ユナイテッド-ミュンヘンの悲劇-/United
イングランドのみならず、世界的な名門サッカーチーム、マンチェスター・ユナイテッドを襲った“ミュンヘンの悲劇”と呼ばれる飛行機事故からの復活を描いたスポーツドラマ。出演はデイヴィッド・テナント、ジャック・オコンネル、ダグレイ・スコットら。監督は本作で映画デビューを果たしたジェームズ・ストロング。単なるサッカーチームではない、歴史の、人々の想いの重さが感じられる。 |
ユナイテッドが背負う歴史と伝統と命 |
あらすじ
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“赤い悪魔”と呼ばれイギリスはもとより世界中で最も人気があるサッカーチームの一つであり、創立から今年で144年を迎える名門中の名門、それがマンチェスター・ユナイテッドFC(以下マンU)だ。来期より日本人プレイヤー香川真司がプレーすることで知った方も多いのではないだろうか。本作はそのマンUを襲った“ミュンヘンの悲劇”と呼ばれる飛行機事故からの奇跡の復活劇を描いた作品である。ただし、単に悲劇から立ち直る選手やスタッフの感動物語ではない。サッカーがどれだけ人々の生活の中に文化として根付いており、マンUがどれだけ地元マンチェスターの中で重要な存在であり、連綿と続く歴史と伝統を背負って今があるのだということを実感させてくれる作品なのだ。従って事故のシーンは物語りも半分近くまで出てこない。物語の主人公はジミー・マーフィー(デイヴィッド・テナント)、チームのコーチである。
名将マット・バズビー(ダグレイ・スコット)の右腕としてマンUの1950年代の黄金期を築いた人物だ。彼に見出されたのが後にイングランド史上最高の選手と言われるボビー・チャールトン(ジャック・オコンネル)で、物語は若かりし彼の成長と事故そして復活の道のりと重ねて語られていた。余談だが、ボビーは未だ存命(74歳)で、“サー”の称号を受けている。序盤ではボビーはスタメンを勝ち取れず、しかしジミーの指導や、天才プレイヤー、ダンカン・エドワーズに励まされて成長して行く。初めてスタメンに抜擢された試合で2得点の活躍をしたボビー、チームメイトやジミーに祝福されるその姿は、このチームが如何に家族同然の仲間だったのかを描き出していた。相手チームに対して挑発的な言葉を投げ、闘志満々で試合に臨むその姿は、まさしく労働者の町マンチェスターのクラブチームの選手らしくていい。
本拠地オールド・トラッフォードは現在も使用され、チーム同様世界で最も有名なスタジアムの一つだ。そこに集まった8万人の熱狂的なサポーターは正に12人目の選手。スタジアムの佇まい重厚感、人々の想念のようなものを感じさせられ感動してしまった。ところで、この時の若手選手たちは監督バズビーの名前からバズビー・ベイブズ(Busby Babes)と呼ばれていた。現代日本風に言えばバズビー・チルドレンといったところか。演出的にはこの最高に楽しいいわば絶頂期があるからこそ、後の事故のショック、そしてバズビー・ベイブズの末っ子ボビーが受けたショックの大きさが際立つことになる。ある日、FA(フットボール協会)のハーデイカーがバズビーの元を訪れ、マンUが参加を決めていたUEFAチャンピオンズカップ(現・チャンピオンズリーグ)への参加禁止を告げるが、バズビーは其れを無視する。
この辺の歴史は欧州サッカー界の歴史をちょっと知っていると理解しやすい。簡単に言うとサッカー生誕の地であるイングランドのサッカー協会は世界で唯一FA(THE FA)、即ち国名をつけないままのフットボール協会という名を名乗っている。その創立はFIFA(国際サッカー連盟)よりも古く世界最古であり、UEFA(欧州サッカー連盟)はそのFIFAの下部組織だ。要するにFAはUEFAの開催する大会などより自国のリーグを上に見ていた。悲劇の要因は往々にしてほんの些細な出来事にある。ミュンヘンの悲劇もこのつまらない対立がもたらしたといってもいいだろう。チャンピオンズカップの試合があるため、リーグ戦の日程を調整して欲しいと頼んだバズビーの要請をハーデイカーは聞き入れなかった。この結果、何としても試合に間に合うように帰国するためにマンUはチャーター機を用意することになったのだ。
かくしてマンUはチャンピオンズカップ準々決勝でユーゴスラビアのレッドスター・ベオグラードと戦うために現地へと赴く。余談だがレッドスター・ベオグラードは、ピクシーの愛称でJリーグでも活躍し、現名古屋グランパスエイト監督ドラガン・ストイコビッチが所属していたチームだ。話を戻す。ユーゴスラビアからの帰途、給油に立ち寄ったミュンヘンでついに悲劇は起こる。2度離陸を取りやめ、待合室と飛行機を言ったりきたりする姿からは、刻一刻とその時が迫ってきている雰囲気が伝わってきた。もしあの時飛行機を遅らせていたら、もしあの時飛行機に乗らなかったら、歴史の“if”は空しいけれど、このシークエンスの選手たちやバズビーの表情を観ているとそう思わずにいられない。事故で亡くなったのは乗員・乗客44名のうち23名。ボビーは奇跡的に生き残るのだが、そのショックは大きく、サッカーをやめる決意を固めるのだった…。
棺が安置された場所を警察官が警護するのだが、訪れたジミーに対してチームへの愛情を吐露し、涙を流している彼らの姿がとても印象的だった。まさに彼らにとっても選手は家族同然の存在と言っても良いのだ。ジミーはチームを閉鎖しようと言う理事会に反発し、何としてもチームを再建しようと一人奮闘する。彼の熱い魂はサッカーへの、チームへの愛情そのものだ。一方ボビーは自らが捨てたはずのサッカーボールを路上で蹴って遊ぶ子どもたちの姿をみてサッカーへの情熱を思い出す。繰り返しになるがマンチェスター・ユナイテッドは単なる一サッカーチームではない。選手・スタッフ・サポーターの熱い魂、無念にもミュンヘンで散って行った尊い命、そうした過去全てを背負った集団なのだ。実は本作では試合のシーンは全くない。それは試合そのものではなく、チームそのもの、人間ドラマを描きたかったからに他ならない。来期からそこに日本人プレイヤー香川真司が加わる。本人はもとより一人のサッカーファンとして誇らしい。サッカーファンは必見の一作だろう。
個人的おススメ度4.5
今日の一言:日本だって100年後には…
総合評価:84点
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