11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち
思想関係なし、近代史モノとして面白い |
あらすじ
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相変わらず若松孝二という監督はやりたいことを好きなようにやる監督だ。これだけ好き勝手やりながらも映画を作り続けられるのだから流石である。もっとも今回の舞台挨拶でも例によって「映画がヒットしないと次の映画が作れないから観て!」とアピールしていたらしいが、これは『キャタピラー』の時も言っていた(笑)さて、日本では数少ない個性派監督が今回テーマにしたのは三島由紀夫だ。それも「盾の会」創設から自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺するまでを描いている。個人的に三島由紀夫の文学には全く興味はなく書籍も一冊も読んでいない。ただ彼が割腹自殺を遂げた年に生まれた身としては、何か歴史の節目的な繋がりを感じる。ま、端的に言えばそれしか知識がないということだが。
三島由紀夫を演じたのは井浦新、急芸名ARATAだ。エンドロールで歴代の三島由紀夫を演じた俳優の名前が出るのにアルファベットはおかしいという理由で改名したという拘りようで、実際に見事な成り切りぶりだったと思う。まあ強いて言うなら筋肉ムキムキだった三島由紀夫に比べて井浦はどちらかと言えばヒョロッとした感じだったし、また太い眉毛に骨太な顔つきが、井浦になると割とアッサリとした造作になっているため、強烈な個性や意志の強さがやや弱くなっていたように感じる。序盤から中盤にかけては「盾の会」結成までの道のりが描かれていた。日本学生同盟の持丸博(渋川清彦)らが三島の元に集い、後に三島と共に自殺する森田必勝(満島真之介)も合流する。
近代史的興味としては非常に面白く観ていたが、森田が日学同を代表して義理で参加していたはずがいつの間にか三島に心酔してしまうその過程をもう少し見たかった。何しろ唯一三島と道を共にする、というより観ている限りではギリギリの線で悩んでいた三島を最終的に決起に走らせたのは彼なのだ。ソコまでの繋がりになるためにはそれ相応の理由があるだろうと思うのだ。森田必勝役の満島真之介はあの満島ひかりの弟。本作が映画デビュー作だが、あの姉にしてこの弟あり。まるで狂気に取り付かれたかのごとく一途に三島に心酔する憂国の烈士の姿は時として井浦を超えていた時すらあった。「盾の会」は憲法を改正し、自衛隊を国軍として認めさせるべく活動を始める。
観ていて印象に残ったのは三島が自衛隊に体験入隊したシークエンスと、東大全共闘との討論会のシークエンスだ。体験入隊の際には自分を作家・三島由紀夫としてではなく、平岡公威として扱って欲しいと言いながらも指示もないのに勝手に走りに行ってしまったり、訓練後は上官たちを接待してみたり、結局は大作家でインテリである自分から抜け出せていない姿が見受けられて違和感を覚える。(無論実際にこの通りだったのかは解らない。あくまでも映画から感じたことだ。)東大全共闘との討論は実際に映像が残っているが、これも観ている限り学生に論破されて苦しい展開。もっとも神は天才的な文章力を与えた代わりに、弁論の能力は与えなかったのかも知れないが。
<三島由紀夫vs東大全共闘> |
10・21国際反戦デー闘争が警察によって鎮圧されたことで、三島は自衛隊が治安出動し、それをもって憲法改正→自衛隊の国軍化の流れを実現することがもはや不可能になったことを悟る。かくして三島たちは「盾の会」単独でクーデターを起こし、自衛隊を巻き込んでその目的を達成しようという方向に舵を切ることになるのだった。専門的なことは私には解らないが、自衛隊を国軍化して左翼勢力から日本を守ろうとする思想はこの当時であったとしても世間一般に広く理解されたとは思えない。三島や森田、古賀たち5人は白塗りのコロナに乗って市ヶ谷駐屯地に向かうのだが、小さな車内に制服姿の5人が納まる姿は実に窮屈そうで、まるで孤立した彼らの存在そのもののように見える。
そして総監室で東部方面総監を人質にとり、集められた自衛官を前にして有名な三島の演説が始まる。三島が再三「静聴しろ!」と怒鳴っているにも関わらず、まるで誰も聞いていないかのようなあの状況にはさすがに哀れを催した。これでは完全にピエロだ。あおり気味に撮られた映像は本当の映像と同様で、演じている井浦の熱演が光る。ただ言っていること自体はもはや演説になっていないと感じた。切腹シーンは井浦乾坤一擲の芝居だった。震える表情、今にも目が飛び出さんばかりの力の入り具合は、切腹とはこういうものなのかと思わせるほどだ。世の中の全てに受け入れられなくても己の信念に準じて文字通り命まで賭ける、それが良いとか悪いとかは私には言えない。
<演説映像> |
<演説音声> |
また、人によっては狂人が一人馬鹿なことして腹かっさばいたとしか受け止められないかもしれないし、或いは神格化して語られるのかもしれない。ただ、日本を憂えるこんな人もいたのだということは心に刻み付けておくべきだと思う。ところで若松孝二監督と言えば強烈な反戦意識を持っている監督だ。その人がともすれば戦争すら肯定しかねない自衛隊の国軍化を夢見た三島を映像化するのはどうしてだろう。と思ったらインタビューでは連合赤軍で左を撮ったから右も撮らなきゃと冗談めかして語っておられた。三島が切腹に到るまでの過程の真実、そこに迫りたかったという監督の考えにはとても共感できる。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:次は731部隊を撮りたいのだそうな
総合評価:75点
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