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2011年12月29日 (木)

CUT

Cut イラン人監督アミール・ナデリが日本を舞台に日本人俳優で制作。売れない映画監督が借金返済のために殴られ屋になるのだが、彼を通じて溢れんばかりの映画愛が感じられる作品だ。脚本には『東京公園』の青山真治とが参加している。主演は『サヨナライツカ』の西島秀俊。共演にでんでん、常盤貴子、菅田俊、笹野高史、鈴木卓爾らが出演している。
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映画に苦しめられ、映画に支えられ

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キャッチコピーの「映画のために死ね」はある意味正しくて、ある意味間違っていると思う。主人公・秀二(西島秀俊)は死んでもいいぐらい映画を愛しているけれど、それはシネコンにかかるような商業主義の娯楽映画ではなく、芸術としての映画のことを指している。そして黒澤明の墓前で自分もそういった作品を作りたいとつぶやいていた。だから彼は映画のために死ねるけれど、同時に映画のために死ねないと思うのだ。秀二は売れない映画監督だった。これまで3本の映画を兄から借金して撮ったものそれは全く売れていない。鬱積したその気持ちを吐き出すかのように、商業主義の映画に対する批判を街中で人々に訴え警察に追われたりもする。彼は言う「映画は死に掛かっている」と。

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そんなある日、兄が借金のトラブルで死んだと連絡が入る。実は兄はヤクザで組織から金を借りていた。兄の残した借金は約1254万円。秀二はそれを2週間以内に返済するように迫られる。返せなければマグロ船の重労働か保険金をかけて殺される。返済する術を持たない秀二は正木の弟分・高垣(でんでん)と出逢ったことで、ヤクザ相手に殴られ屋をすることで金を稼ごうと決意するのだった…。ここから先は秀二が兄の殺されたトイレの中でボコボコに殴られる姿が描かれ続けるのだが、秀二は殴られるたびに尊敬する映画監督の名前を口にして耐える。最初はこの殴られ屋の意味が私にはよく解らなかった。正確には借金返済のための殴られ屋と映画愛の話がどう繋がるのかが掴みかねたのだ。

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1発1万円。しかも途中からは兄貴が死んだトイレを使うショバ代とヒロシ(笹野高史)と陽子(常盤貴子)の2人を使う人件費まで取られるのだから、結局1300発ぐらいは殴られないとならない計算だ。しかし秀二は耐え切る。ボコボコに殴られる秀二を演じる西島秀俊からは、鬼気迫るなんて言葉がキレイゴトに思えるほど生々しい息遣いが感じられた。名作のタイトル・監督名・ワンシーンを挟んでは殴られる。そもそも秀二は何故こんなに殴られなければならないのか。借金のためだ。では何で借金が?映画を作るためである。映画が彼を死の淵にまで追い詰め、しかしその映画が彼をギリギリのところで支えているというこの皮肉―。西島秀俊はナデリ監督にこう言われたそうだ。

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「おまえの両肩には、“映画の罪”がのしかかっている」と。インデペンデント系の作品が殆ど興行的に成功しない現代の日本で、そういった作品を生み出そうとする秀二の命を絶たんとする映画、それでもその映画から離れられない、映画の可能性を捨てきれない、いや離れさせないし捨てさせない、“映画の罪”とはそういうことではないだろうか。私は当ブログで多くの映画を紹介しているが、個人的には商業主義の映画が必ずしも駄目だとは思わないし、もっと言えば商業主義の何が悪いとすら思っている。というより商業主義を否定するならば自分で金を用意して好きなように作り、解る人だけ解ってくれれば良いと言っていればいいのだ。別にそれ自体も決して悪いことではないと思う。

