風にそよぐ草/Les herbes folles
つまりは巨匠の妄想世界を愉しむのだ |
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実に不思議で今まで見たことがないタイプのラブストーリーだった。恋をする2人は十分な大人…いや、男の方は初老の紳士でしかも既婚だし、女の方は独身の歯科医でお金持ちである。元はと言えばその歯科医のマルグリット(サビーヌ・アゼマ)がカバンをひったくられたことが発端だった。お金を抜き取られた彼女の財布を買い物帰りのジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)が拾う。そこに入っていた小型飛行機の免許証の写真を見て彼女に一目惚れしてしまうのだから、初老の男にしてはまるでキラキラ輝く青春真っ只中の中高生並みの出会いである。しかも彼はその写真から「もし財布を届けたら…」という妄想まで始めてしまうのだから、何とも心は瑞々しい。ただちょっと変で笑える(笑)
さて、ここでニクイのがその一目惚れしたマルグリットがどんな顔なのかを中々見せてくれないことだ。大変失礼ながらさんざん引っ張って登場するのがサビーヌというのが中々脱力させてくれる。何故なら正直彼女はそこまで美しくはない。少なくともジョルジュの妻スザンヌを演じるアンヌ・コンシニの方が一般的に言って美人だろう。この2人の対照のさせ方がまた実に絶妙なのだ。どうやらスザンヌは働いていて、ジョルジュは現在失業中らしい。夫がマルグリットに拘っている姿は我々が見ても明らかなのだから、妻の彼女が見れば間違いなく恋している事ぐらい解るハズ。しかし彼女は嫉妬に駆られるでもなくだまった、夫のさせるがままにしておくのである。
たった一度だけマルグリットからの電話に「あなたから電話が来るのを待っていたわ」と話したときに僅かばかりの嫉妬の炎が垣間見える程度なのだ。ここまで出来たスザンヌに対して、マルグリットは当初ジョルジュを避ける。いや、モチロン避けるだけの正当性はあるのだが。そもそも財布を拾ったお礼の電話に「それだけ?」と応える人間が何処の世界にいるのか。現代日本の若い女性から見たら「何馬鹿なこと言ってんの?キモ~イ!」てな所だろう。しかも手紙を出しまくり、挙句に彼女の家にまで行って車のタイヤを切裂くとなればこれはもう完全にストーカーだ。ただ多分男性なら誰だって一度ぐらいジョルジュような妄想をしたことがあるのではないか。故に気持ちは理解できる。
ただマルグリットもこのタイヤ切り裂きには頭に来た。訴えたのが最初にジョルジュが財布を届け、彼女がその財布を受け取った警官のベルナールだ。このベルナールを何とマチュー・アマルリックが演じている。自分の息子ぐらいの年齢の警官に説教される屈辱、可愛さ余って憎さ10倍とは正にこのことなのだが、目の前に困難が立ちはだかればよりいっそう燃え上がるのが恋の炎であり、それは老らくの恋だとて変わりはしない。しかも、マルグリットの方もしつこいほどにちょっかいをかけてきてくれた男性がいきなり音信普通になると、それはそれで寂しい気持ちが湧いてくる。この巧妙な物語の展開が、より2人を惹き付ける役目を果たすというのが観ていて心地良かった。
それにしてもアラン・レネ監督は御歳87(フランス公開時)にして何とも若々しく、しかも茶目っ気たっぷりで尚且つエロティック大人の恋物語を綴ったものだと思う。特にマルグリットが自分が操縦するセスナ機にジョルジュとその妻を乗せるべく招待するラストシークエンスが愉しい。迎えに来たマルグリットの友人ジョゼファ(エマニュエル・ドゥヴォス)に彼が突然キスしてしまったり、飛行場の事務所で2人がバッタリ出会いこれまたキスしたりとかなり青春している。しかもこの時彼の背中に「fin」の文字と何故か20世紀FOXのCG音楽が…メデタシメデタシ。ではない。話はそこからまだ続く。フランスの巨匠がこんなイタズラをしてくるとは思わなかった(笑)
物語は続き、彼女はジョルジュにセスナ機を操縦させるのだけれど、彼が操縦中にジョルジュの「社会の窓」が開いているではないか。それを見た時のマルグリットが送る何とも言えない色目。第一後ろの席に奥さんが乗っているというのに!この後地上から飛行機を見上げると、アニメさながらに曲芸飛行が繰り広げられる。もしや操縦中にマルグリットが我慢出来なくなって…しかしそれをスザンヌが止めに入り…などとこちらもジョルジュのように妄想してしまった。そうこうしている間にセスナ機は地上に向かって一直線…え?直後のラストシーンは「猫になったら、私も猫の餌を食べることが出来るの?」と聞く少女だった。監督は我々に物語の最後を妄想して愉しんでくれというメッセージなのだろうか。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:アンヌの作品5本も観てたとは意外…
総合評価:71点
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