種まく旅人~みのりの茶~
農林水産省の風変わりな役人が主人公。大分県臼杵市に出向になった彼が危機に瀕したお茶農家を救う姿を描く。主演は陣内孝則、『FLOWERS フラワーズ』の田中麗奈。共演に吉沢悠、柄本明、石丸謙二郎らが出演している。監督は『ふたたび swing me again』の塩屋俊。地方の農政問題もからめた社会的ドラマの側面も見所の一つだ。 |
実直な、正に農業人間ドラマ |
あらすじ
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ちょっとイジワルな見方をすると、官僚すなわちお役人が叩かれている昨今、農林水産省のイメージアップのためにはまたとない作品とも言える(笑)主人公・大宮金次郎(陣内孝則)は農水省の官房企画官。何となく聞こえが良い肩書きではあるが、農家に肩入れしすぎる彼は官房長に嫌われており、それがたたって大分県臼杵市の農政局長に左遷栄転となるのだった。一方もう一人の主人公・森川みのり(田中麗奈)はデザイナーの仕事をリストラされ、自分を見つめ直す旅に出かけるのだが、母親の頼みで祖父の家に立ち寄ることにするのだった。祖父の修造(柄本明)は有機栽培のお茶農家だ。偶然にも金次郎と修造は元々知り合いで、その縁でみのりと金次郎は知り合うことになる。
本作は簡単に言うと、病気で倒れた修造の代わりに、金次郎の指導のもとでみのりが茶畑の面倒を見て、お茶が出来上がるまでを描いた物語だ。何やらどこかで似たような話を聞いた気がしたのだが、状況はちと違うものの「夏子の酒」とよく似たパターンと言える。更に言うならば大宮金次郎はみんなから“金ちゃん”と呼ばれているのだが、これは正に遠山の金さん=遠山金四郎だ。何故なら市役所の農政局長という、いわば市の農政を司るTOPでありながら彼はその身分をかくしてみのりの手伝いをするのである。しかもご丁寧にメガネをかけて変装し、市役所農政課の職員・木村卓司(吉沢悠)の目まで誤魔化して。結論から言うと最終的には金さんてきなカタルシスが待っている。
余談だが静岡出身の私にとって茶畑はとても日常的な風景であり、お茶作りの過程もそれそのものが珍しいとは感じない。ただ有機栽培によるお茶作りは、正に自然に人間が寄り添い、自然の力強さを信じ、お茶の木がもつ本来の生命力を引き出すべくもので、そのための苦労には頭が下がる思いだ。ただ本作は単なるお茶作りの物語ではない。田舎のリアルな人間関係だったり、農政の問題点などもさりげなく描かれていた。例えば都会ではまず参加しない婦人会や青年会といった寄り合い、田舎の人間関係は面倒ではあるけれども、共同体としての結びつきの強さは、いざと言う時の人に対する思いやりや絆に繋がってくる。また、大きな企業が地場に持つ力の長短というものも見える。
大企業が地元に雇用を創出し、作ったものが名産品として売れれば地元の振興に繋がるワケで、それ故に役所はとかくそういった名士に弱い。しかし手間はかかっても工業生産品とは異なる田舎ならではの人の温もりを感じさせる生産品、それを学校給食に導入することで子供たちに自分たちの住む土地に対する愛着や、誇りを持ってもらおうとすることが町の振興に繋がるという考え方も当然ありだろう。どちらも目的は同じだ。政治と行政はそこのバランスを上手く取る必要があるのだが、そのあたりを金次郎=金ちゃんと市長(寺泉憲)=将軍の2人が上手い手綱捌きを見せてくれるのが実に気持ちよかった。さて、物語ではお茶栽培に悪戦苦闘しながらみのりは自分が見落としていたに気付いてゆく。
即ち、表面上の格好良さだけを追いかけ、その裏に潜む努力に目を向けなかったことを悟るのだ。お茶作りはかけた手間に対して正直な答えが返ってくる。しかしそれは何もお茶作りに限ったことではない。無事お茶が出来上がり、金次郎は東京へと呼び戻されるのだが、意外なオチが待っていた(笑)ところでこの作品だがシリーズ化を目指しているのだろうか?“種まく旅人”は汎用性のあるタイトルだし、その後ろの“○○の××”の部分を変えるだけでいくらでも作れそうだ。日本各地へ金次郎が出向し、その土地その土地でもう一人の主人公と出会う、農業をテーマにしたシリーズ作品。今までにあまり無い形でのご当地映画としても成立すると思う。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:陣内さんのキャラがいいです♪
総合評価:71点
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