はコレ、事故死に見せかけた暗殺。ブレイン（ルイス・クー）、ふとっちょ（ラム・シュー）、女（ミシェル・イエ）、おやじ（フォン・ツイファン）の４人はそれぞれが完璧に自分の役割をこなし、ターゲットを陥れるのである。ふとジェイソン・ステイサム主演の『メカニック』を思い出したが、こちらはチームと言う部分が異なる。

原題は『意外』というのだが、これは日本語で言う所の“事故”を意味している。物語の中身と照らし合わせるとこのタイトルは深くて面白い。さて、完璧なチームであったこの４人、次の依頼を引き受けたことで崩壊してゆく。それは質屋の息子が自分の父を殺して欲しいというものだった。“偶然”の“事故”を装う完璧な計画で、作戦そのものは成功するのだが、この時暴走バスがブレインとふとっちょに突っ込んでくる。そしてブレインは間一髪かわすものの太っちょは轢かれて死亡してしまうのだった…。しかも自宅に帰ると部屋が何者かに荒らされている。警察は泥棒だというが、果たしてこの一連は“偶然”なのか…。観ている方もこの時点ではどちらとも言えず緊迫感に包まれる。

質屋の息子のラインから登場するのが保険会社のフォン（リッチー・レン）という男。この男に疑念を抱いたブレインは、彼のアパートの部屋の真下に自分も部屋を借り、彼の素行調査を始めるのだった。面白いもので、人間は自分に後ろ暗い所があると、人に対しても極度に疑り深くなるものなのだ。そもそもブレインはその名が示すとおりチームの頭脳であり、完璧な作戦を立てるのは彼の役目である。聡明なその頭脳は最初はフォンの事を問題なしと導き出しているにも関わらず、結局自らの疑念に囚われてそれに引きずられ、自分に都合の良い解釈をしてしまう。即ち彼が黒幕だと。この段階でも、観ている方としては目線がブレインになっているため、まだ判断が付かない。

何しろ、フォンの電話を盗聴した中身と、おやじがアパートの２階から転落する事実が合致したり、仕掛けていた盗聴器が発見されたり、女が何故か死んだふとっちょの変わりに仕事の報酬を回収に出かけたりと疑い始めたらいくらでも疑えるシーンが目白押しなのだ。もっとも結果が解っている今考えるとブレインの完全なる独り相撲でしかないのだが（苦笑）ルイス・クーの端正な顔立ちは、当初感情を一切浮かべない冷徹なコンピュータのようである。それが徐々にあせりと怒りに支配され人間味を取り戻してくるのだが、導かれる結果が誤りであるというところが皮肉だ。しかし勝手に追い込まれていく人間心理をとても上手く表現していたと思う。

最終的にブレインはフォンの暗殺を決意する。が、ギリギリの段階で何と皆既日蝕が起こり失敗するのだ。しかも同じタイミングで死んだと思っていたおやじから電話がかかってくる。全て“偶然”だったと気付いたブレイン、計画を中止しようとするも間に合わず、フォンではなくフォンの婚約者を殺してしまうハメに…。確かに日蝕の存在は“偶然”の存在を思い起こさせるものではあるのだが、個人的に“偶然”だと気付かせる直接の方法が一本の電話だというのがちょっと弱い気がする。この時点でラストにフォンの死が待っているのはそれこそ“必然”なのだが。ジョニー・トーらしい雨や暗闇の使い方で渋い画作り、人間心理の裏側を描いた作品だったと思う。

個人的おススメ度3.0
今日の一言：ラム・シューさん出番少なっ！
総合評価：68点

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