グスコーブドリの伝記
宮澤賢治の同名童話を基にアニメーション映画化した作品だ。イーハトーヴの森で暮らすグスコーブドリは冷害で家族を失うものの力強く成長して行く。長じたブドリのまえに再び訪れる大寒波に彼はある決心をするのだった…。主人公の声を小栗旬、妹を忽那汐里ほか、草刈民代、柄本明、佐々木蔵之介、林隆三ら実力派俳優が担当した。監督は『豆腐小僧』の杉井ギサブロー。>>公式サイト
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原作と違う部分は多いけれど宮沢賢治の作品の世界観を大切にしていることが伝わってくる作品だったと思う。話のテーマは自己犠牲の精神や、人を想う気持ちといった極オーソドックスなものに加え、原発問題も含めた現在の環境問題も反映させていた。序盤はイーハトーヴの森に住むグスコー・ブドリ(小栗旬)と妹のネリ(忽那汐里)、父ナドリ(林隆三)、母(草刈民代)の幸せな生活が描かれる。小栗旬の声は直ぐに彼だと解ったが、それでもやはり芝居上手だ。聞いているうちにしっかりブドリとどうかし我々の耳に飛び込んでくる。他の家族の声を担当する俳優は正直言って全く気付かなかった。個人的にネリの幼い可愛らしさと忽那汐里の声はベストマッチ。ある時、森を大寒波が襲う。
飢饉で食べるものが亡くなった一家は簡単に言えばブドリを遺して皆亡くなったと言うことなのだろうが、劇中では両親は家を出て森に消え、妹ネリはコトリという謎の男に浚われてしまう。コトリは“子取り”ということだろうか…。このコトリは観ようによっては死神のようにも見えるのだが、物語後半では別の存在として登場する。それにしても家族全員を失った割りにブドリには悲壮感らしきものが全く見えない。いや、もしかしたら心の内に秘めているだけで、表に現さないだけなのかもしれないが。寒波の描写と相まって、岩手の農民が厳しい寒さにじっと耐える姿が脳裏に浮かんできた。ネリがコトリに浚われ、ブドリがそれを追いかけるシーンは彼が別世界へと足を踏み入れている様に描かれている。
コトリが死神だとするならば、もしかしたらブドリもこの時死にかけていたのかもしれないなどとも思ったのだが、ふと気がつくと彼はてぐす工場で働いていた。場面の転換が幻想的なシチュエーションでオーバーラップしているこの表現は、現実と夢の狭間が割とファジーに感じられる宮澤賢治作品のイメージに良く合っていると思う。工場を出たブドリは次に里に下りるのだが、オリザ畑で出会った赤ひげ(林家正蔵)の家にやっかいになりつつ畑仕事を手伝うことに。ちなみにオリザはお米の学名。このシーン、そもそも知らない子どもなのに家族同然に扱い、時に厳しく時に優しく接する赤ひげの姿が、昔の日本ではそこここで観られたいわば日本のコミュニティの原風景だと感じた。
ところがここにも寒波は襲ってくる。ブドリを雇えなくなった赤ひげは幾ばくかの餞別とともに彼を送り出す。この辺も昔の農村の厳しい現実を表してはいるが、表現としてはオブラートに包まれた柔らかい見せ方だった。この後ブドリはイーハトーヴ市へとやってくる。ここでも場面転換に幻想的なシチュエーションが使われるのだが、それが『銀河鉄道の夜』なのが嬉しいところだ。イーハトーヴ市の様子は近未来的で宮崎アニメのイメージを強く感じたのだが、レトロなSF風景は何故かしっくりと馴染む。ここでブドリはクーボ博士(柄本明)と出会い火山局に勤めることに。原作では潮汐発電になっているところを、敢えて地熱発電に変えてきたのには、昨今の再生可能エネルギー事情もあるのか。
物語のクライマックスは、ここまで襲ってきた寒波を防ぐために火山を噴火させて温暖化効果を引き起こすというものなのだが、この辺は現在の事情を鑑みるとやけに皮肉に感じてしまう。つまり火山の噴火が火力発電の割合を増加させている今の日本の姿に重なってしまったのだ。しかもブドリはその火山を噴火させるために我が身を犠牲にする決意をする。それはいわゆるハリウッド映画的なヒーローとしてではなく、集団のために自分を犠牲にすることに美徳を感じる日本的精神性に他ならない。変に情緒的にならずそれをある意味自然に描いてしまうところもこの作品の一つの魅力と言えるだろう。目で観る宮澤賢治作品集の最新作として楽しめる作品だ。
個人的おススメ度3.5 今日の一言:正直いって正蔵は…総合評価:70点
作品情報 キャスト :小栗旬、忽那汐里、草刈民代、柄本明、佐々木蔵之介、林隆三、林家正蔵監督 :杉井ギサブロー原作 :宮沢賢治監修 :天沢退二郎脚本 :杉井ギサブロー絵コンテ :杉井ギサブロー キャラクター原案 :ますむらひろし作画監督 :江口摩吏介音楽 :小松亮太主題歌 :小田和正アニメーション制作 :手塚プロダクション製作年 :2012年製作国 :日本配給 :ワーナー・ブラザース映画上映時間 :108分映倫区分 :G
