マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙／The Iron Lady

第８４回アカデミー賞で主演のメリル・ストリープが３度目のオスカーを獲得した作品。イギリス初の女性首相として“鉄の女”と呼ばれるほどの強力なリーダーシップを発揮したマーガレット・サッチャーの首相時代と晩年の姿を交互に描き出す伝記ドラマだ。共演に『家族の庭』のジム・ブロードベント。監督は『マンマ・ミーア！』のフィリダ・ロイドが務めている。
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３月１６日（金）公開

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１にメリル、２にメリル、３４が無くて５にメリルな作品。全体の殆どをメリル・ストリープ扮するマーガレット・サッチャー元英国首相を中心に見つめ続け、彼女がひたすらしゃべり続ける。若き頃のサッチャーを演じたハリー・ロイドが序盤にちょっと登場し、あとはサッチャーの夫であるデニス（ジム・ブロードベント）が彼女を補佐しつつ、晩年のシーンでは幻影として表れ言葉を発するといった感じだった。メリルは本作で第８４回アカデミー賞の主演女優賞を獲得。これで助演女優賞１回、主演女優賞２回の計３回のオスカーとノミネート合計１７回と言う脅威の成績。同時にメイクアップ賞も受賞しているだけあって、確かに本物そっくりだった。

ただ伝記物語としてのストーリー性は残念ながら単調で退屈。そもそも軸足を置いているのは晩年のサッチャーで、認知症を患った彼女が時折フラッシュバック的に回想するのが自らの政治家としての人生だ。構成的には『Ｊ・エドガー』的ではあるが、エドガーの場合は自らの回想録のために人生を回顧しているだけに、あくまでも過去がメインなのだが、本作の場合は現在と過去の割合が同じぐらいである。しかも振り返られる過去に関して言えばそれほど意外性のあるものではなく、むしろ私ぐらいの世代の人間ならばリアルタイムで知っている事実だ。物語は彼女が若くして下院議員となり、保守党党首、初の英国首相、フォークランド紛争、そして党首辞任と節目節目の彼女の決断を見せてくれる。

誰が何と言おうと決して自分が正しいと思ったことを曲げない彼女の姿、それは正しく“鉄の女”と呼ばれるに相応しい。サッチャー元首相はちょっと甲高い声でしゃべるのが特徴なので、その意味では元々メリルの声質はピッタリだ。フォークランド紛争に勝利して、議会で労働党相手に誇らしげに演説する姿は本作の見所の一つだが、力強いその演説は希代のリーダーシップを感じさせてくれた。ちなみに政治の話しでいうと、議長席から向かって右側に保守党、左側が労働党の議員が座り、丁々発止の議論をする姿は『アメイジング・グレイス』の時代でも見た変わらぬイギリスらしさ。それに、中々目にする機会のないイギリスの閣議が行われる様子もあんな感じなのかとちょっとしたトリビアだった。

更に余談だが、日本語で言う右翼と左翼の語源も保守が右側、革新が左側に座るからだと聞いたことがある。が、本当のところはどうかは知らない（笑）いずれにしても今の日本にもこんな強力なリーダーシップをもった人間が欲しいものだとつくづく思う。さて、一方で認知症を患った今のサッチャー。こんな状態になっても、自分がこうと決めたことは曲げないのは相変わらずなのだが、そんな彼女をボケ老人扱いする周りを観ていると嫌が応にも寂しさが募る。デニスは既に亡くなっているが、彼女の頭の中に再三にわたって彼が現れては話しかけてくる。そんな彼と生前のように話をするサッチャーの姿からは、彼の存在がいかに大きいものだったかが覗える。

元々彼女は結婚する時、自分は普通の主婦のように家庭に納まらないし、家族よりも仕事を優先することを宣言していた。彼女が言葉通り強固な意志で戦い続けてきたのは回想シーンを観ていれば明白だが、そこから開放された晩年になって、初めて彼女は自分にとって真に大切なものがなんだったのか、誰のお陰で自分が１１年半もの長きに渡って大英帝国のリーダー足り得たのかのかに気付いたのだと思う。要するに孤独な戦いを強いられてきた首相時代より今の方がもっと孤独だと気付いたのだ。伝記物語そのものよりも、マーガレット・サッチャーの人間的な強さの秘密や根源に迫った、言うなれば精神的な部分を描いたこの作品、そういう意味では原題『The Iron Lady』こそがタイトルに相応しいと思う。

３月１６日（金）公開

個人的おススメ度3.0
今日の一言：メリルおめでとう！ご祝儀込みね！ｗ
総合評価：64点

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