密告・者/綫人
そこに2人の哀しい男の生き様があった |
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香港ノワールらしいハデさとドス黒さが渦巻く見応えたっぷりの作品だ。本作の最大のテーマは劇中のセリフにもある「友人の“ように”扱え、友人じゃない。」これに尽きる。捜査のために犯罪組織に密告者を潜り込ませる捜査官と、止むにやまれぬ事情で密告者になった青年、この2人の関係は最終的にどちらに転ぶことになるのか。過激なクライムアクションとあわせた2人の心情描写に否が応でも引きこまれたのだった。物語の序盤はある麻薬取引の捜査のために捜査官ドン(ニック・チョン)が使っていた密告者の正体が敵にバレ、瀕死の重傷を負わされるエピソードから始まる。ちなみにこのシーンが激痛。単に殺されるのではなく短刀でひたすら斬り付けられるのである。


観ているこちらが思わず顔をしかめてしまうほどの痛みと恐怖、もうある意味すんなり殺されるほうが幸せで、その密告者は恐怖で精神異常をきたしてしまうほどだ。彼が警察の保護を求めるも、わずかばかりの金で放り出したことにドンは良心の呵責を感じる。ただ、この様子は最初は解らない。物語が進んでゆく過程で、おかしくなってしまった彼の面倒を自腹で見続けている彼の様子が描かれてゆくのだった。再起不能のこの男の代わりにドンが目をつけたのがサイグァイ(ニコラス・ツェー)だ。娼婦の妹を救い出すために100万ドルの金が必要な彼は、強盗団のボス・バーバイ(ルー・イー)を逮捕した暁にその金を受け取る約束で密告者として組織に潜り込むのである。


彼はその天才的ドライビングテクニックで、バーバイの運転手として雇われるのだが、カーチェイスシーンは本作の見所の一つだろう。カーアクションそのものもさることながら、必死で逃げる真剣な息遣いが聞こえてきそうな緊迫感に痺れるのだ。この辺は、序盤に見せた密告者の斬り刻みシーンが効いている。即ち追うものと追われるものの真剣さが物語り序盤に観るものの体に刻み込まれているのである。さて、アクションシーンとは別に本作で面白いのは2人の置かれた状況と抱えているものの大きさの違いが対照的だということだ。先にも書いたとおり、ドンは前の密告者の面倒もみている以外にも、実は自分のせいで記憶を失ってしまった元妻の存在も抱えていた。


ただしかし彼は自身が危険に晒されることはない。一方のサイグァイはもちろん妹の存在はあるが、何より彼自身が常に命の危険に晒されているのだ。しかも、非常に徹し切れなくなっているドンは、ある意味でサイグァイとその妹の身までも抱えているといっていいだろう。それでも捜査が順調に進んでいるうちは良かった。無事バーバイが逮捕されれば、サイグァイもドンの双方がウィンウィンなのだから。しかし事は思わぬ展開を見せる。その不確定要素がヒロインのディー(グイ・ルンメイ)だ。銀行強盗の後、彼女はバーバイを裏切りサイグァイとともに逃げるのだが、その際に起こった火災が犯罪の証拠を全て消し去ってしまうのである。ドンは上司からサイグァイに証言させるように命じられる。


密告者に証言などさせたら生き残りのメンバーに間違いなく殺されるに決まっている。捜査官としての自分と人としての自分の間で葛藤するドン、しかもそんなタイミングで自分のせいで記憶を失っていた元妻が交通事故に遭い瀕死の重傷を負ってしまう。刀で斬られる肉の痛みは相当だが、正にこの時のドンは心がズタズタに切裂かれていたと言えるのではないか。結論から言うと本作に救いは無い。上司の許可を得ず金をサイグァイの妹に渡したドンは最後に逮捕される。一方サイグァイはディーを逃がしバーバイに斬殺されるのだ。双方共に己の人としての良心に従った結果、それが自身を破滅に導くのだから皮肉としか言いようが無い。とはいえこの哀しい男の生き様が香港ノワールの魅力だ。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:ニコラスは悪人に見えないんだよねw
総合評価:75点
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