それでも、愛してる/The Beaver
オスカー女優、ジョディ・フォスターが監督・主演を務めた作品。玩具会社を経営するうつ病の夫が、ひょんなことから手にしたバービーのマペットでその症状が回復するかに見えるのだが、実はそれはより大きな苦悩の始まりだった…。夫役にこちらもオスカー俳優メル・ギブソン。共演にアントン・イェルチンとオスカーノミニーのジョニファー・ローレンスという豪華な俳優が出演している。 |
ある種の二重人格だろうか |
あらすじ
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『それでも、愛してる』という冴えないタイトルだが、原題を観ると『The Beaver』とある。ザ・ビーバー?ビーバーって前歯で木を齧って倒すあのビーバーか?…と観てみると確かにビーバーだった、ただしマペットの。玩具会社の社長ウォルター・ブラック(メル・ギブソン)はある日突然うつ病にかかり1日中寝ている生活を送っていた。彼のそんな生活に影響されて家族はバラバラだ。自分のせいで家族に迷惑をかけている…思いつめたウォルターは家を出るのだが、たまたま買い物をした時に車のトランクの中に茶色のぬいぐるみが目に止まる、それが“ザ・ビーバー”だった。嘘のようだが、彼がそのマペットビーバーを左手に嵌めると、ビーバーは勢いよく喋りだす。
一瞬“いっこく堂”か?と思ったら何のことはない、普通にメル・ギブソンの口は動いていた(笑)そう、ここからメルはビーバーとウォルターの一人二役をこなすことになるのだ。ところが不思議なことにビーバーが喋りだすとウォルターのうつ病の症状は嘘のように消えてゆく。一応ビーバーには人格があって、彼がウォルターの気持ちを代弁して話すということらしいのだが、当然その声は普通にメルのものだから聞いていて実に妙な感覚に陥るのが面白い。ちなみにウォルター自身はか細く小さな自信なさげな声で時々喋る。この風変わりな状況に妻メレディス(ジョディ・フォスター)や次男のヘンリー(ライリー・トーマス・スチュアート)はそれでも最初は喜んでいた。
ただ長男ポーター(アントン・イェルチン)だけは依然として父を嫌っているのだが…。ウォルターは必ずビーバーを通して会話をすることを家族や会社の人間に約束させるのだが、思えばこれは後々への伏線だった。ビーバーを通じてと言われても、他人から見たらウォルター本人が喋っている訳で、風変わりではあるけれど元々うつ病だったことを考えたら許容範囲に思ったとしてもおかしくはないだろう。こうして社会復帰?したウォルターの開発した新商品が大ヒットし、家族の仲も以前のように戻ってゆく。もちろんビーバー付きでだが…。メルの演技が見事だと思うのは、最初はビーバーとウォルターの2人が存在していたのが、徐々にウォルターの方がのっとられて行くように見えるところだ。
ポーターだけはそんな異常な状態に気が付いていた。これはには理由がある。彼は友人の学校の宿題であるレポートを有料で代筆していたのだが、単に代筆するだけでなく、まるでその人物に成りきって文章を書くことが出来るのだ。それだけではなく、実はポーターは父と自分が似ている部分を付箋紙に書き出して壁に貼っている。それは父に良く似ている自分が大嫌いだからだが、つまりポーターにだけは父が無意識の内にビーバーというもう一人のウォルターになりきっているだけだということが解っていたのだと思う。他にも彼は友達のノラ(ジェニファー・ローレンス)に卒業オスピーチの代筆を頼まれると、彼女が心に抱える悩みを見事に見抜いたりしている。
要するに彼は他人の本質を見抜く鋭い目を持っていたということなのだ。そんな彼からしたらウォルターの行為は単なる茶番でしかない。ウォルターとメレディスの結婚20年のディナーの最中、ビーバーに喋らせないように言われたウォルターは完全に元のウォルターに戻っていた。しかもそこにポーターとノラがタギングで警察に捕まったという報せが入る。大好きなノラの前で、しかも自分のせいで警察沙汰になってしまったという最悪の状況なのに、ウォルターがビーバーに喋らせたことで遂に家族は崩壊してしまう…。っと、この辺まではうつ病に苦しむ主人公と家族の葛藤の物語なのだが、ここからラストに向かっては何故かやけにホラーになってしまった。
即ち、ビーバーは乱暴な言葉でウォルターを家族から引き離そうとし、自分こそがお前の欲しがっていたものを手に入れてやったのだとまで言い始めるのだ。思い余ったウォルターはビーバー用の棺おけを作り、ガレージの電動ノコギリでバービーごと左手を切断してしまう。自分の意思ではもうビーバーを手から外せなかったのだろうが、切断するほどの覚悟があってもそう出来なかったということだ。うつ病患者の自傷行為は有名だし、それどころか発作的に自殺してしまう人も多い。ホラーに見えてしまうほどこの病気の苦しみが如実に描かれていたと思う。ラストで人の本質を見抜く目を持ったポーターが、ウォルターと和解したことは、つまりウォルターの病が癒えつつある証ではないだろうか。
個人的おススメ度4.0
今日の一言:えらいこっちゃ豪華な出演者や…
総合評価:77点
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