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例えば若松孝二監督などは、自分で金を出して作ってるのだから好きなように作ると言って憚らないのだから。一方で私はインデペンデント系の作品も好きで良く観ているつもりだ。そうした中には実に面白い作品が多く、もっと沢山の人に観てもらいたいと思う作品も多くある。その度にシネコンで公開されているどうでもいい作品の1本をやめてその作品をかけてくれたら思うこともしばしばだ。更に記事をエントリーすると、名の売れたタレントの大したことない作品のほうが、インデペンデント系の作品より圧倒的にアクセス数が多い。記事を書いている立場からすれば数の多寡ではなく読んで頂けるのは大変にありがたいが、映画ファンとしては少し寂しいというのも事実だったりする。

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本作を観ていると、今映画の置かれている環境に色々と想いを巡らす事になるだろう。それはそれぞれの方が住んでいる地域によっても異なると思う。東京に住む私などは基本的に観られない作品は無いのだからとても恵まれている。それでも本作のような作品が現れてくるというのは、そうしなければインデペンデント系の映画を見る機会がどんどん失われていってしまうことの証左に他ならない。西島秀俊は実は結構テレビのドラマやテレビ局主導の秀二の言うところの商業主義の映画にも数多く出演しているが、そんな彼がこの作品に出演していることに意味があるのだと感じる。では私には何か出来るだろうか。私は今まで通り“気になったら観る”で行きたいと思う。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:ナデリ監督がいた!何か普通のオジサンだった(笑)
総合評価:79点

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コメント

僕もKLYさんと言いたいこと・感じたことは全く一緒です。
けれども、本作の「独りよがり」感はホントに受け入れ難いものがありました。

作り手の気持ちは痛いほど分かります。ですが同時に、「偉そうに言ってるお前はどうなんだ?」と問いただしたくなったのも事実です。

ちゃっかり鑑賞前にナデル監督からサインを頂いた身としては言いづらいですが笑
映画としてあまりにも頭でっかちというか、芸がないと言うか・・・


あと個人的に気になったのは、数々の名匠のビラが貼られる中に「SABU」監督の名前があったことですねー。
(「このメンツの中に入れるほどの地位になったんだ(?)」)


投稿: 仙台っ子 | 2011年12月29日 (木) 02時15分

たて続けの投稿で・・・すみません。

20日(火)に私が行った時にも劇場に満面笑顔のナデリ監督がいらっしゃいました。
プログラムを購入してサインを頂きました(笑)
感想を聞かれたけど、見る前だったので「楽しみに見ます」とだけ言ったのでした。
23日(金)のトークショウまで毎日いらしたのかしら?
あの映画の監督さんとは思えない人懐っこい笑顔が忘れられません♪

投稿: 西川ビッケ | 2011年12月29日 (木) 02時27分

◆仙台っ子さん

私は本文にも書きましたが、もっと乱暴に言えばアート系だろうが商業主義だろうが私が好きならそれでいいだろ、何か文句あるかよ!ってスタンスです。映画の評価は作り手でも俳優でもましてや評論家が決めるものでもなく、観たい人が観たいものを観て決めること。だからこれも極端に言うならアート系がそれで滅びてゆくならそれもまた仕方のないことだとすら思っています。(モチロン個人的には嫌ですけどね。)
従ってインデペンデント系映画に目を向けることが一般的な映画愛だとは思いません。この作品で描かれているのはあくまでも監督なりの映画愛だと思っています。そう考えると、映画を観る環境に置かれた方々それぞれに映画愛があって、でもその中のインデペンデント系を愛する人たちの大切なものが失われていく傾向にあるのかもしれないとは思うのです。それはそれでちょっと不味いことだよなと。
SABU監督があの中に入るのはね…(苦笑)だからヤッパリこの作品はあくまで監督の映画愛なんですよ^^;


◆西川ビッケさん

いや、実は日曜に観て、今日また行ってきたんですがいてはりましたwふつーにイラン人のおじさんが座ってるんですよね、またちっこい机の前に。とても世界的な監督とは思えないですよ。
私もパンフ買ってサイン貰いました。ただ初見の時は何を言っていいのか自分の中でこの作品を理解しきれてなかったので御礼だけ(苦笑)今回は前回貰っていたので、他の人を差し置いて何か話しかけるのも憚られたのですっと退散しました^^;

