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2012年4月 9日 (月)

別離/Jodaeiye Nader az Simin

Photo 『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭の監督賞を獲ったイランのアスガー・ファルハディ監督作品。ベルリン国際映画祭で金熊賞を含む3冠を獲得、第84回アカデミー賞では外国語映画賞を授賞した。前作同様に現代イランの社会事情やそこに絡む宗教的な問題といったかの国独特の問題も孕みつつ、洋の東西を問わず変わらぬ人間心理を鋭く描いている。
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この物語に正解はない…

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『彼女が消えた浜辺』のアスガー・ファルハディ監督作品であり、ベルリン国際映画祭で金熊賞を含む3冠、更には第84回アカデミー賞の外国語映画賞を獲得した話題の作品。前作が素晴らしかっただけに、実は今回のオスカー関連作品の中では作品賞ノミネート作品同様に楽しみにしていた。最後の最後まで先が見えない脚本の上手さがあり、そして意外なほどに我々と変わらないイラン人の生活スタイルながらも、そこには宗教的な背景がしっかりと垣間見えるのは前作を観た時にも感じたままだ。物語はいきなり夫婦の離婚裁判のシーンから始まる。シミン(レイラ・ハタミ)とナデル(ペイマン・モアディ)は結婚14年。しかしシミンの言い出した国外移住を巡って夫婦の意見は決裂していた。

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シミンは11歳の娘テルメー(サリナ・ファルハディ)の将来を案じてイラン国外での生活を望むのだが、ナデルは認知症の父を置いて移住などできないと突っぱねる。このあたり、どちらの言い分も良く解るのだが、シミンの海外移住の理由がいかにも現在のイランが置かれている情勢を反映していて興味深い。この一件でシミンが実家に帰ってしまったため、彼はテルメーが学校に行き自分が働いている間に父を介護してもらうヘルパーとしてラジエー(サレー・バヤト)という女性を雇う。30万トマーン(300万イランリアル)と言っていたが、計算してみると約2万円ぐらいだ。こちらのサイトによると大体イランの物価は日本の3分の1程度だそうで私たちの感覚だと6万円位ということか。

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あの父親の要介護度合いで6万円は確かにキツイ。というか日本だったらこの額では無理だろう。果たしてラジエーは初日で辞めたいと言い出す。ただ金額もさることながら、彼女がそう言った大きな理由は“父親が粗相をしてしまった際に着替えさせた事”というのがイスラムの国らしい。具体的な教義は知らないが、彼女は着替えさせるつまり、たとえ認知症とはいえ赤の他人の男性の体に触れることに対して宗教的に問題が無いか電話で確認までするのだ。ラジエーが人一倍敬虔なイスラム教徒であることはこの物語の重要な要素になってくる。しかしこれでハイサヨウナラなら何も問題は無かったのだが、そうはならないところで物語はやや複雑な様相を呈してくるのだった。

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この辺に微妙な人間関係の事情が絡んでくるのだが、ともあれラジエーはヘルパーを続けることになり、それが事件の発端となる。ある日ラジエーは父親の手をベッドに縛りつけ外出、その間にナデルが帰宅し、父がベッドから落ちて気を失っているのを発見するのだった。しかもお金を入れておいた箱からラジエーの日当に当たるお金が消えていた。怒り狂った彼はラジエーを家から追い出そうと玄関から押し出すのだが、これがマズかった。夜になって彼女が入院した話を聞き、シミンと共に病院を訪れると、何と彼女が流産したと聞かされるのだ。19週目の胎児だとイランでは殺人罪が適用されるらしい。訴えられたナデルは今度は、父に対する虐待でラジエーを訴え、かくして事態は泥沼に…。

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ナデルはラジエーの妊娠を知っていたのか?ラジエーは何故父親を縛って外出したのか?押されて階段に倒れたのは本当なのか?物語はこれらの謎に迫って行く。ただ一つ言えるのはこの物語はいわゆるサスペンスではないということだ。確かにどんな結末になるのか全く読めないという意味でその要素はあるのだが、事件ありきの話ではない。本作に登場する人物はそれぞれみな基本的には善人なのだが、しかしみな“人間”なのだ。子供の将来を思う気持ち、自分の過ちを隠したい気持ち、家族を愛する気持ち。この気持ちはイラン人であろうが日本人であろうが変わらない、それ故に私たちは彼らの物語から目が離せない。ただ物語の核心が公になるキッカケの演出はイラン映画らしくお見事だった。

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ナデルはラジエーに言うのだ「僕のせいで流産したのだとコーランに誓ってくれ」と。最初からそれで彼を訴えているのだから、別に当たり前の事だ。しかし敬虔なイスラム教徒の彼女はコーランにウソはつけなかった…。実はここに至る前に彼女が外出した理由が明らかになっているのだが、それを彼女の宗教観に根ざして明らかにさせるとは思いもよらなかった。ラストシークエンス、両親のどちらについて行くのかをテルメー本人に選ばせるのだが、それは明らかにされないまま物語は終わる。両親の愛情を最も感じている彼女の気持ちを思うと心が痛むが、この物語に正解はないのだと思う。

個人的おススメ度4.0
今日の一言:お金は誰が盗ったんだろう?
総合評価:81点

作品情報
キャスト:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ、サレー・バヤト、サリナ・ファルハディ、ババク・カリミ
監督:アスガー・ファルハディ
製作:アスガー・ファルハディ
脚本:アスガー・ファルハディ
撮影:マームード・カラリ
編集:ハイェデェ・サフィヤリ
原題:Jodaeiye Nader az Simin
製作国:2011年イラン映画
配給:マジックアワー、ドマ
上映時間:123分
映倫区分:G

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受信: 2012年6月26日 (火) 01時22分

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