ある秘密/Un secret
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これが今まで公開されなかった不思議 |
あらすじ
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「映画の國名作選V フランス映画未公開傑作選」で公開された3本の内の1本。全く何の予備知識もなく鑑賞したのだが、本作は何故今まで日本で公開されなかったのが解らないほど素晴らしい作品だった。監督は私の大好きなシャルロット・ゲンズブールの名作『なまいきシャルロット』や『小さな泥棒』のクロード・ミレール。残念ながら監督は今月4月4日にお亡くなりになられ、本作が遺作となってしまった…。観始めて直ぐに俳優陣の豪華さに驚く。物語はフランソワという少年の目線で描かれていくのだが、ナレーションを担当し物語全体の進行役をこなしつつ大人になったフランソワを演じているのが『007/慰めの報酬』、『潜水服は蝶の夢を見る』など日本でも人気のマチュー・アマルリックだった。
更にそのフランソワの母親タニアを演じているのは『少年と自転車』や『ヒア アフター』のセシル・ドゥ・フランス、そしてフランソワの父親の元妻アンナを『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』や『引き裂かれた女』のリュディヴィーヌ・サニエが演じている。3人とも、特に男の私としてはお気に入りの女優2人が出演しているとあって、これだけでもう観て良かった感で一杯になってしまう(笑)ストーリーはフランソワ少年がある日見つけたぬいぐるみをきっかけにし、両親に隠された“ある秘密”を知ることになってしまうという流れだ。それ故に物語は3シチュエーションで展開する。1つはもちろん現代のフランソワで、このシチュエーションだけはモノクロで描かれていた。
最初は単純に解りやすくて良いなと思う程度だったが、物語が進むにつれてふと気がついた。しかしそれは後述したい…。もう1つは当然ながらフランソワの子供の頃のシチュエーションだ。基本的に前半はこの部分が長い。父マキシム(パトリック・ブリュエル)は体操の選手、母タニアはモデルで水泳選手という血筋ながら明らかに虚弱な彼の姿はとても異質に映るし、それ故に彼がスポーツ万能の兄という幻影を作り出すことは子供としては無理からぬことだと感じてしまう。ところが、それが単なる子供の妄想ではないということが解るのだ。それが描かれているのが3つ目のシチュエーションだった。そしてそれこそが“ある秘密”即ちフランソワの両親の過去なのである。
フランソワは自宅の前でマッサージ店を経営する女性ルイズ(ジュリー・ドパルデュー)からその話を聞かされる。実は父マキシムはタニアの前にアンナという女性と結婚していたし、タニアも同様に結婚していた。ところが結婚式に訪れたタニアにマキシムはあろう事か一目惚れしてしまうのだ。美しい新婦を傍にタニアを見つめる視線。運命の出会いだったのかも知れないが、この後も2人が出会うたびにこのまとわり付くような視線を見sることになる。言葉では一切何も言わないパトリック・ブリュエルの目だけの演技が素晴らしい。しかも妻役は天下のサニエ嬢だ。確かにセシルはハッとするほど美しいけれど、これはもう観ている方も心穏やかではいられないジリジリするような演出だ。
観ている方がそう気付くぐらいなのだから当然アンナも気付くことになる。この絶妙な距離感の三角関係だけだと単なる不倫物語に過ぎないのだが、問題は彼らがユダヤ人だったということ。この頃ナチスドイツのホロコーストは苛烈さをまし、彼らが住むフランスにもその波は押し寄せる。よもやまたしても“ヴェルディヴ事件”かと思いきやそうではなかった。簡単に言えば、フランスを脱出しようと準備万端整えていたにも関わらず、先に脱出していた夫の元にタニアが先に到着していたことを知った彼女は、職務質問してきた警察官に自らと息子がユダヤ人であることを話してしまうのだ。当然の事ながら彼女は捕らえられ収容所へと送られ命を落とすことに…。
生きるチャンスがありながら、自らそれを放棄し、まるで夫マキシムへの復讐をするかの如きアンナの行動は、あまりにも切な過ぎる。それもマキシムがこよなく愛した息子をも道連れに。愛がなければ生きられない。しかしアンナに他の選択肢はなかったのだろうか…。最初に現代のシチュエーションについて書いたが、そもそもフランソワの目線で描かれたのが本作である、つまり現代がモノクロということは、大人になったフランソワが今生きている世界がモノクロなのだ。明かされた真実、その重みを考えると、少年の世界が鮮やかなカラーからモノクロに変化したとて無理もないことだと思える。いわゆるよくあるホロコーストを描いた作品とはまた一線を画した秀作だ。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:あとの2本は寝たw
総合評価:80点
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