« ブラッディ・パーティ/Wir sind die Nacht | トップページ | アグリー/UGLY »

2011年12月28日 (水)

灼熱の魂/Incendies

Photo レバノン出身の劇作家ワジ・ムアワッドの同名戯曲を『渦』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化。中東からカナダに移り住んだとある女性ナワルが辿った壮絶な人生をその娘ジャンヌと息子シモンが辿る。次第に明らかになるその驚愕の運命とは一体…。主演は『パラダイス・ナウ』のルブナ・アザバル、共演にメリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット。
>>公式サイト

偶然なら神の存在を疑ってしまう

book あらすじ・作品情報へ book

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへみなさんの応援クリックに感謝デスsunshine

01

(注意:ネタバレで書いています)
元となった戯曲は日本でも「焼け焦げるたましい」というタイトルで上演されたそうだ。中東を舞台に繰り広げられていく物語ということで、これまでも数多くあったイスラムとユダヤの対立に関する話かと思いきやこれがまるで違った。本作はかなりの上質なミステリーである。それと気付かせずに展開し最後に襲い来る衝撃の事実は、まるでアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』を観た時のあのショックに等しいものを感じた。ちなみに本作は昨年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品であり、そのときの授賞作品は『未来を生きる君たちへ』、同ノミネートに『Biutiful ビューティフル』などがある。物語は中東系のカナダ人女性ナワル(ルブナ・アザバル)が亡くなったところから動き出す。

02

03

彼女は2人の姉弟ジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)にそれぞれ一通の封筒を残したのだ。ジャンヌのそれには父を捜すように、シモンのそれには兄を捜す様にと書かれていた。父は死んだんじゃ?兄なんていたの?と戸惑いながらもジャンヌは母の故郷に向かう。物語は言うなれば母のルーツを辿る旅であり、それは即ち自分たち指定のアイデンティティを探す旅でもある。ジャンヌが特定の場所に辿り着くたびに、母の過去が一つ一つ明らかになり、そのときのナワルの姿が映像として私たちの眼前に展開されるという構成だ。年取ったナワルとジャンヌは当然母娘だが、若かりし頃の2人は非常に良く似ていた。

04_2

05_2

いや、モチロンよく見れば違うのだけれど、特に回想と現実の境目に何らかの映像効果を挟む事もなく、そのままカットでつ繋げる編集のせいか、頭の中で過去と現在が勝手にオーバーラップするようであり、母と娘の繋がりがどこかあやふやになったのかもしれない。しかし後から考えるとこれは一つの伏線だったように思う。実はナワルはキリスト教徒だったが、若い頃イスラム教徒の男性と恋に落ち、息子を産んでいた。ということはそれが兄なのだろうか。ただ、この宗教的不義によってナワルは村を追い出され都会の叔父の家に身を寄せるようになる。これが彼女の第一の運命の転機だ。その後、内戦状態となった国でナワルはその人生を翻弄されるのだが、彼女はテロリストとして捕らえられる。

06_2

07

そこで彼女は筆舌に尽くしがたい拷問、陵辱にあい、しかも妊娠し双子を出産することに。これが第二の運命の転機だった。愛する人との子どもは生まれてすぐに孤児院に捨てるように引き渡され、愛してもいない男との間に生まれた子どももまたすぐ引き離される。経過や結末はどうあれ彼女が子供を愛していたことは間違いないないのにこの状況は、女性としてあまりに悲惨としか言いようがない。最初はこの時の子が2人の兄なのかと思ったのだが、出産シーンで身篭ったのが双子だと判った時点で、これはもう誰でもピンとくるだろう。そう、ジャンヌとシモンは犯されて生まれてきた子だったのだ。当然ながらジャンヌのショックは計り知れない。これには観ているこちらもただただ呆然だった。

08

09

ところが不謹慎ながら「じゃあ、父親は母を犯した男アブ・タレクだとして、兄はどこいった?」という疑問が首をもたげてしまう。中東を舞台としたヒューマンドラマとして見たらよいのか、ミステリーとしてみたらよいのかという変な葛藤・不安定さがどうしても自分の胸の中に広がってゆく。さて、ここでシモンの登場だ。シモンの役目は兄を捜し出す事。最初に母が産んだ子供は孤児院に預けられニハド・ド・メと名付けられたという。こうしてシモンは姉と同様に兄のルーツを辿り始めるのだった。見事としか言いようが無いのはここからだ。即ち姉弟が捜し求めた2人は何と一点に行き着くのである。シモンが呪文のようにつぶやく「1+1=1」の意味そのことに他ならない。

