道 ~白磁の人~
韓国を併合した後、朝鮮半島の荒廃した山々の緑化に尽力した実在の人物・浅川巧の半生を描いた人間ドラマ。主演は『種まく旅人 みのりの茶』の吉沢悠。共演に『ガールフレンズ』のペ・スビン、石垣佑磨、塩谷瞬らが出演している。監督は『禅 ZEN』、『BOX 袴田事件 命とは』の高橋伴明。浅川巧の生誕120年を記念した作品でもある。 |
何も特別なことをする必要は無い |
あらすじ
←みなさんの応援クリックに感謝デス
『禅 ZEN』、『BOX 袴田事件 命とは』の高橋伴明監督作品。今回は実在の林業技師・浅川巧の半生に迫る人間ドラマだ。浅川に関しては全く知識が無かった分、またしても映画で近代史を学ぶことになった。1914年、日韓併合から4年後に浅川は朝鮮半島に渡り、かの国の山に緑を甦らせようと奮闘する。本作では巧みがその仕事を通じて一人の朝鮮人と知り合い、それをキッカケに当時蔑まれていた朝鮮人の人々を理解し、その輪の中に入ろうと務める姿が描かれていた。まずは上映開始早々から日本軍の将校による傍若無人な振る舞いが映し出される。余りにステレオタイプなその描写と、それを演じているのが堀部圭亮ということもあって失笑気味のスタートだ(苦笑)
ただこの出来事が物語のもう一人の主人公とも言えるチョンリム(ペ・スビン)と出会いに繋がる。彼は巧と同じ林業試験所で働いているのだが、2人はこの運命的な出会いから親友になるのだった。チョンリムは朝鮮人としての立場や考え方を持ちつつ、しかし他の誰よりも巧のことを理解している。彼の心の葛藤も本作の見どころだ。前半で一番印象に残ったのは、「三・一独立運動」でそのチョンリムの友人チョンスが日本軍に撃たれて死んでしまい、さらにはそのあおりでチョンリムまでもが仕事をクビになってしまうシークエンス。チョンリムにハングルを学び、率先して彼の家族と交わり、さらには他の朝鮮人とも交流を図ろうとしてきていた巧にとってこの事件は大きなショックだった。
チョンリムのクビに対する抗議の意味で民族服パジ・チョゴリを着る巧。しかしそんな彼にチョンリムは言うのである。「自分だけが朝鮮人の味方のつもりですか?あなたに笑顔を見せるのはあなたが日本人だからだ。そうしないと何をされるのか解らないから。そんな服を着てもあなたは朝鮮人にはなれない。」と。相互理解は自らの立場(この場合は出自と言っても良いかも知れないが)と相手の立場を尊重し理解しようとすることから始まるはずだ。しかし良く陥りがちなのは相手の立場を尊重しているつもりが、自らを卑下していることにしかなっていないこと。特に日本人は謙譲の美徳で不要にへりくだる傾向があると思う。それは卑屈と受け止められかねない。
巧は自分でも無意識のうちに自分が日本人であることを恥じていたのではないか。当然の事ながら、民族服を着ようがどれだけ流暢にハングルを操ろうが巧が日本人であることには変わりないのだ。大切なのは日本人として朝鮮人を理解することであり、それは相手に伝わるまで地道に積み重ねていくしかないのである。実際には解らないが、物語の流れとしてはその一つの現われとして白磁を集めた「朝鮮民族美術館」の建設話が持ち上がる。巧たちは、朝鮮では二束三文で売られている磁器に美術品としての優れた価値を見出したのである。主体となったのは柳宗悦(塩谷瞬)という美術学者だが、そこに巧と巧の兄・伯教(石垣佑磨)が加わることに。
白磁は日常使いの磁器であって特別なものではなかった。しかしだからこそ朝鮮人そのものと言っても良い存在であり、そこにある美を認めることは、朝鮮文化や朝鮮人そのものを理解し認めることに繋がるのである。このほかにも巧は身の回りの朝鮮人に対して少しづつできる範囲で交流を深めていく。それは別に特別なことではなく、例えばじゃがいもをちょっとだけ高く買ってあげたり、子供たちにお年玉を上げたりといった、本当に他愛も無いものだった。そんな巧とは対照的にチョンリムの方は自らの息子が抗日独立運動に参加したりと、その悩みは深まって行く。それにしてもこうした民族主義運動はそれが朝鮮であろうが日本であろうが、いやどの国であろうが本当に嫌になる。
相互理解を全否定するのは簡単だが、既に我々は関わってしまっている。お互いにお互いを否定しながら日常を営むことなど出来ない。国レベルでの問題があることと、人間個人レベルの問題は全く別なのは言うまでもないし、だからこそ私は竹島は日本固有の領土だと確信するれど、K-POPも好きなら韓国映画の素晴らしさも理解し認めている。話がそれたが、地道な交流を続けた巧が死に、その葬儀に際して多くの朝鮮人に棺を担がせて欲しいと訴えられるシーンは、我々がお互いに理解しあえることを示してくれた。正直いうと、映画作品としてはやや安っぽい演出が鼻につくところはある。ただ、その墓に「韓国の山と民芸を愛し、韓国人の心の中に生きた日本人、ここ韓国の土となる」とまで刻まれた日本人が居たことを知ることが出来たのは大きな収穫だった。
個人的おススメ度3.5
今日の一言:自分が気持ち良いように行動するさね
総合評価:68点
作品情報 |
| 固定リンク
最近のコメント