吉祥寺の朝日奈くん
人気恋愛小説家・中田永一の同名小説を映画化。役者になる夢を諦めた青年が人妻に恋をしてしまうのだがその結末は意外な展開に…。出演はドラマ「花ざかりの君たちへ ~イケメン☆パラダイス~2011」の桐山漣と『私は猫ストーカー』の星野真里。「恋空」などテレビドラマのプロデューサーを務めた加藤章一の長編映画監督デビュー作だ。街と人がもたらす不思議な空気感に浸って欲しい。 |
心地良さと小気味よさを持った恋物語 |
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これは掘り出し物。ラブストーリーとしては久々に大ヒットだった。舞台となっているのは私も大好きな街・吉祥寺。この吉祥寺の様々な風景とともに、桐山漣演じる朝日奈ヒナタと星野真里演じる山田真野の2人か醸し出す何とも不思議な空間が観ていて堪らなく心地よい。ザックリ言ってしまえば本作は不倫の物語だ。しかしこの2人の間にはいわゆる不倫関係で流れるドロドロとしたものはなく、むしろ初恋同士のような初々しさと清潔感が同居している。そんな訳で、元来筆者は不倫関係は絶対に許せない主義なのだが、何故か観ているうちにこの2人を応援したい気持ちにさせられてしまったのだった。きっかけは真野の働いている喫茶店で起こったある出来事だ。朝日奈は真野のことが好きでその喫茶店の常連になっている。ところがある日、恋人同士の別れ話のとばっちりで鼻血まみれになる羽目に。
トンだきっかけだが、少なくとも彼の存在を覚えてもらうにはうってつけだったのも事実だ。実はここから既にラストへ向けた伏線が張られているのだが、そんなことは全く気がつかなかった…。数日後、偶然献血の場で出会った2人は意気投合して楽しそうに話す。しかし真野の左手の薬指には指輪が。メールアドレスを聞く朝日奈に「そのぐらいはいっか!」と茶目っ気たっぷりに言ってくる真野の姿はとてもチャーミングで惹かれる。星野真里は今年30歳。若さと大人の部分がちょうど同居する年齢であり、真野は正しく等身大の存在と言えよう。朝日奈は25歳(桐山漣は26歳)なのだが、個人的にはこの位の年齢差というのが微妙な良さを含む所で、ある時はお姉さん、ある時は同級生を使い分けられる魅力的な差ではないかと思う。
真野が旦那と上手く行っていないこともあり、2人はここから時には彼女の娘を連れて、時々逢う様になってゆく。井の頭動物園を散策し、サトウのメンチカツを買うために行列に並び、イセヤの焼き鳥で朝日奈の苦手なレバーを買い「献血をしたいならレバーを食べなさい!」などと、ちょっとだけ人生の先輩のような目線を見せる真野。傍から見ていたらどう見ても恋人同士にしか見えない。怒るとDVまで発展する旦那に悩む真野。役者になる夢を諦め、ただ流されるままに生きている朝日奈。それぞれ悩みを抱える2人にとって、その時間は現実を忘れられる一時だった。もちろん2人はお互いに好意を抱いているのは解っている。しかしデートをする以上には発展しない。ともすれば不倫のカップルはそれが不倫であることを忘れ、いや無視して恋に走り勝ちであり、それが嫌らしさや醜さに繋がる。
結局その行いは自分たちだけが中心であり、周囲にどれだけ異臭を放っているのかを気付いていないことが多いのだ。ところが朝日奈と真野にはそういう異臭がない。楽しいときも普通の時も淡々としたテンションではなす2人、それはお互いに不倫であるという事を常に意識しているからであり、自らの言動にブレーキをかけているからだ。そこが歯がゆくもあり、瑞々しくもある。朝日奈の誘いに応じておずおずと、迷いながらも手を繋ぐ真野。その様子はまるで中学生の恋愛のようでもあり、思わず観てるこちらが照れくさくなってしまった。ところが、何故か朝日奈はそれ以上進もうとしない。要するに自ら告白しないのだ。確かに不倫は悪だが、真野だってそれを期待するそぶりは見せていたのに。もちろん彼も全く平気だったわけではない。
以前のアルバイト先の哲雄先輩(要潤)に恋の相談したり。そこで知り合った自称弁護士のおやじが言う“不倫による離婚の慰謝料を獲るための条件”「性交の有無、またはそう推認される証拠」の文言を持っていた本にメモしたりと、その気が全く無い訳ではなさそうなのに。しかし実はこれらは全て撒かれた種だったことがやがて判明する。即ち、そんな柔らかい雰囲気はある時を境に一変し、大どんでん返しがはじまるのだ。正直言って完全に想定外。次々と明かされる事実に驚きを隠せない。この2人の空気に完全に騙された格好だ。実は真野の旦那は哲雄先輩であり、朝日奈は哲雄先輩が真野と離婚する時に不倫で慰謝料を獲るために彼女を落として寝るように頼まれたのだった。しかも最初の喫茶店で事件を起こしたカップルは朝日奈が以前所属していた劇団の後輩だったというオマケ付き。
まあ要するに断りきれずに先輩に従って先輩の奥さんを落とそうとしたら、本当に惚れちゃったというのが話の真相である。それにしても、いわゆるミステリー作品でもここまで綺麗に騙されたことは久しくなかったという程上手く引っかかった。全てが明らかになってからしばらくぶりに逢った2人は、以前は途中で引き返した神田川沿いの道をひたすらトコトコと散歩する。それは吉祥寺と言う居心地の良い街に立ち止まったままだった2人が、お互いが与えた影響で次の一歩を歩み始めたことの証のようでもある。街と人が織り成す心地良さ、人間関係の真相が導く小気味よさの合わさった作品だ。
個人的おススメ度4.5
今日の一言:星野真里がとても魅力的♪
総合評価:87点
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