10

11

全くもってそんなことが起こり得るのか。全て偶然だとするならば、キリスト教もイスラム教も、いや神の存在意義そのものが疑われてしまう。そしてそもそもこの作品の眼目はそこにあるのかもしれない。異なる神であっても結局一つに融合する、それはジャンヌとシモンの存在そのものがイスラムとキリストの融合の結果と言えるからだ。先に書いた心の不安定さ、それすらも作者の計算のうちなのかもしれない。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:生物学的には同じ遺伝子になるのか…
総合評価:82点

にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ
↑いつも応援して頂き感謝です!
今後ともポチッとご協力頂けると嬉しいです♪

|

« ブラッディ・パーティ/Wir sind die Nacht | トップページ | アグリー/UGLY »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/197507/43534523

この記事へのトラックバック一覧です: 灼熱の魂/Incendies:

» 「灼熱の魂」 [或る日の出来事]
予告編を見るたびに泣けていたけど…本編を観て、それほどでもなかった…。 [続きを読む]

受信: 2011年12月28日 (水) 21時13分

» 灼熱の魂 [食はすべての源なり。]
灼熱の魂 ★★★★☆(★4つ) 母の遺言から始まった、父と兄を探す旅。 国境を越えて、時を越えて、 母の過去のなかへ―。 宗教上の理由から、愛する人を殺され、子どもは孤児院へ。 政治犯としてとらえられた監獄で、性的暴行の末生んだ双子とカナダへ移民。 事前情報だけでも、壮絶だったのにそれ以上のラストって・・・?とかなり気になっていました。 ドキュメンタリー映画かのように淡々と進みます。 衝撃な事実が分かっても、止まることなく同じペースで・・・ でも、最後、母から双子へ渡された言葉で一気に胸... [続きを読む]

受信: 2011年12月28日 (水) 22時36分

» 灼熱の魂〜現代版エディプス王の悲劇 [佐藤秀の徒然幻視録]
1+1=1 公式サイト。原題:Incendies(フランス語で火事)。レバノン出身でカナダ・フランスで活動する劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲「焼け焦げるたましい」が原作。ドゥニ・ビルヌー ... [続きを読む]

受信: 2011年12月28日 (水) 23時24分

» 2011年12月23日 『灼熱の魂』 TOHOシネマズ日比谷シャンテ [気ままな映画生活(適当なコメントですが、よければどうぞ!)]
『灼熱の魂』を鑑賞してきた。 こんな惨劇が行われていたのに、よく生きてそして子供たちと一緒に 暮せたなと感心 【ストーリー】  ある日、カナダで暮らす双子の姉弟ジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)の母親ナワル(ルブナ・アザバル)が永眠する。後日、長年彼女を秘書として雇っていた公証人(レミー・ジラール)により、母の遺言が読み上げられる。その内容は、所在がわからない自分たちの父と兄に手紙を渡してほしいというもので……。 中東で繰り広げられていた惨劇を目の当た... [続きを読む]

受信: 2011年12月29日 (木) 09時07分

» 灼熱の魂 [あーうぃ だにぇっと]
灼熱の魂@TOHOシネマズシャンテ スクリーン2 [続きを読む]

受信: 2012年1月 4日 (水) 14時20分

» 『灼熱の魂』 [こねたみっくす]
1+1=1は実際にあり得るのか? もしあるならば神がこの世で最も残酷な存在だと疑ってしまう。もしこれが宗教対立による神がいない場所で起こることだとしたら、この世で神を ... [続きを読む]

受信: 2012年1月 7日 (土) 21時24分

» 『灼熱の魂』・・・ ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2010年:カナダ+フランス合作映画、デニ・ヴィルヌーヴ監督&脚本、ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット、レミー・ジラール、アブデル・ガフール・エラージズ出演。... [続きを読む]

