グッド・ドクター 禁断のカルテ/The Good Doctor
『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』シリーズのオーランド・ブルームが製作・主演の医療サスペンス。新人研修医が若い女性患者を愛するが故に暴走し、禁断の領域に足を踏み入れてしまう姿を描いている。共演にエルヴィス・プレスリーの孫娘ライリー・キーオ、タラジ・P・ヘンソン、マイケル・ペーニャらが出演。監督を務めるのはアイルランド出身のランス・デイリー。 |
ミステリーもしっかり描いて欲しかった |
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つくづく医者はその気になればいくらでも人の命を奪うことが出来るのだと再認識させられた。それも証拠を残さず。実際医療訴訟ではその専門性が故に勝訴するためには相当の労力を要すると聞くが、それとても決してわざとではなくあくまで医療ミスでの話だ。この物語の主人公マーティン・ブレイク(オーランド・ブルーム)は一人の少女に対して故意にその回復を阻害し結果的に死に至らしめるのである。しかも必ずしもアメリカの医者だからではなく、研修医である彼の姿は日本のそれとも重なる所は多分にあるので、我々の身近にいる医者がこういう行動をとらないとは言い切れない怖さを感じた。序盤はブレイクが初めて研修医として働き始め、戸惑いを覚える様子が描かれている。
ベテラン看護師からは理不尽な嫌がらせを受け、専門医になりたいという希望は上司から退けられるのだが、劇中だけでなく我々ですらまだ勤めたての新人にはするべきことは山ほどあり、ある種の通過儀礼を受けることがあるのは社会人をやっている人なら解るだろう。しかし彼にはそれがどうしても納得できない。そうしたストレスは澱の様に溜まって行くことになる。この辺ブレイクの人となりはあからさまに描かれてはいないのだが、両親からの手紙や、新人医師でありながらプリウスに乗っていたり、クラッシック音楽を愛したりといった生活の端々から、とても育ちがよくマザコン気味で、苦労知らず(本人はそうは思っていないが)でここまでやってきたことが覗われる。
要するに、彼は病院と言うヒエラルキーの中で最下層に自分が位置することに気付かされたワケだ。ところがそんなブレイクの前に現れたのが18歳の少女ダイアン(ライリー・キーオ)だ。腎臓の感染症で入院していた彼は、甘いマスクの若い研修医をとても尊敬し、全幅の信頼を寄せる。無論それは医師に対して患者がもつ一般的な感覚なのだが、この時のブレイクの心理状況がそれを過剰に受け止めさせたのだ。そして退院した彼女の家に食事に招かれ、トイレで彼女のクスリを発見した時にブレイクは悪魔の考えを思いつくことになる。要するにクスリをすりかえて彼女の病気を再発させ、また自分の手元に置こうというワケだ。この時のブレイクの心理状況は実に微妙なところといえる。
誤解してはいけないのは、決して単なる恋愛感情だけでこんな行為をしたわけではないということだ。ブレイクが自分のアイデンティティを維持するためには彼女の存在、いや、彼女が自分に対して向ける尊敬と信頼の心が必要だったのである。その上で、一人の人間、その命までも完全に支配でき得る快感に酔った部分も否定できない。しかしそんなことは神のみがなせる業だ。かくして予想外に病が悪化したダイアンは死んでしまう。ちょっと残念なのは、ブレイクがした医療犯罪がダイアンにとって具体的にどういう意味を持つのか、言い換えればどんな効果を狙ったものなのかが解りにくいことだ。病気を悪化させようとしているのは見ていれば誰だって解る。しかし死ぬまでやったら元も子もない。
ブレイクは何処まで何を考えていたのか、そこをもっときちんと描けていれば、彼のショックの度合いもより解りやすくなると思う。それと意外だったのはこの後の展開。ダイアンの書いた日記の内容で掃除係のジミー(マイケル・ペーニャ)がブレイクを脅迫するのだが、彼はジミーを毒殺し、更にそれによって刑事の尋問まで受けることになる。このシークエンスがかなり長い。やけに饒舌に聞かれてもいないことまでしゃべるブレイクの様子を観ていれば、刑事ならずとも彼が怪しいと思って当然だろう。だがサスペンスとしての進展を見せる前にある種唐突に物語は終わってしまうのだ。救急医療の現場で一人前の医師として働くブレイクの姿はきっとグッド・ドクターなのだろう。
しかし彼に対して何ら危機が迫ることもなく、要するに彼の心の中の葛藤だけで物語を〆てしまうというのは、最初に書いたような現実的な恐ろしさは感じても、サスペンスとしては物足りない。新人医師が堕ちて行く姿やその葛藤にフォーカスしたことは確かに面白い。そこにきちんとサスペンスを両立させてくれたらもっと面白くなったのではないかと思う。
個人的おススメ度3.0
今日の一言:プレスリーの孫娘さんだけあって可愛い♪
総合評価:63点
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