へんげ
『大拳銃』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭やぴあフィルムフェスティバルの審査員特別賞を獲得した大畑創監督の商業デビュー作。原因不明の生き物に体をのっとられ異様な姿へと変身していく男と、それを支える妻を描いた特撮ホラーだ。苦しみぬいた末に男が見せる最後の変態はそのインパクトに驚かされる。 |
想定外のラストに思わず笑った |
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わずか54分と言う短い尺ながら特撮モノとしてきっちりとまとまった作品だった。何より大畑監督自らが言うようにラストシーンが最大の見所の作品だ。ただ物語自体にはそう斬新さは感じない。原因不明の病なのか、はたまた謎の生物なのかは解らないが、主人公の吉明が徐々に体を乗っ取られ、それをただ見守るしかない妻の物語である。観ていてまず気になったのはこの吉明を演じた相澤一成の演技だった。奇妙な発作で外科医を辞めた彼は自宅で静養しているワケだが、その発作の演技がスゴイ。様相はてんかん発作のようでもあるが、あまりの苦しみようとその表情の恐ろしさは、そこらのホラー映画で恐怖に歪む顔など比べ物にならないぐらいリアリティを感じる。
妻の恵子(森田亜紀)はそれを必死で押さえようとするが、当然ながら女の力で男の発作など抑えられるはずもなく、彼女は度々吹っ飛ばされて、もはやどうしたら良いのか解らないという混乱と恐怖が入り混じった状態に陥る。監督は吉明の動きに関して、俳優とかなり密に話し合って作り上げたそうで、なるほどそれがスクリーンを通して伝わってくる。そうこうする内に吉明の体に徐々に“へんげ”が起こり始めるのだが、これがまた実に気持ち悪い。言葉では上手く言い表せないのだが、生理的に不快さを感じさせるように作り込まれた特殊メイクは「仮面ライダー」シリーズの特技監督・田口清隆の手によるものだそうだ。最初は片脚だけ、片手だけと断片的に体の“へんげ”は現れる。
一体何がどうなってしまったのか?当然特撮モノかつホラーテイストの本作にその答えは用意されてはいない。しかし上手いと思うのは、きちんと観る側を納得させるエピソードを用意していることだ。即ちこの後、恵子は吉明の後輩の医師・坂下稔(信國輝彦)の勧めに従って彼を病院へと入院させるのである。しかし、しばらくして吉明は病院を脱走し彼女の元に戻ってくることに。弱った恵子は今度は霊能者?を呼んで御祓いを試みるのだが、吉明の目に不穏なものを感じた霊能者は恐れて帰ってしまう。つまり、科学的なアプローチと心霊的なアプローチの双方で吉明のに体に起こっている謎を解明しようとした事実をきちんと描いているのだ。これがないと結局ただのオカルトもので終わってしまう。
オカルトモノは何でもありではない。何が起こっているか解らない不安や恐怖は、それ単体で巻き起こる感情ではなく、考え得る疑問を全て否定した先に自然発生的に湧き上がってくるものだと思うのだ。非常に簡素でザックリではあるけれど、本作は一応その条件を満たしていた。しかも全身が“へんげ”するようになった吉明は、くだんの霊能者を襲いその肉を喰らう。この辺が低予算の限界だろうか、ただ血のりが着いているだけというのは、へんげした吉明の迫力に比べていかにも不自然に見えてしまう。夜な夜な自分の体で男=吉明のエサを釣る恵子。しかしそんな生活が長く続けられるはずがない。ある日彼女の家に刑事がやってくる。無論この哀れな刑事たちもエサになるワケだが…。
もはや逃げるしかない2人。とはいえ刑事たちを襲った時に撃たれた吉明を連れてはそうは逃げられない。やがて追い詰められる2人。そして化け物と化して咆哮をあげる吉明に一斉に銃弾が打ち込まれる…。どんな体になろうとも夫を愛し守り続ける恵子、そんな彼女を守り返す吉明。そしてこの後の衝撃のラストシーン。とにかくこのラストシーンにはたまげた。正確に言えば2段階あるこのラストシーン、最初の段階までは特撮ホラーモノとして、夫婦愛までも重ねた展開にちょっと感動すら覚えていたのだが、二段目のラストシーンでそんな当たり前の感動は蹴っ飛ばされてどこかに行ってしまった。ある種ポカーンと呆れて、思わず笑いがこぼれそうになったほどだ。自主制作臭がプンプンで、特撮モノ故に好みの差は大きいだろう。だがその両者が好きな人には是非おススメしたい作品だ。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:同時上映の『大拳銃』も面白いよ♪
総合評価:71点
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