キリマンジャロの雪/Les neiges du Kilimandjaro
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重なり合う2人の優しさが嬉しい |
あらすじ
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客観的に観れば出来すぎたお話しかもしれない。しかしこんなにも暖かく嬉しい気持ちで劇場を後にしたのは久し振り。人の悪意や憎悪が渦巻くことが多い昨今、映画の中とはいえこれほどまでに優しく思いやりを持った人がいたことが非常に嬉しい作品だった。舞台はフランス・マルセイユの港町。明るい日差しに穏やかな海という素晴らしく風光明媚な埠頭では厳しい面持ちの男たちが立ち並んでいる。主人公ミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)は箱から紙をひいては名前を呼び上げていた。実はこれ早期退職者をくじ引きで決めていたのだった。ミシェルは本来ならくじ引きの対象ではないのだが、それをよしとせず自らの名前を書いたくじも入れ、しかもそれを自ら引き当てていた。
リストラにあったことを妻マリ=クレール(アリアンヌ・アスカリッド)に告げるも、彼女は怒るでもなく優しく微笑みながらミシェルに誇らしげな眼差しを向ける。もうこの1シーンでこの2人がどれだけ深く理解しあっているのかが伝わってきた。2人の結婚30年を祝うパーティーでは、ミシェルとともにリストラされた社員やマリ=クレールの妹夫婦・ラウル(ジェラール・メイラン)とドゥニーズ(マリリン・カント)、さらにはミシェル夫妻の子どもたちも集まり、『キリマンジャロの雪』を合唱するとともに、そのキリマンジャロのあるタンザニアへの旅行と餞別を贈るのである。辛いことがあっても家族の絆は変わらず強く、明るく前に進もうとする彼らの姿が眩しくて仕方ない。
ところが…このプレゼントが思わぬ事態を巻き起こす。ミシェル夫妻とラウル夫妻が夜にカードゲームを楽しんでいるところに強盗が押入ったのだ。目的は旅行のチケットと餞別の金である。無論あのパーティーに参加していた誰かであることは直ぐに想像が付く。かくして数日後にひょんなことから2人組の犯人の内の1人が、ミシェルと共にリストラされた青年だったことが解るのだった。それにしても逮捕された青年に取調室で会わせてくれるとはフランスの警察はそこまで自由なんだろうか。それも刑事自ら「会いますか?」と水を向けて。もちろん小さな町の警察だろうし、ミシェルが見るからに小市民で、大それたことなどしないだろうと思ったのかもしれないけれど。
青年に侮辱されて思わず引っぱたいたミシェルをマリ=クレールは非難する。これにも少し驚いた。確かに怒りに任せて暴力を振るうのは、一時の感情に任せてミシェルを突き飛ばして怪我をさせた彼らと変わらない。しかしそうは言ってもミシェルたちは現実に被害者なのだ。ところがここから先、この程度ではない驚きが待っていた。ミシェルはその青年に年端も行かない弟が2人いることを知ると、彼に対する告訴を取り下げるのだ。これには義弟のラウルも激怒する。彼の妻ドゥニーズは事件の影響で精神が不安定になるほどのショックをうけて、日常生活に支障が出るほどであり、彼にしてみたら犯人など永久に刑務所にぶち込んでも飽き足らないほどなのである。
結局告訴は取り下げるものの、そもそも刑事事件で犯人が逮捕されている以上、今更ミシェルの思いとは関係なく青年は裁判にかけられる。更にマリ=クレールも青年の現実を知るや、ミシェルには内緒で弟たちの面倒を見始めることに…。そして何と最終的に2人は青年の弟たちを、彼が刑務所から出てくるまで引取ろうと決めてしまうのである。この姿を見て偽善と感じる人もいるかも知れないし、出来過ぎで説得力がないと考える人もいるかもしれない。正直言って浮世離れした話だと思うし、実際劇中で彼らの子供たちも呆れて反対していた。だが私は中途半端な善意を示すリアルな物語より、そして当然悪意が示される物語よりも、徹底して善意を貫く方がずっと好きだ。何より見ていて気持ちが良い。
マリ=クレールは看護学校を辞めてミシェルの妻になったことも、今回子供たちを引取ることを決めたことも、全て自分で決めたことでその人生を後悔はしていないし、むしろ「昔も今も自分の人生が好き」と言い切っている。結局人がどう思おうと関係ない、自分の気持ちに嘘をつかずに生きること、そしてその人生が善なる行為に重なる彼らの姿を見ていると、自然に歓びがこみ上げてきてしまった。ラストの防波堤でのシーン。図らずもミシェルとマリ=クレールの気持ちは一致する。それは最初にミシェルがリストラされて戻ってきた時と同じだ。夫の選んだ人生と妻の選んだ人生が自然に一致する、何と幸せなことだろうか。逆に言えば、真に人生を共有できる伴侶がいれば人は幸せな人生を送れるのかもしれない。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:フィルムで撮った映像が本当に美しくて…
総合評価:80点
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