天使突抜六丁目
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変なタイトルだと思ったら、何と京都に実在する町名なんだそうだ。ただし正確には四丁目までで六丁目はない。ちょっと調べてみた所によると16世紀後半にこの町を開くため、五條天神宮の鎮守の森に道が作られたことが始まりなんだとか。“天神”は天から使わされた“天使”に繋がり、その境内に突き抜けて作られた道ゆえに“天使突抜”というワケ。奇妙なタイトルどおり、物語自体もとてもファンタジックに展開してゆく。主人公の昇(真鍋拓)が何かから必死で逃げ、森の中のトンネルをくぐり見知らぬ町へと辿りつくも、そこで気を失う。こんなワケの解らないオープニングから話は始まった。とにかく物語全体が奇妙なことだらけ。まともなのは昇だけとも言える。
そもそも昇が逃げていたのも別に彼のせいではないのだ。実は務めていた工場が倒産し、そこで借金取りの赤鬼(麿赤兒)に見つかって追いかけられていたのだ。何も彼が借金をしたワケではない、というよりただの従業員なのだから本来逃げる必要も無いのだが、そうは言っても麿赤兒に「まてぇい!逃げられんぞぉ!」と追いかけられたら私でも反射的に逃げる気がする…(笑)冗談はさておき、これの意味する所はなんだろうか。借金取りが金を返せと追いかける、昇にとっては不条理極まりないがこれ自体はある意味常識的で日常的な事象だ。そうなると昇が存在しない架空の街に逃げ込むというのは、日常から非日常への逃避行ということになるのではないか。もちろん本人はタダ逃げただけだが。
昇が天使突抜六丁目で出会う人々はみな奇妙な人ばかり。気を失っていた昇を助けてくれた旧友の佐々木(服部竜三郎)はおんぼろアパートのオーナーで、彼にタダで部屋を貸してくれる。そ向かいの部屋に住んでいるのがみゆき(瀬戸夏実)で、何と彼女の背中には羽の生えかけのような突起があった。警備のバイト先の杉本さん(柄本明)は現場から化石を見つけて集めるのが趣味だし、アパートの1階には夫に先立たれて気が狂ってしまった婆さんが住んでいる。面白いのは昇本人は自分の世界を持っていて他人と必要以上に深く交わらないということだ。そんな彼にとっては日常だろうが非日常だろうがそこはあまり意味を持たない。結果として、彼はそこが存在しない町だとは気付いていないのだった。
劇中の昇の生き方は果てしなく虚無的であり、そのアイデンティティ自体が失われていっているようですらある。印象深いシーンがあった。それは警備員の先輩が誘導棒をふり続ける人形を指して「こいつが一番優秀だ」と言うシーンだ。自分を持たないで、決められたことを決められたままに忠実にこなせる人間、いや“存在”こそが優秀である、まるでそう言われているかのように感じた。そんな考え方に反抗するかのような存在が杉本さんだ。彼は奇妙ではあったが、警備員の仕事に関して彼が昇に話して聞かせること自体は到って常識的で真っ当な内容なのだ。逆に言えば彼のおかげで昇はギリギリ自己を保っていたと言えるのかもしれない。しかしその杉本さんが事故死する。
杉本さんはその行動が伴わない常識さ故に邪魔者扱いされていた。しかし、その彼の前に現れた昇は彼の常識を体現できる人間であり、だからこそ彼に自らの持つ常識を植え付けようとする中で命を失うのである。私にはまるで天使突抜六丁目が自らにとって都合の悪い彼を存在ごとスポイルしてしまったかのように思えた。さらにみゆきの存在がある。彼女は自分には天使の羽が生えてきてこの町から旅立つのだと信じていた。しかしそうはさせないという意識が働いたかのように彼女に事件がふりかかる。その流れの中で昇は殺人の片棒を担ぐことに。ここで昇は町の意志に気付いたのではないか。だからこそ自らの部屋の中で己を封印し人形に姿を変えてひたすら座り続けたのではないかと思うのだ。
何日も何日も人形の姿で座り続ける昇。そんな昇を引き戻したのもみゆきだった。物語では結果的にみゆきに天使の羽が生えたようには見える。しかし建物の上から飛び降りた彼女が空を飛べたのかは描かれていない。というより私はドサッという音、その後の昇の様子から察するに転落死したのではないかと思っている。つまり天使突抜六丁目でも我々の住む世界でも現実から逃れることは出来ないということだ。ここまできてふと気がついた。なんだ我々の話だったんじゃないかと。過酷で冷徹な現代社会を山田雅史監督のフィルターを通じて眺めた場所、そこが天使突抜六丁目なのかもしれない。
個人的おススメ度
3.5
今日の一言:瀬戸夏実がエロいようなそうでないような…
総合評価:71点
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