プライド
|
女のプライドのぶつかり合いに興味深々 |
あらすじ
←みなさんの応援クリックに感謝デス
原作は未読。しかし少女マンガらしく人間の醜いドロドロの心情を上手く描き出した秀作だ。失礼ながら主人公の一人・麻見史緒を演じたステファニーはこれが初見。正確に言えばDVDのジャケットでのみ見たことがあり、それも満島ひかりの出演作だからだ。なんでも5オクターブの声を操るといわれる有名な歌手で、見た目どおりアメリカ人の父を持つハーフだそうだ。未だかつてテレビで彼女を見た記憶がないが…。もう一方の主人公・緑川萌を演じるのは、いまや押しも押されぬ一流女優の満島ひかり。彼女が沖縄アクターズスクールで学んだ元歌手だと言うのは有名だが、何気にクォーターでもある。そんな2人が代表的な欧米文化であるオペラ歌手の卵を演じるというのだから面白い。
本作においてこの2人はとても対照的な存在だ。萌は貧乏な家庭に育ち、金銭的な理由から二流音大に通っている。その境遇ゆえに上流階級の人間に対する嫉妬と羨望の気持ちは強烈だ。一方の史緒は世界的な既に亡くなってはいるがオペラ歌手の母親の元に生まれ、父親は会社経営者、一流の音大に通う超セレブのお嬢様である。この2人の運命の出会いから物語は始まるのだが、初対面で史緒からオペラに誘われた萌はその会場で嫉妬心からとはいえいきなり痛烈な毒を吐く。確かに史緒は自然と人を見下すような物言いや態度を取るのだが、それにしても上映開始から物の数分の話だけに多少面食らってしまった。しかしおかげで2人のキャラクターがそこでしっかりと印象付けられたと言える。
しかし皮肉にも同じ日に、史緒は父親から会社の倒産と破産を告げられるだった。そこで彼女はイタリア留学を賭けたコンクールへ出場することにするのだが、その会場で萌と再会する。萌は本番前の史緒に、彼女のトラウマを掘り起こす言葉を投げかけるという卑怯な手段で優勝を手にするのだった。ちなみに物語上の結果はともかく、2人の歌唱シーンには驚かされた。ステファニーは現役の歌手だからある意味当然とも言えるが、このオペラシーンは満島ひかりも実際に自分で歌っているのだそうだ。そして何より素晴らしいのは、全てにおいて対照的な2人がこの歌唱シーンを見るだけで、少なくとも歌に対する想いだけは等しく真摯であることが伝わって来るのである。
さて、この2人と深く関わってくるのがコンクールの主催者であるレコード会社副社長の神野隆(及川光博)だ。当然ながら神野もセレブであり、史緒とは旧知の間柄だった。しかしそもそも萌に対して「成功の秘訣を教えてあげようか。どんなにみっともなくっても与えられたチャンスに食いつく事、その道の一流の裏と表を知ること。」と言ったのは彼であり、それを実践した結果がこのコンクールだったのである。物語ではこの神野を含めた3人の微妙な恋愛感情も描かれてゆくことに…。それにしてもクールで知的でキザな役をやらせたら今日本で及川光博の右に出る者はいないだろう。ステレオタイプなセレブイメージに彼なりの引き出しから時々に合ったものを出して特徴付けてゆくのが上手い。
このあと、史緒と萌が2人とも池之端菜都子(高島礼子)がママをつとめる銀座のクラブで、それぞれラウンジシンガーとホステスとして働き始める。客観的に観れば出来過ぎだが、物語の展開に無理なく納められているのでまるで気にならない。這い上がりのし上るためならチンケなプライドなどかなぐり捨ててどんな手段でも使う萌と、その育ちの良さゆえにプライドを捨てられず、最後の一歩が踏み出せない史緒。その2人の差が一番出たのがこのクラブでの歌唱シーンだ。お高くとまった彼女の歌を客は聴こうとしないのだが、萌の歌には聴き入る。要するに自分のために歌うのか、客のために歌うのかという違いなのだろう。といっても、映画的にはどちらの歌も素晴らしく聴き入ってしまうのだが…。
お互いに決して相容れない熾烈な女の戦いは、下手な男同士の争いよりも陰湿な部分が際立つ。ところがこの2人、デュエットさせると完璧なハーモニーを聴かせてくれるのだから解らないものだ。相手を大嫌いだと公言してはばからないのに、こと歌に関してだけは渋々ながらも認め合っている…つまり本当のプロフェッショナルは馴れ合いの中からは生まれないのかもしれない。これで結局2人が仲良くなってお終いならば予定調和すぎるのだが、この2人、良い意味で最後まで反目しあうのが逆に心地良いラストだった。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:満島ひかりの多才さにビックリ!
総合評価:80点
作品情報 |
| 固定リンク
最近のコメント