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2012年5月 5日 (土)

ル・アーヴルの靴みがき/Le Havre

Photo フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督がフランスの移民問題をテーマに描くヒューマンドラマだ。ひょんなことから不法移民のアフリカ人少年を匿うことになった主人公は近所の人々と協力して彼をロンドンに送るべく奮闘するのだが…。主演はアンドレ・ウィルム、共演にカティ・オウティネンほか。
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庶民の優しさと強かさが小気味良い

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キャッチコピーの「心をみがけば、奇跡はおこる。」は一体どういう意味?と思っていたのだが、なるほど観終わってみるとそのまんまだったことが解った。予告編を観て、アフリカからの密入国者の黒人少年を主人公の男性が匿うらしいということは解っていた。フランスの移民問題を扱った作品と言えばフィリップ・リオレ監督の『君を想って海をゆく』が記憶に新しいのだけれど、テーマが同じ割には、思っていたのと違ってずっと軽やかな印象の作品だ。フランスはノルマンディー地方にある港町ル・アーヴル、ここで靴磨きをしているのが主人公マルセル・マルクスアンドレ・ウィルム)だ。決して裕福ではない。それどころか近所のパン屋や八百屋にはツケが堪りすぎて嫌な顔をされている。

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無論金儲けだけならば他にも仕事はあるはずだが、彼は「靴磨きと羊飼いが一番人々の身近にいられる仕事」とむしろ誇りに想っているのだ。こんな彼だからこそそこから描かれる物語が成立する。ある日、彼は密入国して逃走した黒人少年イドリッサ(フロンダン・ミゲル)と出逢うのだった。近くを通りかかったモネ警視(ジャン=ピエール・ダルッサン)に声をかけられたため、その場では適当に誤魔化すマルセル。しかしこの後彼はその少年イドリッサ(フロンダン・ミゲル)を匿い、彼の母親がいるロンドンへと送り出そうとするのだ。同じ日、マルセルの妻アルレッティ(カティ・オウティネン)が体の異常を覚えて病院に入院する。詳しくは語られないが末期がんとでもいったところだろう。

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実はアルレッティは医者にもう手の施しようがないことを告げられる。奇跡が起こるかもという医者に対して「うちの近くでは起こったことはないわ」と切り返すセリフ、この辺りに庶民の力強さや逞しさが見てとれて面白い。そんな庶民の強かさはこの後も描かれ続ける。マルセルが自宅で密入国少年を匿っていることを知ったパン屋のイヴェット(イヴリヌ・ディディ)や八百屋のジャン=ピエール(フランソワ・モニエ)は、店の売り物を持っていってくれとばかりに彼に渡すのだが、最初の嫌いっぷりからするとあまりの変わりようが可笑しくて仕方ない。他にもバーの店主クレール(エリナ・サロ)やマルセルの仕事仲間チャング(ゴック・ユン・グエン)も彼の味方をする。

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マルセルはイドリッサの家族の行方を捜すために自腹で難民センターを訪れたり、渡航費用を稼ぐべくコンサートを企画したりしながら合間に妻を見舞うのだが、彼女が不治の病だと知らないせいもあって、その比重は明らかにイドリッサにかかっていた。ここもユニークなのだが、彼以外のご近所さんはみな彼女が余命幾ばくもないことを知っているため、余計彼に同情的で協力するという構図だ。いずれにしても、正に“困った時はお互い様”を地で行くような近隣住民同志の絆の深さがイキイキと描かれているのが心地良い。そんな中で微妙なポジションなのがモネ警視である。彼は地域住民ではないし、階級が示すとおり警察の中でも上級かつキレる人間である。

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モネ警視は恐らく最初に出会ったときからマルセルがクサイと睨んでいたのだろう。表立って言わないもののそれとなく彼に忠告をする。そんな彼の人間性の証となるのが彼が好んで飲んでいたカルヴァドスや物語の最初の方で注文していた2005年産のワインだというのは考え過ぎだろうか。カルヴァドスはノルマンディ地方の特産品でリンゴから作られる蒸留酒であり、港町ル・アーヴルは2005年に世界文化遺産に登録されている。要するに彼とてもこの地を愛する一人の人間であり、この街の人間たちが持つ人情味を同じく兼ね備えているということをカウリスマキ監督はちょっとした演出で表現しているのではないか…。結論から言うとラストでモネ警視はイドリッサを匿う。

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さて、キャッチコピーにある奇跡だが、これはもう言うまでもなくアルレッティの事だ。全てが終わってマルセルが病院に見舞いに行くと、いきなり彼女は全快している(笑)奇跡が起こるにしてももう少し何とかと思わなくもないが、それはもう何の予兆も一切見せずに治ってしまう。まるで病気が治ったというよりは、最初から病気など無かったことにしてしまったかのようだ。このある種ファンタジックな結末はもちろん賛否両論ありそうだが、カウリスマキ監督が温かい眼差しで描いたこの作品の流れの中では、それだっていいじゃないかと自然に思えてしまった。ちなみにマルセルの愛犬ライカは監督ご自身の愛犬だそうで、祖母がパルムドッグ賞を獲得した血筋だそうだ(笑)

個人的おススメ度3.5
今日の一言:こんな形のアプローチもあるんだなぁ
総合評価:71点

作品情報
キャスト:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、ジャン=ピエール・レオ
監督:アキ・カウリスマキ
原題:Le Havre
製作国:2011年フィンランド・フランス・ドイツ合作映画
配給:ユーロスペース
上映時間:93分

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