受信: 2012年1月10日 (火) 01時53分

» 『灼熱の魂』 (2010) / カナダ・フランス [Nice One!! @goo]
原題: INCENDIES 監督: デニ・ヴィルヌーヴ 出演: ルブナ・アザバル 、メリッサ・デゾルモー=プーラン 、マキシム・ゴーデット 、レミー・ジラール  、アブデル・ガフール・エラージズ 鑑賞劇場: TOHOシネマズシャンテ 公式サイトはこちら。 昨年暮れ公...... [続きを読む]

受信: 2012年1月14日 (土) 10時59分

» 灼熱の魂 [ダイターンクラッシュ!!]
2012年1月15日(日) 18:30~ TOHOシネマズシャンテ1 料金:0円(シネマイレージカード ポイント使用) パンフレット:未確認 『灼熱の魂』公式サイト 感動の映画かと思っていたが、衝撃の映画だった。 フランス語を操るアラブ系の双子の姉弟(カナダは恐らくケベックに住んでいたことが、後で判明)が、母親の死後、遺言に従って母親の手紙を渡すために父親と兄を探す。ルーツ探しのアラブの国は、多分、レバノン。又は、それを模した架空の国。(そう言えば、シティハンターやエンジェルハートは、架空の国... [続きを読む]

受信: 2012年1月16日 (月) 15時42分

» 灼熱の魂 [とりあえず、コメントです]
過酷な人生を生きてきた一人の女性の物語です。 母から双子の姉弟への遺書が発表される予告編を見て、一体どうなるのだろうかと気になっていました。 予想以上のハードさで、過酷な運命が胸をつくような作品でした(T_T) ... [続きを読む]

受信: 2012年1月19日 (木) 08時51分

» 灼熱の魂/ルブナ・アザバル [カノンな日々]
中東からカナダへと移り住んだある女性の人生を現代と過去を交錯させながら描いていくヒューマン・ドラマだそうですが、予告編の印象だと亡くなった母の遺言で初めて父と兄の存在 ... [続きを読む]

受信: 2012年1月21日 (土) 09時36分

» ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『灼熱の魂』 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
注・内容、結末に触れています。レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの原作をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した『灼熱の魂』。出演はルブナ・アザバル、レミー・ジラール。物語・自らのルーツを語る事はお... [続きを読む]

受信: 2012年1月23日 (月) 23時55分

» 『灼熱の魂』 3つの特長と3つの弱点 [映画のブログ]
 どう考えてもおかしいと思った。  この傑作がアカデミー賞外国語映画賞のカナダ代表に選出され、ノミネート作品5本のうちに選ばれながら、肝心の受賞を逃すなんておかしい。  そこで第83回アカデミー賞...... [続きを読む]

受信: 2012年1月27日 (金) 02時16分

» 灼熱の魂 [映画 K'z films 2]
Data原題INCENDIES原作ワジ・ムアワッド監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演ルブナ・アザバル メリッサ・デゾルモー=プーラン マキシム・ゴーデット公開2011年 12月 [続きを読む]

受信: 2012年2月 3日 (金) 21時06分

» 『灼熱の魂』 [ほし★とママのめたぼうな日々♪]
予告を観て「観たい!」と思っていたものの すっかり出遅れ、気が付いたら最終週。 これは、もう無理かと、諦めていたら また [続きを読む]

受信: 2012年2月10日 (金) 19時54分

» 映画『灼熱の魂』を観て〜2011年で最も印象的だった作品 [kintyres Diary 新館]
11-88.灼熱の魂■原題:Incendies■製作年・国:2010年、カナダ・フランス■上映時間:131分■字幕:松浦美奈■料金:1,800円■鑑賞日:12月19日、TOHOシネマズシャンテ □監督・脚本:ドニ・ヴィルヌーヴ□原作:ワジディ・ムアワッド□撮影監督:アンドレ・トゥ...... [続きを読む]

受信: 2012年2月11日 (土) 17時12分

» ■映画『灼熱の魂』 [Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>]
主人公の女性・ナワルのあまりに壮絶な人生に、思わず「こんなのんきな人生を送っていてごめんなさい」とあやまりたくなってしまうような衝撃作『灼熱の魂』。 戦争やテロが、いかに過酷な運命を作り出すか、この作品が私に教えてくれました。 平和な世界でのんきに生きてい... [続きを読む]

