マーガレットと素敵な何か/L'âge de raison
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ちょっとファンタジックな自分探しの物語 |
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やけに久しぶりにソフィー・マルソーを観たと思いきや、日本で彼女の作品が劇場公開されたのは2003年の『あなたにも書ける恋愛小説』以来8年ぶりらしい。個人的な話をすると、私が子供の頃のフランス人女優と言えばソフィー・マルソーかシャルロット・ゲインズブールだった。あの頃の美しさは45歳になった今も相変わらず健在で、本作では時にクールな大人の魅力を、時に愛らしい少女のような可愛らしさを見せてくれる。物語の流れは端的に言うと今流行の自分探しモノだ。主人公マーガレット・フロール(ソフィー・マルソー)は何かといえばココ・シャネルやエリザベス・テイラーなどの名前をつぶやき自らを落ち着かせるほどに彼女たちを理想としているバリバリのキャリアウーマンだった。ゆくゆくは社長の座を目指し、日々仕事に没頭している。


携帯電話を常に片手に持ち、分刻みのスケジュールをこなし、アシスタントの若い男性社員に命令する姿はステレオタイプなキャリアウーマンなのだが、ソフィーの理知的な表情と年齢がそれに説得力を与えてくれるから不思議だ。そんな彼女の元をメリニャック(ミシェル・デュショソワ)という老人が訪ねて来た。彼は一通の手紙を彼女に渡し、受領証にサインを求める。書かれた署名“マルグリット”は間違いではないかと指摘するが、彼女はあっさりそれを否定するのだが、どうも裏になにかあると思わせる拘りぶりが気になる…。手紙は7歳になった時の彼女が未来の自分に宛てて出したもので、ここから彼女の封印された過去が明らかになる。


それは簡単に言えばそれは家族崩壊の歴史とも言えるだろう。父親に逃げられ、家財道具が全て差し押さえられ、極貧にあえいでいた少女時代。しかし届いた手紙の内容からは、当時のマーガレットのちょっとおしゃまな様子が覗えて楽しい。そう、マーガレットは彼女の本名なのだ。同時にマーガレットをマルグリットに変えたことこそ、彼女が過去を封印し、上を目指すことの象徴でもあった。数日後に再び届けられる手紙。徐々に彼女は子供の頃を思い出す。弟のこと、結婚を約束した幼馴染のフィリベール、そして彼と共に穴を掘って埋めた宝物のこと…。確かに極貧生活ではあったけれど、子供心にそれは楽しい思い出だったのだ。客観的に観るとこのシークエンスは結構コミカルに描かれていた。


例えば家財道具を差し押さえられている最中に、机にバースデーケーキを置いて誕生日を祝うシーンは、子どもらしい現実認識のプライオリティがよく現れている。子どもに取っては差し押さえなどより、自分の誕生日とケーキの事の方が重大関心事なのだ(笑)他にもフィリベールの掘った穴が地球の裏側まで届いていて、こちら側からパンを投げると、アフリカの貧しい子どもたちにパンが届くといった、ファンタジーがかったシーンまでもある。これらは決して現実逃避ではなく、7歳の子どもが抱く楽しい空想世界なのである。この愛らしい子ども時代と現在のマーガレットが自然とリンクして見えるのは、ソフィーの子どものようなどこかフワッとした可愛らしい雰囲気ゆえだと思う。


現実は水道や電気まで止められ、唯一最後まで残していたマーガレットの宝物であるクラリネットまで売り払い、家族は母親の友人の家に居候をすることになる。ことここに到り、彼女は自らを封印し、大人になることを余儀なくされるのだった。つまり事実上この瞬間に彼女はマルグリットとなるのである。全てを思い出した彼女はこの後、メリニャックを訪ね、フィリベールや弟と再会する。それは正に封印した自分を取り戻すための工程でもある。本当はすぐにでも元の自分に戻りたい、しかし今の現実の自分も捨てがたい。彼女は2つの思いの狭間で葛藤する。人は誰しも自分らしく生きたいと願い、しかしそれと現実が重なることの方が少ないものだ。
たとえ元々望んでいたものとは違っていても、人間が積み重ねてきたものを捨てる決意をするのは並大抵ではない。そこで一歩踏み出す勇気の大切さを教えてくれる作品だった。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:ソフィー若いなぁ…
総合評価:65点
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