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宮沢賢治原作の童話を映画化したアニメです。 大好きなアニメ「銀河鉄道の夜」の監督&猫のキャラクターと聞いて、公開を楽しみにしていました。 美しい映像と音楽、そして映し出される切ない物語に、心が揺さぶられるような作品でした。 ... [続きを読む]
受信: 2012年7月14日 (土) 00時09分
» グスコーブドリの伝記 [悠雅的生活]
寒い夏。オリザの成長。炭酸ガスの火山。 [続きを読む]
受信: 2012年7月14日 (土) 08時59分
» 「グスコーブドリの伝記」3大泣けるお話の結末 [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
私が息子の小さい時読んであげた絵本で、どうしても最後の1ページをめくる時に泣いてしまって、声も上擦ってちゃんと読めないものがあった。
その3大泣いてしまう絵本とは
「泣いた赤鬼」
「ごんぎつね」
そしてこの「グスコーブドリの伝記」
それがまた、こういう絵本に限って、何度も読んでほしいとせがまれるのだ・・・... [続きを読む]
受信: 2012年7月14日 (土) 10時43分
» 映画・グスコーブドリの伝記 [読書と映画とガーデニング]
2012年 日本
宮沢賢治の作品の中では
「なめとこ山の熊」「どんぐりと山猫」それと本作の原作「グスコーブドリの伝記」が好きです
キャラクター原案、ますむらひろしさんの「アタゴオル玉手箱」は我が家の家宝です
ならば、観に行くしかありませんね
イ...... [続きを読む]
受信: 2012年7月14日 (土) 14時19分
» グスコーブドリの伝記(試写会で) [みすずりんりん放送局]
『グスコーブドリの伝記』を観た。
【あらすじ】
イーハトーヴの森で家族と楽しく幸せに暮らしていたグスコーブドリ(声:小栗旬)は、冷害のせいで両親が出ていき、妹のネリ(声:忽那汐里)はコトリ(声:佐々木蔵之介)に連れて行かれてしまう。
たった一人残...... [続きを読む]
受信: 2012年7月14日 (土) 18時05分
» 「グスコーブドリの伝記」 [みんなシネマいいのに!]
実はこんなことを言うと自分のアホが露見するだけだけど、宮沢賢治の小説は、読みや [続きを読む]
受信: 2012年7月15日 (日) 08時23分
» グスコーブドリの伝記 [Said the one winning]
チェック:岩手出身の児童 文学作家、宮沢賢治の童話「グスコーブドリの伝記」を映画化したアニメーション。擬人化した猫をキャラクター化し、幼いころ、冷害で家族を失った主人公が 成長し、再び遭遇した冷害を必死に食い止めようとする姿に迫る。以前も宮沢の名作「銀...... [続きを読む]
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1985年に制作された『銀河鉄道の夜』と同じように、ベテランアニメーション監督、杉井ギサブローによる、宮沢賢治作品の劇場用アニメーションが『グスコーブドリの伝記』だ。
童話(小説)「銀河鉄道の夜」は、日本を代表する作家... [続きを読む]
受信: 2012年7月23日 (月) 07時53分
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イーハトーヴの森の木樵の息子として両親と妹と穏やかに暮らしていたブドリ(小栗旬)は、森を襲った冷害のため家族を失くし、ひとりぼっちになってしまった。それでもブドリは、生きるために一生懸命働き、やがて成長し火山局に勤めるようになる。そこに再び大きな冷害が...... [続きを読む]
受信: 2012年7月26日 (木) 22時29分
» 「グスコーブドリの伝記」感想 [流浪の狂人ブログ ~旅路より~]
宮沢賢治の自伝的童話を、「タッチ」の杉井ギザブロー監督、小栗旬主演(声)でアニメ映画化。 [続きを読む]
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受信: 2012年8月 3日 (金) 21時47分
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受信: 2012年8月 5日 (日) 00時22分
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