ポエトリー アグネスの詩/시
| 深く静かに感じ入る、そんな作品です |
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カンヌで脚本賞を獲っている作品だそうだが、正直言って物語そのものはそれほど面白いものとは言えない。今考えてみても寝てしまってもおかしくないような話だった。ところが、スクリーンから伝わる不思議な空気感、それは日常でありながらどこか非日常であり、それと同化するようなユン・ジョンヒの演技に何故か目が吸い付けられてしまい、スクリーンに魅入られた139分になってしまった。そのユン・ジョンヒ演じる主人公のミジャは66歳になる女性で、孫のジョンウク(イ・デヴィッド)と共に暮らしている。母親は離婚して釜山にいるらしい。決して裕福ではなく、裕福なカン老人の介護をしてお金を稼いでいる。彼女を見ていると基本的には孫を愛する一人の祖母でしかない。
しかし、ミジャ一人になるとちょっと話が違う。今まで観た韓国映画でも多くの初老の女性は出てきたがその誰にも当てはまらないし、何より周囲から明らかに浮いている。本人曰く“オシャレ”といっているその格好は確かに野暮ったくはないけれど、失礼ながら年相応とも言えないのだ。周りは“オシャレな人”と言ってはいるが、それはあくまでもお世辞込みだろう。しかるに本人はそれをそのまま真に受けてしまうし、それなりの自信があるらしい。ユン・ジョンヒという女優は1960~70年代に活躍し約300本の映画に出演した大女優だそうだ。当時の写真を見てもとても美しい。その外面の美しさの名残がある彼女の姿はどことなく少女の趣を感じさせるものでもある。
ちなみにミジャはたまたまではあるが、ユン・ジョンヒの本名でもあるそうで、そういう意味では彼女は等身大の自分自身を演じていたのかもしれない。さて、ミジャはある日右腕の痺れから医者にかかるのだが、そこで認知症の初期段階だと宣告されてしまのだった。そして、病院からの帰り道、詩作教室の生徒募集の張り紙を見てそれに申し込むことに決める。単語を忘れていってしまう認知症、単語を紡いで作り上げる詩、相反することがミジャの頭の中で行われることの意味とは何だろう。昔あなたは詩人になれると言われたなんてことを彼女は言っているが、自分が少しづつ失われていく前に、自らの生きた証、自ら見つけた・感じた美しさを形に残そうとしたのかもしれない。
詩作教室の先生は、詩を書くにはまず見ることだ、それもただ観るのではなくじっくり観察することだという。そして詩は誰の心の内にもあり、それを呼び出してやることだとも言う。ミジャは外を歩きながら、ふと気に留めた小さな感動をメモに書き留める。その様子は小さな幸せを見つけた喜びに満ちていた。ところがそんな彼女を事件が襲う。川に身投げした女子中学生を暴行していた6人組の中に孫のジョンウクがいたことが解ったのだ。これが驚くことに、ミジャがそれを知った時には、残りの5人の父兄によって被害者の母親と示談し事件を公にせずに葬ろうと決まっていたのである。ミジャの慰謝料負担分は500万ウォンだった。更には介護をしていたカン老人からは突然体を求められたりもする。
一生懸命詩を紡ぎだそうと、美しいものを感じる努力をしているミジャの前に、よりによって人間の汚い面がこれでもかと降り注ぐ様子は観ていて何とも切ない気持ちにさせられる。しかし、何かに抗うかのように詩を作ろうとする事を止めないミジャ。500万ウォンの慰謝料を手にするためにカン老人に抱かれるのも、まるで最後の心の拠り所を守らんがために必死に耐えているようですらあった。ところでこれより前、詩を愛する会の朗読会の席で、彼女は一人の男性を目にする。彼は現役の刑事で、詩を作って発表する時に必ず下ネタを披露して笑いを誘っていた。彼女は美しい詩を愛する人々の中に、何故こんな下卑た人間が混ざっているのか理解できない。
この純粋無垢な精神性こそが、彼女がもつ少女のような趣きの原点なのだろう。しかし、彼女は一編の詩を紡ぎだすためにそれを捨てる。いや、自分の内にある一編の詩を守るためにといってもいい。それがカン老人に抱かれることであり、それによって金を要求し、少女の自殺を金で解決することに加担することなのだと思う。孫が刑事に連行された後に、詩を愛する会の例の刑事とバトミントンをするシーンは、図らずも世俗にまみれてしまった彼女を象徴していて印象深かった。少女は汚されて死を選んだ。ミジャはどうなったかは描かれていない。しかし彼女は「アグネスの詩」という詩を残す。仮に命を断たなくとも、認知症ということは詩を紡ぎだすという意味においては死に直結している。だからこそ、最後の詩の朗読はミジャと少女の声がオーバーラップしたのだと思う。本作自体が静かに、そして切なく哀しい一編の詩だった。
個人的おススメ度
4.0
今日の一言:まぁ、場内から凄いいびきも聞こえたけど^^;
総合評価:81点
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