私たちの時代
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一所懸命で一生懸命な室谷先生と子供たち |
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正確には映画ではない。元々はフジテレビと系列の石川テレビが共同してドキュメンタリー番組用に制作された作品だからだ。2010年12月30日に放送されたものだがその反響の大きさ、そして今回の東日本大震災を契機に映画館で公開されることになったのだそうだ。テレビ局主導の映画のクオリティの低さが叫ばれて久しいが、こういう良質なコンテンツの映画化には大賛成だ。舞台となっているのは石川県奥能登の門前町。丁度能登半島が右にグッと曲がる曲がり角辺りに位置する小さな海辺の町である。この町にある石川県立門前高等学校の女子ソフトボール部、カメラは彼女たちの3年間に密着している。元々は彼女たちのドキュメンタリー番組だったのだろう。
ところが、2007年3月25日、震度6強を記録した能登半島地震が起こり、カメラはその後の彼女たちや町の人々の姿を的確に映し出すのだ。本作は単に女子ソフトボール部のドキュメンタリーではない、もちろん部員たちの想いや室谷先生と生徒たちとの触れ合いやも描かれてはいるが、それ以上にこの閉塞感漂う現代社会で彼女たちがどのように将来に希望を見出し、どのように生きてゆこうとするのか、迷いながらもそれを見つけてゆこうとする姿が描かれていた。門前高校女子ソフトボール部は全国大会の常連校で、県内各地から生徒が集まってくる。監督の室谷妙子先生は元ソフトボール日本代表で世界大会優勝の経験もあり、保健体育の教員として30年以上に渡り部を指導してきた。
彼女の生徒たちへの想いの強さは、自宅を増築して生徒たちを住まわせ、規律正しい生活を送らせるといったことを20年以上渡って続けていることからも覗える。そんな監督と部員たちは、能登半島地震が起きたとき対外試合で金沢にいた。故郷に帰った彼らの目に映ったのは無残にも破壊された家々。子供たちのショックは想像に難くない。室谷先生はこんな時こそとばかりに声を出させる。「こんなことで負けて堪るか!」「命があったことを感謝しましょう。生きていれば、働けばまた物は買えます。命は買えない」ここ門前町で生まれ育ち、教員を続ける監督自身が町の惨状を受けて尚子供たちに投げかける言葉は重い。それに答えてみせる子供たちの何と素直なことか。
同じ年の女の子が携帯を弄り、お洒落に熱中するのとは対照的だ。もちろん携帯や化粧は禁止、髪はショートカット、それどころか日焼け止めすら許されない。でも朝起きたら水でその短い髪を整えるのが女の子らしくて微笑ましい。そんな彼女たちと室谷先生の前に衝撃的な出来事が判明する。人口の減少による学校の統廃合で、門前高校の廃校が決まってしまうのだ。「教員というのは給料をもらうためにするんじゃない。子供達のため、子供達を一人でも、一人でも救ってやること。社会っていうのはそうでないといけない。」と語る室谷先生にとって、その人生の全てを賭けてきた場所が無くなる。文字通り一緒懸命で一生懸命だった場所が無くなるのだ。
子供たちは当然それが解っている。しかし先生の手塩にかけた子供たちは強かった。彼女たちは今自分たちがしなければならないことに唯ひた向きに打ち込むのである。即ちソフトボールに。インターハイ出場のかかった試合、津幡高校との熱戦は手に汗握るという言葉がピッタリだった。最後の瞬間、無音のままに推移してゆく試合。そこまでの彼女たちの努力や気持ちを見てきた私たちは様々な想いが去来するはずだ。そしてそれは当事者である彼女たちや大人たちならなおさらだろう。卒業式の答辞で女生徒が言う。「日本中が大きく揺れ動いています。なにを信じ頼りにすればいいのか、生きる指針が定まりません。」それは門前高校だけでなく、現代の若い世代の想いそのものだ。
しかしそんな問いかけに対して室谷先生と部員たちは一つの答えを見せてくれた。いや、そうではない。実は答えは既に私たちは解っているはずだ。それをするかしないかだけなのだ。子供たちの未来に可能性の光を灯すのは大人の役目であり、そして未来に向けて努力する子供たちの姿に今度は大人は勇気付けられ生きる希望をもらえるのではないか。大震災、原発事故、年金減額問題、消費税増税などなど、正直言って若者ではなく中年の筆者ですら将来に不安を覚える今、この作品からは大きな勇気をもらった。同時に、この作品が元々映画でなくテレビ番組だということで、テレビマンの端くれとしてはとても誇らしい想いでいっぱいである。
個人的おススメ度5.0
今日の一言:途中から涙が止まらなかったよ…
総合評価:94点
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