投稿: KLY | 2011年12月29日 (木) 02時48分

アホのATG
オケラです。

この作品は非常にそそりますね。
こういうの大好きです。

ミニシアター、インディ系だと
どうしてもシェアがか切られてしまう
日本の配給システム。特に地方の方は
見る機会が無いと嘆く意見を耳にします。

KLY様のご意見はもっともだと思いますね。自主制作にしてもしきんが必要だし。
まぁ作品にも当たりはずれがあるんで。

この作品にそそられるのは脇を固めている俳優陣がいいなぁ。
プロットもいいですし。これは是非見たいです。
という事でポチ。

投稿: Mrオケラ | 2011年12月29日 (木) 21時28分

◆Mrオケラさん

はっきりいっちゃうと、東京にいる分には困らないんです。やらないことはないから。でも地方にいたらこの状況では著しくジリ貧になっていくと思うんですね。そしてそれがやがて中央にも波及してくる。だからいい続けることは必要かと思ったりします。
作品の当たり外れは基本的にインディもシネコンも関係ないですよね(笑)

投稿: KLY | 2011年12月29日 (木) 22時42分

今日もいましたよ。
てか、現代で殴られ屋とかありえないでしょ。

・・・あ、日付変わってしもた

投稿: | 2012年1月 3日 (火) 00時01分

◆谷さん

年越しでいらっしゃるのね。どうでもいいんですが、何かえらいこっちゃ寂しげな扱いに見えるのは私だけ?
殴りやうんぬんはともかくとしても、少なくとも現在の日本の映画が置かれた状況を考えるきっかけになる作品だとは思いますよ。ただ私は必ずしも監督の意見を肯定はしたくないですけど。

投稿: KLY | 2012年1月 3日 (火) 01時41分

確かに監督来ている・・・てのに
意外と皆自分も含めて冷たい反応・・・
握手のため?並んでいる人少なかった。

多分あの映画の内容ではどうはなししたら
いいかわからないのでは?

投稿: | 2012年1月 3日 (火) 02時13分

◆谷さん

うん、そんなに多くないんですよね。私の時は外人さんが来てて英語で監督と楽しげに話してました。まああんまり深く考えないで、観た作品の監督がいる!ってことでパンフにサイン貰って2Sで写真とかお願いすればいいんでしょうけど。

投稿: KLY | 2012年1月 3日 (火) 02時29分

監督の意志なのか、青山真治の思いなのか、どっちの意向が強いんでしょうかね、あの内容は。
やはり作り手の映画への偏愛だったなあと思いましたが、それはそれでありで、好きです。こうやって想いをぶつける作り。

あたしがダメなのは、単に暴力なので、映画の半分は殴られているのを見る・・というのが自分はどうしてもだめ。
殴られ屋の映画で、殴られるのを見るのがダメって言う時点で、見る資格ないです。
そして西島君を見る!のも私の目的なんで、ものすごい矛盾に満ちた映画になってました。
「休暇」もすさまじかったですが、この映れで変わった!というのが画面自体から伝わって来ました。静かなたたずまいと、ほとばしるような熱情のギャップ。これがいいんだなあ。「セイジ」も見ねばですねえ。はい、もうすぐです。

投稿: sakurai | 2012年4月13日 (金) 08時27分

◆sakuraiさん

うん、私もこうしてストレートにぶつけられるのって好きです。アミール・ナデリ監督は年末からずーっと来日していたらしく、年明けに別の映画を観に行った時にもいらっしゃいまして、何故か同じ映画館で3度会ったという(笑)こういってはなんですがフツーのおっちゃんに見えましたw
セイジはもうすぐ公開ですか。私はやっぱりこれと対で見たほうがよいと勝手に思ってます。特に西島さんを見るという意味では。

投稿: KLY | 2012年4月13日 (金) 23時53分

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