ビースト・ストーカー/証人
あの瞬間、運命は交錯し全ては始まった |
あらすじ
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『密告・者』で哀しい男の生き様を見せてくれたニコラス・ツェーとニック・チョン、そしてダンテ・ラム監督の3人が再び集結して贈る香港ノワール・サスペンスだ。内容的には全く違うので比べるつもりはないのだが、『密告・者』では刑事をやっていたニック・チョンが今回は殺し屋、密告者として犯罪者の中に入り込んでいたニコラス・ツェーが今回は刑事役とまるで攻守逆転になっている。若いけれどやり手の刑事トンはとある事件で護送中に逃走した犯罪者のボスを追跡する。2台の車はその車体をぶつけ合いながら交差点を通過しようとするのだが、そこへ猛スピードで別の車が突っ込んでくるのだった。トンは横転した車から何とか脱出し、逃げ去ろうとする犯罪者の車に発砲する。
撃たれた車は壁に激突して停車、彼は何とか連中を確保することに成功するのだった。初っ端からスピード感溢れるカーチェイス、激突の衝撃感と一気に観ている者を惹き込む演出だが、この話にはまだ続きがある。トンがトランクルームから漏れる血に気がつきそれを開くと、何と中には彼の銃弾を受けた少女が…手術の甲斐なく彼女は死んでしまう。一体どういう展開になって行くのか全く先が読めない。何しろ少女は女性検事アン(チャン・チンチュー)の娘で、彼女は逃走していたボスの裁判の検事でもあったのだ。結論から言えばこの出来事自体は偶然だけれど、大きな意味でこの先起こる事件の序章として考えると必然だったのかもしれない。
不運としか言いようが無いけれど、トンは少女の死に責任を感じ心に大きな傷を負っていた。しかしよりによってそんな彼の前で、亡くなった少女の妹リー(ミヤオ・プゥ)が何者かに誘拐される。誘拐したのはホン(ニック・チョン)。犯罪組織の殺し屋で、件の事件で捉えられたボスを裁判で無罪にするために、アン検事に証拠隠滅をさせようとその娘を誘拐するように依頼されたのだった。ホンは左目が灰色で、右目も悪いらしい。会話の中から何かの破片が残っていること、そして徐々に視力が失われていっているらしいことが覗われる。更に彼の妻は意識はしっかりしているものの、体が全く動かせない。2人の顔は傷だらけで何かの事故に遭ったらしいことが解る。
実は私はこの顔の傷がトンの顔の傷と同じことから、おそらくは交通事故なのだろうとは思っていた。ただ何故そういう状態なのかは解らないし、そもそもそういう演出である意図を図りかねていたというのが正直なところだ。これはきっと誰でも思い至る“ひっかかり”なのだが、そんな想いとは裏腹に、誘拐されたリーを救い出すべく奮闘するトンの物語がテンポ良く展開されていくため、深く考える以前にそちらに見入ってしまう。携帯電話の短い会話であっという間に発信場所が特定できたり、トンの同僚である新が食事を買いに入った店で偶然ホンを見つけたり、リーが捕らわれている動画からいつの間にかその場所を特定したり…ちょっとご都合主義が過ぎるが、それ故展開も早い。
そしてやっとの事でリーを救い出すトンだったが、ホンとの本番対決はここからだった。ニコラスの魂の篭った演技からは、単に自責の念でリーを守りたいのではなく、彼が自分自身が立ち直るのにリーを必要としていたことが痛いほどに伝わってくる。一方のホン。彼は殺し屋にしては冷酷無比というよりやけに人間臭い。それは動けない妻の存在があるからなのはもちろんだ。一体どういうことなのだろう?という疑問が、即ち最初の“ひっかかり”に想いが回帰する実に上手いタイミングで全ての謎解きがされる。一番最初の交通事故でトンの車に突っ込ん出来た車、あれに乗っていたのがホンとその妻だった。更に短いシーンだが、ホンやその妻のこれまでの行動が納得できる姿が描かれる。
この運命の絡まりあいはあまりに複雑であり、不幸だったとしか言いようが無い。トン、ホン、アン、少女、ホンの妻…誰一人として悪いことはしていないのに、全員の運命があの交差点の事故で文字通り交錯したことで悪い方へと転がり始めてしまった…。物語だけ観ればハッピーエンドだが、哀しいハッピーエンドと言ったほうが良いかもしれない。ところで、トンは時々何も無いのに鼻血をだしていて、てっきり「実は体に異常が…」というパターンだと思っていたのだが、何でもなかったということなのだろうか?
個人的おススメ度3.5
今日の一言:『密告・者』の方が好きかな~
総合評価:72点
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