アグリー/UGLY
ミュージックビデオやCMを手がけることが多い柿本ケンサク監督がフランスはパリでオールロケを行ったという作品。主演は『源氏物語 千年の謎』の窪塚洋介。共演には『鉄男 THE BULLET MAN』の桃生亜希子が出演している。パリの風景の中に描き出される主人公の姿はまるでドキュメンタリーのようにも見える。 |
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如何にもPVやCM監督らしく映像的なセンスのよさを感じさせる作品だった。が、ストーリーそのものは特にどうというものでもなく、描写不足が目立っていた。更に監督はそのプロットで、“メッセージを込める訳ではない映画”と語っているそうで、実際主演の窪塚洋介は“それはお客さんに求めればいいのかな”と言っている。要するに俗に言う挑戦的な作品というヤツな訳だが、それらの作品が往々にして陥る作り手の自己満足に本作も嵌っていたように思う。大体メッセージを込めないのなら表現の手段たる映画など作る必要はない。逆に言えば映画の形にして公開しようとしている時点で、そこには何らかのメッセージが込められているはずで、既に監督のいうことは矛盾している。
物語は窪塚洋介扮するカズヤというカメラマンがパリを訪れるている所から始まる。街並みをカメラに収めている姿は何となくしっくり来た。カメラがデジカメではなく銀塩カメラというところもミソだ。一応彼は猫を届けに来たことになっているが、誰の猫で何故そんなことを引き受けたのかは解らない。また謝礼を道端のホームレスに全部渡してしまうのだが、それとは別にいつの間にか有り金全てを失っている事になっていたりする。「つじつまなんか合わせようとするから、つじつまのあった映画しかできないと思うこともあります。」これも監督が言っていることだが、確かにそういう一面はあるけれど、だからといって本作のように個々の事象に関して無作為に並べていることが良いとは思わない。
いや、作為はあるのかもしれないが、私には解らなかった。私は個々のエピソードは一本の物語の中できちんと意味づけが無ければ、それは単に感じの良い映像に過ぎないと思う。金なしカズヤはサトシという男を捜し、彼の住んでいたアパートを訪れるものの、そこに住んでいたルームメイトのアントワンヌとニマは何も話そうとしない。ところが、偶然街で知り合った理恵(桃生亜希子)から、実はサトシが自殺していたことを聞く。広いパリでそんな偶然があるのかと思うが…。そもそも彼女の部屋で彼女がサトシから借りたというカメラがあり、それもそのカメラはカズヤがずっと欲しかった型式であるというタダのカメラではない時点で2人が付き合っていただろうことは想像に難くない。
しかも2人は一瞬にして恋に落ちる。この辺の性急な展開と、無理矢理な人間の結び付け方はちょっと興醒めだ。更にニマがこれ見よがしにお腹をさすり妊娠をアピールした上で、アントワヌは「サトシは何か問題を抱えていたようだが俺たちには言わなかった」とまでいう。とどめは理恵の精神不安定さで、カズヤがちょっと外出しただけでその行き先を異様に気にし、一人にしないでと泣き崩れるに到っては、物語中盤にして全ての筋書きが読めてしまった。ちなみにこれは全てカズヤが実際に自分で見聞きした事象なのに、彼が最後まで何も気付かないというのは、流石に鈍感にも程があるというものだろう。とはいえ、全編の中で物語として成立するのはこの部分だけだった。
先に書いたとおり、序盤のカズヤの様子やアントワヌと知り合い何かの犯罪の片棒を担ぐシークエンス、そしてそのアントワヌが仲間に裏切られてにっちもさっちも行かなくなるエピソードなどはそれだけ別の話のようで、作品全体の中で特に効果的な意味があるようには思えない。『UGLY』とは“醜い”という意味で、確かに人の醜い部分は描かれているし、その中で言えばもしかしたらカズヤだけがピュアな存在に近いのかも知れないが、メッセージは込められていないというのだから、これも私の勝手な思い込みということになる。残念ながら、当日行われた上映前の柿本監督と李相日監督、俳優・村上淳さんのトークショーの方が映画本編よりはるかに面白かった…。
個人的おススメ度2.5
今日の一言:桃生亜希子の狂気の演技が良かった
総合評価:56点
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