受信: 2012年2月12日 (日) 10時15分

» 灼熱の魂 [映画的・絵画的・音楽的]
 『灼熱の魂』を日比谷のTOHOシネマズシャンテで見ました。 (1)随分と地味な映画ながら良い作品だと耳にしたものですから見に行ってきました。  確かに衝撃的な良作に違いありませんが、それにしても大層重厚な作品(注1)で、それも2時間11分もの長尺ですから、見る方...... [続きを読む]

受信: 2012年2月18日 (土) 22時12分

» 灼熱の魂 [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評]
Incendiesクチコミを見るミステリアスで上質な人間ドラマ「灼熱の魂」。現在と過去を行き来する緻密な構成が素晴らしい。初老の中東系カナダ人女性ナワルが、謎めいた遺言を残して死 ... [続きを読む]

受信: 2012年3月 6日 (火) 09時55分

» 灼熱の魂             評価★★★65点 [パピとママ映画のblog]
レバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲「戦火」を、「渦」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化。民族や宗派間の抗争、社会と人間の不寛容がもたらす血塗られた歴史を背景に、その理不尽な暴力の渦中にのみ込まれていったヒロインの魂の旅を描く。出演は「パラダ...... [続きを読む]

受信: 2012年3月 9日 (金) 23時00分

» 灼熱の魂 [キノ2]
★ネタバレ注意★  フランス・カナダ合作の、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品。  カナダ在住のレバノン出身の劇作家ワジ・ムアワッドの同名戯曲が原作である由。2010年度のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされました。(この年の受賞は『未来を生きる君たちへ』)。  ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)は、中東の小さな村で生まれた。宗教の異なる難民の男性と恋に落ちたが、一族の名誉を汚すとして、男は殺され、生まれた赤ん坊とは引き離され、追われるように都会の大学に出る。数年後、内乱が勃発し、... [続きを読む]

受信: 2012年3月14日 (水) 23時38分

» 灼熱の魂(2010)★★INCENDIES [銅版画制作の日々]
 お母さん、あなたが生き続けた理由を教えてください。 好き度:+5点=65点  アカデミー賞ノミネートに地元カナダ・アカデミー賞8部門独占したという本作。また世界30ヶ国以上の映画祭で絶賛されたということで、気になり早速鑑賞して来ました。 しかしこんな...... [続きを読む]

受信: 2012年3月18日 (日) 12時56分

» 時には子のない母のように ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『灼熱の魂』 [SGA屋物語紹介所]
首都圏から四ヶ月ばかり遅れて上映。レバノン生まれの劇作家の戯曲を原作としたカナダ [続きを読む]

受信: 2012年4月20日 (金) 22時36分

» 灼熱の魂 [A Day In The Life]
DVDにて観賞 映画評論家おすぎが絶賛していた映画。 解説 『渦』のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督と脚本を務め、レバノン出身 の劇作家ワジ・ムアワッドの原作を映画化した珠玉の人間ドラマ。 中東からカナダに移り住んだある女性の壮絶な人生を、過去と現代 を行きつ... [続きを読む]

受信: 2012年5月 4日 (金) 11時23分

» 『灼熱の魂』『幸せパズル』をギンレイホールで観て、へへっへそりゃああの韓国映画みたいでげすなあふじき★★★★,★★(ネタバレあり) [ふじき78の死屍累々映画日記]
『灼熱の魂』(ネタバレ) 五つ星評価で【★★★★すげえなあ。でも、ショック展開をすればいい映画かと言う疑問も沸く】 条件は違うんだけど『オールド・ボーイ』みたいだ。 ... [続きを読む]

受信: 2012年5月28日 (月) 00時07分

» 灼熱の魂 [いやいやえん]
亡くなった父親と実在しない兄に宛てた2通の遺言状を双子姉弟に託して他界した母親。二人は真実を確かめるために、母親がカナダに亡命する前の故郷である中東の地を訪ねるのだが…。 この母親の過去を追体験して行き、母親の心に徐々に触れていく…そして最後に思いもよらぬ真相を知る事になるのですが、あまりにも痛々しいその過去が、二人の姉弟に切なく厳しい過酷な現実を突きつける。しかしそのメッセージこそが母の愛の、命の証だった。 冒頭で何かを訴えるかのようにこちらを見続ける足に3つの点をもつ少年。その後「変... [続きを読む]

受信: 2012年6月20日 (水) 09時05分

« ブラッディ・パーティ/Wir sind die Nacht | トップページ | アグリー/UGLY »